10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ

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第1章

プロローグ『桜が満開になる頃に』

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『10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ』



第1章



「今年も満開になったな……」

 喫茶店のバイトに行く途中、満開の桜を見ながらそう呟いた。花びらの隙間から見える青空も相まってとても美しい。その美しさに自然と歩みが止まる。
 満開の桜を見ていると、あの子のことを思い出す。
 10年前。小学校に入学する直前に遠くへ引っ越した同い年の女の子のことを。

『りょうがくん。またね。バイバイ』

 あの子が引っ越した日も、今日みたいによく晴れていて、桜が満開だった。だから、満開の桜を見ると、彼女のことを思い出すことが多い。個人的には桜は別れの花だ。
 そして、あの子を思い出すと、毎回こう思うのだ。

「元気にしているといいな」

 って。
 またいつか、あの子と会える日が来るのだろうか。
 今、あの子はどんな感じの女性になっているのかな。10年前はショートヘアで中性的な容姿だったけど。そういったことを考えながら、俺・麻丘涼我あさおかりょうがはバイト先に向かって再び歩き始めた。



 3月30日、水曜日。
 今日もよく晴れており、朝から暖かく感じられる。季節が春になって1ヶ月近く経つからだろうか。温もりが心地良く、過ごしやすい今の時期が結構好きだ。
 自室の東側の窓を開ける。直接浴びる朝の陽差しの温もりと爽やかな空気の涼しさが心地いい。一年中、このくらい過ごしやすい気候だと嬉しいんだけどな。
 青空を見上げながら深呼吸する。体の中に入ってきた少し冷たい空気が、体に残った眠気を取り除いてくれる。

「おはよう、リョウ君」

 すぐ近くから、女性のなじみ深い声が聞こえてきた。
 声がした方に向くと、そこには隣の家の2階からこちらを見ている幼馴染・香川愛実かがわまなみの姿が。俺と目が合うと、愛実は持ち前の優しい笑みを浮かべて手を振ってくる。そんな愛実に、俺は「おはよう」と挨拶して小さく手を振った。
 愛実とは、小学1年の5月末に愛実が隣の家に引っ越してきてからの付き合いだ。10年来の幼馴染である。しかも、転校してきた年から高校1年まで10年連続で同じクラス。俺にとって、一番長くて深い付き合いのある女の子だ。
 俺の部屋も愛実の部屋も、お互いの家側に同じくらいの高さでほぼ正面の位置に窓がある。そのため、今のように窓を開けて直接話すこともある。

「今日はそれなりに早い時間に起きたんだね。春休みだし、もっと遅い時間に起きるのかなって思ってた。昨日の夜はリョウ君の好きなアニメの最終回をやっていたし」
「昨日はずっとバイトだったからな。眠気が来て早めに寝たんだ。リアルタイムで見ようかと思ったんだけどね」
「そうだったんだね。あと、昨日のバイトお疲れ様」
「ありがとう。愛実も昨日は単発のバイトだったんだよな。お疲れ様」
「ありがとう」

 そうお礼を言うと、愛実は柔和な笑顔を向けてくれる。愛実と出会ってからの10年間で、この笑顔に何度癒されたか。
 愛実は魅力的な笑顔と、優しくて穏やかな性格の持ち主だ。そのため、愛実は男子中心に何度も告白されるほどの人気がある。「セミロングの茶髪がドストライク!」とか「大きな胸がいい!」言っている奴もいたっけ。ちなみに、愛実は告白を全て断っている。

「俺、朝ご飯を食べてくるよ」
「うんっ」

 俺は再び愛実に手を振って、部屋の窓を閉めた。
 今日はまだ春休みで、バイトなどの予定も入っていない。昨日は一日ずっとバイトだったから、今日は家でゆっくり過ごそう。



 朝食を食べ終わり、俺は自分の部屋で昨晩録画したファンタジーアニメの最終回を観ていく。暖かいインスタントコーヒーを飲みながら。
 平日の午前中から、好きなアニメをのんびり観られて幸せだなぁ。こういう時間を過ごせるのが長期休暇のいいところだ。

「最終回も面白かった」

 最終回を見終わり、自然とそんな言葉が漏れた。とても満足だ。
 今観た作品の原作小説はまだまだ続いているし、アニメ化していない話もたくさんある。好きなアニメが終わってしまったことに寂しい気持ちがあるけど、いつか第2期が制作・放送されることを期待したい。
 昨日の夜に録画したアニメは……今観た作品だけか。

「次は何を見ようかな……」

 今は春休みだし、休みの間に最初から最後まで一気に観るのも良さそうだ。
 テレビ台の引き出しから、今まで録画したBlu-rayを取り出し、何のアニメを観ようか考えていく。Blu-rayの盤面に書かれた作品名を観ると……いいなと思える作品が多い。
 愛実と一緒に観た作品。
 4月から始まる続編アニメの第1期。
 高校生になってからは一度も観ていない作品。
 あぁ……魅力的な作品ばかりで迷ってきた。どれにしようか迷っていると、
 ――ピンポーン。
 家のインターホンが鳴った。今は9時過ぎだし、宅配便でも来たのかな。母親がいるし、俺が応対しなくても大丈夫そうか。
 引き出しに入っているBlu-rayやテレビのハードディスクにある録画一覧を見ながら、次に見る作品を再び考えていく。

「涼我。下に降りてきて。お客さんが来ているわよ~」
「はーい」

 お客さん? 誰だ? 誰かと家で遊ぶ約束はしていないぞ。
 ちなみに、俺に用があって家に一番来るのは愛実だ。愛実は家に来るとき、インターホンを鳴らすことがある。だけど、母さんがわざわざ「お客さんが来ている」と俺を呼ぶことはない。愛実なら部屋の前まで来て扉をノックする。
 果たして、誰が来たのか。気になるけど、それは玄関に行けば分かることか。
 俺は部屋を出て、玄関へ向かう。
 玄関に行くと、そこには母さんと長い黒髪の女性が立っていた。
 女性はジーンズパンツに長袖のVネックシャツというラフな格好をしている。綺麗な顔立ちと、長い黒髪をハーフアップにしているのが印象的だ。女性の背丈は愛実よりも数センチ高いくらいで、スラッとしたスタイル。雰囲気からして、愛実と同じ女子高生かな。そんな女性が俺のお客さんだとは。
 俺と目が合うと、女性は嬉しそうな表情をぱあっと浮かべる。女性の笑顔はとても可愛くて、ちょっとキュンとなった。俺は女性に軽く頭を下げる。

「お久しぶりです! 涼我君!」
「えっ? 久し……ぶり?」

 俺……こんな綺麗な女性と今までに会ったことあったっけ? ただ、女性が久しぶりと言っているから会ったことがあるのだろう。特に緊張する様子もなく「涼我君」と呼んでいるし。あと、母さんが楽しげな笑顔になっているのもヒントかも。
 女性の顔をじっと見ていく。こうして見てみると……誰かに似ているような。

「……あっ」

 女性の少しキリッとした目つきと綺麗な黒い瞳を見たとき、ある女の子の名前が頭に思い浮かんだ。

「まさか……あおいなのか? 桐山きりやまあおい……」

 10年前、小学校に入学する直前に引っ越していった幼馴染の女の子の名前を口にする。
 俺の答えが合っていたのだろう。女性は口角をさらに上げて、俺の目を見つめながらしっかりと頷いた。

「その通りです、涼我君! 桐山あおいです! 10年ぶりに東京に戻ってきて、今日から隣の家に暮らすことになりました!」

 あおいはとても元気良くそう言った。
 やっぱり、あおいなんだ。桐山あおいなんだ。
 俺は2人いる幼馴染のうちの1人の桐山あおいと、10年ぶりの再会を果たすのであった。
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