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大団円……なんですかね?

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* * *

一ヶ月後、類さんはエデンパックを去った。
後釜にはなんと、設楽さんが抜擢された。
課長職をすっ飛ばした、異例の大出世だ。


これには驚いたが、類さんは前々から設楽さんを部長にと、推していたそうだ。
というのも、半年後に定年をむかえる現本部長のポストに類さんが就くことが、二年も前から決まっていたそうで、後釜については、極秘裏に話し合いが重ねられていたらしい。
他にも候補はいたが、類さんの提言と『クールンルン』の大ヒットにより、特例の昇進が決まったのだという。


私はというと、類さんに遅れること二ヶ月。
クールンルンの今期生産終了を待ち、九月に入ってから、エデンパックを退職した。
設楽さんたちチームの皆は「いつか必ず、一緒に仕事をしようね!」と、こころよくDOMONへ送り出してくれた。


そうそう、余談ではあるけれど、最近Ⅴライバー界が騒がしい。
『ソーリスくん』という男性ライバーがデビューし、女性視聴者を虜にしているのだ。
ソーリス、ラテン語で太陽。
彼はその名のとおり底抜けに明るいキャラクターで、ちょっと子供っぽい所もあるけれど、みんなを幸せにしてくれる――まるで、私が大好きだった、あの人みたいな。
ちなみに時期を同じくして、凛ちゃんと陽介は同棲を開始したらしいので、どう考えてもソーリスくんの正体は……。


いや、追及するのはやめておこう。
先日、ふたりの姿を駅で見かけたけれど、心から幸せそうに笑っていたから、それだけで十分だ。


* * *


そして本日、十月一日。
英輔さんの夢であった、ドール事業部が立ち上がった。


統括部長の類さんをトップとして集められた三十名は、輝かしい実績を持つ選りすぐりの精鋭だ。


私が類さんの恋人であることは、件の炎上騒ぎもあって、皆が周知している。
けれど幸いにも私が『クールンルン』の発案者であったこと。そして保持していた資格のおかげで、色眼鏡で見られることはなさそうだ。
というより皆、他人の恋愛事情に興味がないらしい。
今しがた終わった決起会でも、簡単な自己紹介のあとは、時間いっぱい仕事の話で盛り上がった。






「ねえ、二階堂統括部長」


帰り道、自宅近くの並木道。
私がふざけてそう呼ぶと、類さんは腕を組み「なんだ、谷川くん」と返してきた。


「ワクワクしますね」
「そうだな」
「フランス、スペイン、メキシコ……ああ、どんなドールに出会えるんだろう」


ファッション・ドールチームに配属された私は、来月からドール探しの旅に出ることが決まっている。
うっとりと夜空を見上げた私の頬を、心地よい秋風が通り過ぎていく。


「……うれしそうだな」


不意に類さんが立ちどまった。
なんだか微妙な顔をしている。


「そりゃあ初めての海外出張だし、嬉しいですよ?」


答えると類さんは、なんだか不機嫌そうにため息をついた。


「……るいさん?」


なにが気に入らないんだろう。
私が顔を覗き込むと、彼はプイと目をそらし。


「……出会うのは人形だけにしてくれよ」


と、呟いた。

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