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第1章
第1話『2人の幼馴染』
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桐山あおい。
幼稚園の年長組のときに同じクラスになり、年度末に引っ越すまでの1年間一緒にいた幼馴染の女の子だ。
あおいが引っ越して以来、家族単位での年賀状をやり取りするくらいで一度も会ったことがなかった。まさか、10年経った今、あおいと再会することになるなんて。
「やっぱりあおいだったか。久しぶり。隣に引っ越してきたんだ」
「はいっ! 2月の下旬に、お父さんが東京へ転勤することが決まりまして。ですから、昔住んでいたこの調津にまた住むのがいいということになって。物件を探していたら、お隣が建売していたんです。その物件の住所から、涼我君の家の隣だと分かったので即決でした!」
「そうだったのか」
麻丘家の西側にある隣の家は、去年の年末に加藤さんという方が引っ越してから建売住宅となっていた。建売住宅となった直後は「今後、この家に引っ越してくる人がいたらどんな人だろう」と考えたこともあった。まさか、その家にあおいの家族が引っ越してくることになるとは。
「凄い偶然の重なりだな」
「お母さんもそう思ったわ」
「私は運命だと感じました!」
「確かに、運命とも言えるな。前は徒歩2、3分くらいのご近所さんだったけど、これからはお隣さんになるのか。またよろしくな、あおい」
「はいっ! よろしくお願いしますっ!」
そう言うと、あおいは俺に右手を差し出してくる。
再会の喜びとこれからまたよろしくという意味を込めて、あおいと握手を交わす。そのことで、あおいの手の柔らかさと温もりを感じて。このはっきりとした温もりが懐かしい。
「それにしても、涼我君……10年ぶりですから、以前に比べて背がかなり高くなりましたね」
「卒園のとき以来だからな。確か、去年の健康診断では……177cmだったかな」
「高身長ですね! 背丈は変わりましたけど、かっこいい顔立ちや綺麗な金髪は昔と変わらないですね。一目見て、成長した涼我君だと分かりました」
「そ、そうか」
そう言われると、顔をじっくりと見るまであおいだと気付けなかったことに罪悪感が。
「あおいは雰囲気が結構変わったな。背丈とか体つきはもちろんだけど、髪型もショートヘアから長髪のハーフアップになったし。あと、話し方も昔はタメ口だったけど、今は敬語だし」
「この話し方は小学2年生頃からですね。大好きなラブコメ漫画に出てくる生徒会長の女の子を真似たのがきっかけで。いつの間にか、誰にでも敬語で話すのが自然になりました」
「なるほどな」
漫画のキャラクターの影響か。分かるなぁ。俺もバトル漫画の主人公に影響を受けて、何度も必殺技の名前を詠唱したっけ。俺にはその必殺技を出せなかったけど。その様子を見られて愛実に笑われたけど。……あおいの話し方と同じ括りにしちゃいけないか。
「じゃあ、その髪型も何かのキャラクターの影響か?」
「いいえ。……小学4年生の頃でしょうか。髪が伸びたからそろそろ切ろうかなと言ったら、何人も友達が『長いのも似合っているよ』って言ってくれまして。それで、このくらいまで伸ばすようにしたんです。髪型も色々試してみて、ハーフアップが一番いいと思えて」
「そうなんだ。綺麗で素敵な女性になったね、あおい」
「……あ、ありがとうございますっ。涼我君も素敵な男性になりましたね」
あおいはニッコリ笑う。そんなあおいの頬はほのかに赤らんでいて。見た目の雰囲気はだいぶ変わったけど、この可愛らしい笑顔は10年前と変わらないな。
10年前の自分を知っている幼馴染から素敵な男性になったと言われると、嬉しくなるのと同時に感慨深い気持ちにもなる。
「あおい。久しぶりに涼我君と会えた?」
「挨拶できたか?」
女性と男性の聞き覚えのある声が聞こえてくる。この状況からして今の2人の声の持ち主は――。
「涼我君に会えましたよ、お母さん、お父さん。彼と智子さんには挨拶できました。竜也さんはお仕事で不在ですが」
やっぱり、あおいのお母さんの麻美さんと、お父さんの聡さんだったか。麻美さんと聡さんはあおいのすぐ後ろまでやってくる。お二人は大人だけあって、10年前と容姿があまり変わっていない。特に麻美さんは。懐かしいなぁ。
ちなみに、あおいの口にした智子は俺の母親、竜也は父親の名前だ。
「麻美さん、聡さん、お久しぶりです。涼我です」
「お久しぶりです」
俺と母さんがそう挨拶すると、麻美さんはとても明るい笑みを、聡さんは落ち着いた優しい笑みをそれぞれ見せてくれる。そんな笑顔も昔と変わらず、懐かしい気持ちをより大きくされてくれる。
「2人とも久しぶり!」
「お久しぶりです。10年ぶりですが、これからまたお世話になります」
「よろしくね。それにしても、涼我君イケメンになったねぇ! 小さい頃の面影もあるし! 背もこんなに高くなって。子供の10年は大きいわぁ。智子さんは変わらずお綺麗で!」
興奮気味にそう言うと、麻美さんは俺の頭を優しく撫でてくれる。10年ぶりに再会したのもあって、親戚の人に会ったような感じで言うなぁ。あと、母さんやあおいのいる場だから、頭を撫でられることがちょっと気恥ずかしい。
「あら、愛実ちゃんがいるわ」
「えっ?」
母さんがそう言うので外を見てみると……ロングスカートに長袖のブラウス姿の愛実がこちらを向いて立っていた。玄関にいる5人全員が愛実の方に向いたため、愛実は驚いた様子に。桐山家のみなさんがいるからか、愛実は軽く頭を下げてからこちらにやってきた。
「愛実、どうしたんだ? 俺の家の前に立って」
「リョウ君の家の方から、話し声がずっと聞こえていたから。気になって来てみたんだ。そうしたら、リョウ君と智子さんがこの方達とお話ししていたから、その場で立ち尽くす感じになっちゃったの」
「そうだったんだ」
玄関を開けた状態で話しているからなぁ。それにあおいは大きめの声で元気よく話すから、愛実の部屋まで声が届いたのだろう。
「あの、涼我君。こちらの女の子は? とても可愛らしい子ですし、リョウ君とも呼んでいますから……もしかして、お付き合いしている方ですか?」
「ち、違いますよっ! リョウ君の恋人じゃないです。お、幼馴染ですっ!」
顔を真っ赤にして、あおいからの質問に答える愛実。恋人なのかといきなり訊かれてドキドキしているのかな。俺もちょっとドキッとなったし。
「彼女は香川愛実。俺の幼馴染で、俺達と同い年だ。あおいが引っ越してから2ヶ月後に、俺の隣の家……あおいの新居からだと2つ隣の家に引っ越してきたんだ。あと、小学1年から高校1年までずっと同じクラスなんだよ」
「そうなんですか! 涼我君にこんなに可愛い幼馴染がいるなんて。茶髪が綺麗で。左の前髪に付けているハートの赤いヘアピンも似合っています!」
「ありがとう。あなたはとても綺麗な子だね。私は茶髪だから、長い黒髪を見ると本当に素敵だなって思うよ。青いヘアゴムで纏めたハーフアップの髪型も似合っているよ」
「ありがとうございますっ」
容姿について褒め合ったからか、2人の間にさっそくいい雰囲気が生まれている。
「……それで、愛実。アルバムを何度か見せたことがあるから覚えているかもしれないけど、彼女は桐山あおい。幼稚園の年長さんの1年間、一緒に遊んだりした幼馴染だよ」
「桐山あおい……あっ、思い出した。小さい頃のリョウ君の写真やホームビデオにいた黒髪の女の子。見た目の雰囲気が違うから気付かなかったよ」
「……俺もすぐには気付かなかった」
愛実が俺と同じだと分かって安堵する。そうだよな。見た目の雰囲気や髪型が変わっていたら、なかなか気付かないよな。
「初めまして、桐山あおいです。10年ぶりに調津に帰ってきました!」
「母の麻美です、初めまして」
「父の聡です。よろしくね」
「初めまして、香川愛実といいます。リョウ君……涼我君と一緒に調津高校に通っています。よろしくお願いします」
「調津高校ですか! 私も4月からは調津高校に編入するんです」
「そうなんだね」
調津高校は家から徒歩で6、7分のところにある。それなりの偏差値のある都立の進学校だから、ここから通うには一番いい選択だろう。
「あおいちゃんと同じクラスになれるといいな」
「ええ! 涼我君と愛実ちゃんと同じクラスになれたら嬉しいです」
「そうだな」
調津高校は1学年8クラスある。2年の進級時にはまだ文理選択はしないから、3人一緒に同じクラスになれる確率はかなり低い。
もし、同じクラスになったら、高2の1年間はとても楽しいものになりそうだ。
「それにしても、私と涼我君は幼馴染で、涼我君と愛実ちゃんも幼馴染ですか。ということは……私と愛実ちゃんも幼馴染ということになりませんか?」
何だよ、その「友達の友達は友達」みたいな理論。さすがに、あおいと愛実は幼馴染にはならないのでは。一度も会ったことないし。
ただ、あおいは「凄いことに気がついちゃいましたよ!」と言わんばかりのキラキラした笑みを見せている。そんなあおいとは対照的に、麻美さんと聡さん、母さんは「いや、そういうことにはならないだろう」と言わんばかりの苦笑いを浮かべている。
当の本人である愛実はクスッと朗らかに笑う。
「小さい頃に一度も会っていないからね。さすがに……幼馴染とは言えないかなぁ。でも、これから私達はいいお友達になっていけると思う。同い年の女の子同士だし、リョウ君の家の隣に住んで、リョウ君の幼馴染っていう共通点もあるから」
優しい笑顔を浮かべながら、優しい声色で愛実はそう話す。あおいの言葉にやんわりと否定しつつも、フォローする言葉もちゃんと言う。さすがは愛実。
愛実の言葉や笑顔が良かったのか、あおいは特にショックを受けている様子はなく、笑顔のまま頷いている。
「そうですね。愛実ちゃんとはいいお友達になれると思います。これからよろしくお願いします!」
「うん、よろしくね」
さっきと同じく、あおいは愛実に向かって右手を差し出す。
愛実は嬉しそうにあおいと握手を交わす。この様子なら、あおいと愛実はいい友人関係を築いていけるんじゃないだろうか。
麻美さんと聡さんは安心した様子であおいと愛実のことを見ている。10年ぶりに東京に戻ってきて、さっそく同い年の女の子と仲良くなれたからかな。
その後、あおいからの申し出で、俺と愛実はあおいと連絡先を交換。LIMEというSNSアプリもやっているため、さっそく3人でのグループを作成した。
「これでいつでも連絡できますね!」
「そうだな」
あおいと10年ぶりに再会できて、いつでもあおいと連絡できる手段が得られたことが嬉しい。
「あおい。もし、引っ越しの作業で手伝ってほしいことがあったら、いつでも連絡してくれ。俺、今日は特に予定はなくて家にいるからさ」
「私にも気軽に言ってね」
「ありがとうございます! そのときはよろしくお願いします」
あおいはニッコリと笑ってそう言った。あおいから手伝いしてほしいと言われたら、そのときは精一杯お手伝いしよう。
それから10分ほどで、桐山家の新居の前に引っ越し業者のトラックが停まる。こうして、桐山家の引っ越し作業が始まるのであった。
幼稚園の年長組のときに同じクラスになり、年度末に引っ越すまでの1年間一緒にいた幼馴染の女の子だ。
あおいが引っ越して以来、家族単位での年賀状をやり取りするくらいで一度も会ったことがなかった。まさか、10年経った今、あおいと再会することになるなんて。
「やっぱりあおいだったか。久しぶり。隣に引っ越してきたんだ」
「はいっ! 2月の下旬に、お父さんが東京へ転勤することが決まりまして。ですから、昔住んでいたこの調津にまた住むのがいいということになって。物件を探していたら、お隣が建売していたんです。その物件の住所から、涼我君の家の隣だと分かったので即決でした!」
「そうだったのか」
麻丘家の西側にある隣の家は、去年の年末に加藤さんという方が引っ越してから建売住宅となっていた。建売住宅となった直後は「今後、この家に引っ越してくる人がいたらどんな人だろう」と考えたこともあった。まさか、その家にあおいの家族が引っ越してくることになるとは。
「凄い偶然の重なりだな」
「お母さんもそう思ったわ」
「私は運命だと感じました!」
「確かに、運命とも言えるな。前は徒歩2、3分くらいのご近所さんだったけど、これからはお隣さんになるのか。またよろしくな、あおい」
「はいっ! よろしくお願いしますっ!」
そう言うと、あおいは俺に右手を差し出してくる。
再会の喜びとこれからまたよろしくという意味を込めて、あおいと握手を交わす。そのことで、あおいの手の柔らかさと温もりを感じて。このはっきりとした温もりが懐かしい。
「それにしても、涼我君……10年ぶりですから、以前に比べて背がかなり高くなりましたね」
「卒園のとき以来だからな。確か、去年の健康診断では……177cmだったかな」
「高身長ですね! 背丈は変わりましたけど、かっこいい顔立ちや綺麗な金髪は昔と変わらないですね。一目見て、成長した涼我君だと分かりました」
「そ、そうか」
そう言われると、顔をじっくりと見るまであおいだと気付けなかったことに罪悪感が。
「あおいは雰囲気が結構変わったな。背丈とか体つきはもちろんだけど、髪型もショートヘアから長髪のハーフアップになったし。あと、話し方も昔はタメ口だったけど、今は敬語だし」
「この話し方は小学2年生頃からですね。大好きなラブコメ漫画に出てくる生徒会長の女の子を真似たのがきっかけで。いつの間にか、誰にでも敬語で話すのが自然になりました」
「なるほどな」
漫画のキャラクターの影響か。分かるなぁ。俺もバトル漫画の主人公に影響を受けて、何度も必殺技の名前を詠唱したっけ。俺にはその必殺技を出せなかったけど。その様子を見られて愛実に笑われたけど。……あおいの話し方と同じ括りにしちゃいけないか。
「じゃあ、その髪型も何かのキャラクターの影響か?」
「いいえ。……小学4年生の頃でしょうか。髪が伸びたからそろそろ切ろうかなと言ったら、何人も友達が『長いのも似合っているよ』って言ってくれまして。それで、このくらいまで伸ばすようにしたんです。髪型も色々試してみて、ハーフアップが一番いいと思えて」
「そうなんだ。綺麗で素敵な女性になったね、あおい」
「……あ、ありがとうございますっ。涼我君も素敵な男性になりましたね」
あおいはニッコリ笑う。そんなあおいの頬はほのかに赤らんでいて。見た目の雰囲気はだいぶ変わったけど、この可愛らしい笑顔は10年前と変わらないな。
10年前の自分を知っている幼馴染から素敵な男性になったと言われると、嬉しくなるのと同時に感慨深い気持ちにもなる。
「あおい。久しぶりに涼我君と会えた?」
「挨拶できたか?」
女性と男性の聞き覚えのある声が聞こえてくる。この状況からして今の2人の声の持ち主は――。
「涼我君に会えましたよ、お母さん、お父さん。彼と智子さんには挨拶できました。竜也さんはお仕事で不在ですが」
やっぱり、あおいのお母さんの麻美さんと、お父さんの聡さんだったか。麻美さんと聡さんはあおいのすぐ後ろまでやってくる。お二人は大人だけあって、10年前と容姿があまり変わっていない。特に麻美さんは。懐かしいなぁ。
ちなみに、あおいの口にした智子は俺の母親、竜也は父親の名前だ。
「麻美さん、聡さん、お久しぶりです。涼我です」
「お久しぶりです」
俺と母さんがそう挨拶すると、麻美さんはとても明るい笑みを、聡さんは落ち着いた優しい笑みをそれぞれ見せてくれる。そんな笑顔も昔と変わらず、懐かしい気持ちをより大きくされてくれる。
「2人とも久しぶり!」
「お久しぶりです。10年ぶりですが、これからまたお世話になります」
「よろしくね。それにしても、涼我君イケメンになったねぇ! 小さい頃の面影もあるし! 背もこんなに高くなって。子供の10年は大きいわぁ。智子さんは変わらずお綺麗で!」
興奮気味にそう言うと、麻美さんは俺の頭を優しく撫でてくれる。10年ぶりに再会したのもあって、親戚の人に会ったような感じで言うなぁ。あと、母さんやあおいのいる場だから、頭を撫でられることがちょっと気恥ずかしい。
「あら、愛実ちゃんがいるわ」
「えっ?」
母さんがそう言うので外を見てみると……ロングスカートに長袖のブラウス姿の愛実がこちらを向いて立っていた。玄関にいる5人全員が愛実の方に向いたため、愛実は驚いた様子に。桐山家のみなさんがいるからか、愛実は軽く頭を下げてからこちらにやってきた。
「愛実、どうしたんだ? 俺の家の前に立って」
「リョウ君の家の方から、話し声がずっと聞こえていたから。気になって来てみたんだ。そうしたら、リョウ君と智子さんがこの方達とお話ししていたから、その場で立ち尽くす感じになっちゃったの」
「そうだったんだ」
玄関を開けた状態で話しているからなぁ。それにあおいは大きめの声で元気よく話すから、愛実の部屋まで声が届いたのだろう。
「あの、涼我君。こちらの女の子は? とても可愛らしい子ですし、リョウ君とも呼んでいますから……もしかして、お付き合いしている方ですか?」
「ち、違いますよっ! リョウ君の恋人じゃないです。お、幼馴染ですっ!」
顔を真っ赤にして、あおいからの質問に答える愛実。恋人なのかといきなり訊かれてドキドキしているのかな。俺もちょっとドキッとなったし。
「彼女は香川愛実。俺の幼馴染で、俺達と同い年だ。あおいが引っ越してから2ヶ月後に、俺の隣の家……あおいの新居からだと2つ隣の家に引っ越してきたんだ。あと、小学1年から高校1年までずっと同じクラスなんだよ」
「そうなんですか! 涼我君にこんなに可愛い幼馴染がいるなんて。茶髪が綺麗で。左の前髪に付けているハートの赤いヘアピンも似合っています!」
「ありがとう。あなたはとても綺麗な子だね。私は茶髪だから、長い黒髪を見ると本当に素敵だなって思うよ。青いヘアゴムで纏めたハーフアップの髪型も似合っているよ」
「ありがとうございますっ」
容姿について褒め合ったからか、2人の間にさっそくいい雰囲気が生まれている。
「……それで、愛実。アルバムを何度か見せたことがあるから覚えているかもしれないけど、彼女は桐山あおい。幼稚園の年長さんの1年間、一緒に遊んだりした幼馴染だよ」
「桐山あおい……あっ、思い出した。小さい頃のリョウ君の写真やホームビデオにいた黒髪の女の子。見た目の雰囲気が違うから気付かなかったよ」
「……俺もすぐには気付かなかった」
愛実が俺と同じだと分かって安堵する。そうだよな。見た目の雰囲気や髪型が変わっていたら、なかなか気付かないよな。
「初めまして、桐山あおいです。10年ぶりに調津に帰ってきました!」
「母の麻美です、初めまして」
「父の聡です。よろしくね」
「初めまして、香川愛実といいます。リョウ君……涼我君と一緒に調津高校に通っています。よろしくお願いします」
「調津高校ですか! 私も4月からは調津高校に編入するんです」
「そうなんだね」
調津高校は家から徒歩で6、7分のところにある。それなりの偏差値のある都立の進学校だから、ここから通うには一番いい選択だろう。
「あおいちゃんと同じクラスになれるといいな」
「ええ! 涼我君と愛実ちゃんと同じクラスになれたら嬉しいです」
「そうだな」
調津高校は1学年8クラスある。2年の進級時にはまだ文理選択はしないから、3人一緒に同じクラスになれる確率はかなり低い。
もし、同じクラスになったら、高2の1年間はとても楽しいものになりそうだ。
「それにしても、私と涼我君は幼馴染で、涼我君と愛実ちゃんも幼馴染ですか。ということは……私と愛実ちゃんも幼馴染ということになりませんか?」
何だよ、その「友達の友達は友達」みたいな理論。さすがに、あおいと愛実は幼馴染にはならないのでは。一度も会ったことないし。
ただ、あおいは「凄いことに気がついちゃいましたよ!」と言わんばかりのキラキラした笑みを見せている。そんなあおいとは対照的に、麻美さんと聡さん、母さんは「いや、そういうことにはならないだろう」と言わんばかりの苦笑いを浮かべている。
当の本人である愛実はクスッと朗らかに笑う。
「小さい頃に一度も会っていないからね。さすがに……幼馴染とは言えないかなぁ。でも、これから私達はいいお友達になっていけると思う。同い年の女の子同士だし、リョウ君の家の隣に住んで、リョウ君の幼馴染っていう共通点もあるから」
優しい笑顔を浮かべながら、優しい声色で愛実はそう話す。あおいの言葉にやんわりと否定しつつも、フォローする言葉もちゃんと言う。さすがは愛実。
愛実の言葉や笑顔が良かったのか、あおいは特にショックを受けている様子はなく、笑顔のまま頷いている。
「そうですね。愛実ちゃんとはいいお友達になれると思います。これからよろしくお願いします!」
「うん、よろしくね」
さっきと同じく、あおいは愛実に向かって右手を差し出す。
愛実は嬉しそうにあおいと握手を交わす。この様子なら、あおいと愛実はいい友人関係を築いていけるんじゃないだろうか。
麻美さんと聡さんは安心した様子であおいと愛実のことを見ている。10年ぶりに東京に戻ってきて、さっそく同い年の女の子と仲良くなれたからかな。
その後、あおいからの申し出で、俺と愛実はあおいと連絡先を交換。LIMEというSNSアプリもやっているため、さっそく3人でのグループを作成した。
「これでいつでも連絡できますね!」
「そうだな」
あおいと10年ぶりに再会できて、いつでもあおいと連絡できる手段が得られたことが嬉しい。
「あおい。もし、引っ越しの作業で手伝ってほしいことがあったら、いつでも連絡してくれ。俺、今日は特に予定はなくて家にいるからさ」
「私にも気軽に言ってね」
「ありがとうございます! そのときはよろしくお願いします」
あおいはニッコリと笑ってそう言った。あおいから手伝いしてほしいと言われたら、そのときは精一杯お手伝いしよう。
それから10分ほどで、桐山家の新居の前に引っ越し業者のトラックが停まる。こうして、桐山家の引っ越し作業が始まるのであった。
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