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大団円……なんですかね?

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類さんの唇から落とされる、わずかな水が喉を湿らせ、体の奥へ落ちていく。


はあ、幸せ、お水ってこんなに甘かったけ……。


干からびた細胞がふっくらと蘇るような感覚に、うっとりと目を閉じる。


「もっと飲むか?」


もちろん――唇を開くと、二度、三度、キスと一緒に水分を与えられ。
四度目に彼が水を口に含もうとした瞬間。


「まどろっこしいのよ!」
「うおっ!?」


水を得て感覚を取り戻した右手で、彼の手からペットボトルを奪い取ってやった。


美味――――っ、水、美味い――――っ!
この美味しさに比べたら、真夏の生ビールなんて、汚水よ汚水!


天を仰ぐほどに首を傾け貪ったボトル内の水は、あっと言う間になくなってしまった。


「ふうっ」


濡れた唇を手の甲で拭い、息をつく。


「だ……大丈夫か?」
「いいえ、干からびて死ぬかと思いました」


言いながら、転がっていたもう一本のペットボトルを手に取った。
けれどやはり力が入らず。ボトルの蓋が開けられない。


「まだ飲むのか?」
「……はい」
「開けてやる」
「ありがと――って、どうして類さんが飲――ングッ!?」


あっと言う間の出来事だった。
ボトルのキャップが外されたと思ったら、またもや口移しでの給水が開始される。


「ッ……グッ、ちょっ……なんで!」
「暴れるな、シーツが水浸しになる」


突然の凶行に驚いたせいで、ほどんどの水がこぼれてしまう。
再度、水を口に含もうとした彼の手を押さえつけた。


「なにやってるんですか、自分で飲めます」
「遠慮するな」
「してません、してませんから、それ、寄越してください!」


ペットボトルを奪おうとするも、手を高く持ち上げて拒まれる。


「いやだ」
「どうして!?」
「気に入った」
「なにがっ!?」
「口移し」
「なにゆえ!?」
「なんかこう……庇護欲を掻きたてられるというか、幸せと興奮が入り混じった、むず痒さ?」


それはそれは嬉しそうな類さんの笑顔に、力が抜けた。
もう好きにしてくれ、と口を開けば、庇護欲とやらをむき出しにした類さんの目が、私を見つめてトロンと緩む。


「七海ちゃんは、可愛いなあ」
「そりゃどうも」


諦めて瞼を下ろすと、給水が開始される。
チビチビと水分を摂っていると、彼に毒されたのだろうか。なんだか私まで変な気持ちになってきた。
過剰に甘やかされ、与えられるものを無抵抗に享受する悦び。それはまさに『幸せと興奮が入り混じったむず痒さ』だ。
少しづつ体の力が抜けていき、完全に身を委ねたところで、彼が囁いた。


「俺さ……家族と呼べるような人間がいなかったからかな……誰かを愛したり愛されたりって、よく分からなかったんだ」


突然の告白に驚いて、瞼を上げる。
私を見つめた類さんは「でも……」と、首を傾げ。


「これが、そうなんだろうな」


そう言って、照れたように笑った。

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