17 / 19
勝手に子供は育たない
しおりを挟む1時間もしないうちに広場には天狗族を中心に鬼人族が囲む形ができていた。
森からも子供や女性陣が戻って来ており、村や家の片付けに追われていた。
天狗族の前には甚平を先頭に華凛、康成が並んだ。
「まずは自己紹介をしましょうか?私はこの鬼人族の村の長をしています。甚平といいます」
「俺は父ちゃんの娘の華凛だ!」
「甚平さん?俺は何て紹介したら良いんだ?人族でいいか?」
「そうですね……彼はまだ……一応人族の康成君です」
「人をなんだと思ってるんだ!?」
「嘘だ!そんなデタラメな人族がいるか!」
康成に気絶させられ失禁してしまった天狗族の男は悪夢のような光景を思い出し納得のいかない顔で叫んだ。
「あっ!?捻るぞ?」
「すみませんっした!こいつには良く言っておきます!すみません!すみませんっす!」
ドゴッ!
天狗族の長と名乗る女の子は男の頭を地面に叩きつけ、男は再度意識を手放した。
「夜も遅いですし、そろそろあなた達の事をお話いただいてもよろしいでしょうか?」
「お騒がせして申し訳ないっす……始めに私の名前は天狗族長、羽歌うたと言うっす。この度は殺されても仕方がない私達の為に弁論する機会を頂けて感謝するっす……」
は、今回の鬼人族村の襲撃の理由について語りだした。
「私のお父さんが去年の春まで族長をしてたっす。北の山では畑や狩りが生活の基盤でした。ただ、その前の年から寒い日が多くなって、不作が続いて食べ物あまり取れなくなってしまったっす……山の天候も安定しなくて狩りもなかなかできず……」
「食料不足が原因でしたか……」
「それだけなら多分どうにかできたはずっす……でも……でも、里で流行り病が広がって若者がかかることは少なかったっすが……近所のおじいちゃんやおばあちゃんがどんどん病にかかって……お父さんもとうとう病気になってしまったっす……」
インフルエンザみたいなものか……
「抵抗力や体力のある若いのは多分感染しても自力で治してしまったんだろ。年寄りや栄養不足で体力の落ちた大人が一気に感染したんだな?」
「私達は心配しなくても良いから近寄らないで狩りに行きなさってよく言われたっす。獲物が少なくてとれない日は、よく木の実を食べてたっす……」
野菜のとれないことによるビタミン不足で尚更抵抗力が落ちたんだな……
コイツらは少ない木の実で腹を満たして、知らないうちにビタミンを摂取できていたのか……
「お父さんも病で辛いはずなのにずっと原因を考えていて、体を引きずってまで身寄りのいない病人を看病してたっす……でも、とうとう動けなくなって……最後は……」
「亡くなってしまったと……それでも何故あなたが族長を?他の大人は居なかったのですか?」
「もともと小さな村だったっす。大人達もどんどん倒れて……病が治まった時にはもう私達しか残って居なかったっす……」
天狗族を見ると確かに若い。
小さい子なら10代前半、年上でも20歳には届いていないといったところか?
「他の部族に助けを求めなかったのですか?」
「当然求めたっす!同じ天狗族に助けを求めたら、病がうつるから村に来るな!って断られたり、他にも不作はどこも同じでこれ以上分ける食料はないと断られたっす。」
「誰もあなた達を保護しようと思わなかったのですね……」
「それでもみんなを死なせる訳にはいかないっす。お父さんの代わりに私が族長としてみんなを守る必要があったっす……」
「それでここに?」
「本当は襲いたくなかったっす……でも、誰も私達を助けてくれない……みんな元気だし、病なんかになってないのにちょっと小汚ないっすけど……意地悪してるんだって思ったっす……ここに来たのも本当に最後だったっす。立派な森があって気候も穏やか、きっと沢山の食料があるはずだ。でも今までみたいにお願いしてもお金もない私達はきっと断られる。でも限界だったっす……今日、偵察で立派な猪を狩ったのを見て……」
「襲撃したと……」
「はい……っす……」
そこまで話すと口数も少なくなり周りの天狗族からもすすり泣く声が聞こえた。
まだまだ若い、社会も知らない彼女らは、急に大人が居なくなってしまい、不安だらけの中、1年近く自分たちで精一杯生きて行こうと考えて来たのだろう……
精一杯努力して……
精一杯考えて……
精一杯強がって……
これ以上家族を亡くすのは嫌だ。
みんなで生き残るんだ。
一致団結で頑張ろうなんて簡単な言葉では済まされない、彼女達の生きるための努力が見えた。
それも限界が来た。
子供は積み木で家を建てる。
建築の方法を知らないから。
子供は砂で料理を作る。
材料の調理方法がわからないから。
子供だけでは野菜は作れない。
子供だけでは大きな猪を狩ることはできない。
子供だけでは安心する場所を作れない。
子供には教える大人が必要だ。
大人が料理を教える。
大人が畑の耕しかたを教える。
大人が家を建てる。家族の為に。
それが大人と子供の違い。
子供の限界。
彼女達は指導者を失ってしまった。
生きる為に必要な事を教えてくれる指導者がいないのだ。
「最後にこの村を選んでくれて良かった。」
「えっ?」
「まだあなた達に教える事ができる。あなた達を導く事ができる。子供達の間違いを正し、指導するのは私達大人の仕事です」
「でも……私達はこの村の住人じゃないっす……それに沢山迷惑をかけたっす……」
「確かに怪我をした者もいます。しかし、誰も死んではいない。死人がいないのならそれは戦ではありません。ケンカです。子供の悪戯にしては少し度が過ぎますがね」
「でも……」
「それにあなた達には拒否権が存在しません。ケンカに勝ったのは私達なのですからね。皆さんはどうでしょうか?ここまで話を聞いてこの子達を追い出せと言う者はいますか?」
甚平が周りに声をかけると反論するものはいなかった。
「それではこの天狗族の子達を傘下に入れるのではなく村の子供として受け入れます。子供を立派に育てるのは私達大人です。皆さんよろしくお願いします。」
甚平が周りの鬼人族へ頭を下げると、「任せろ!」、「お前らは俺らの子供だ!」「立派な大人になるまで逃げるなよ!」と沢山の激励や賛同の声があがった。
羽歌は頭を下げると大粒の涙を流した。
「ありがとうございます……お父さん里を守れなくてごめんなさい……私達良い子にできなくてごめんなさい……これからみんなでがんばるっす……立派な大人になるっす……」
子供のように大声で泣く羽歌を甚平は涙が枯れるまで優しく抱き締め続けた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます
ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。
何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。
生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える
そして気がつけば、広大な牧場を経営していた
※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。
7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。
5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます!
8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

のんびりダンジョン経営してたら億万長者になりました。
こたつぬこ
ファンタジー
いじめられっ子の主人公が、唐突に異世界初のダンジョンマスターに選ばれてしまう。
強い体も、強い装備も、チートもなし。
与えられたのはダンジョン用コンソールと、ナビゲーターである翼を生やした喋る猫。
主人公の希望はダンジョン経営スローライフを送ること。
が、異世界初のダンジョンというものと、与えられたコンソールの力がどれほどの物か分かっていなかった。
ダンジョンの成長と共に自分も成長し、周りの人間も成長していく。
あまおう(イチゴ)を生やしたり、自動販売機を設置したり、地球産の物に人々は大わらわ。
そんな主人公が放っておかれるはずもなく、多国間でのヘッドハンティング合戦に巻き込まれてしまう。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる