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なんだかとても疲れましたので

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「なっ……」


私は目を剥いた類さんの顔に手を伸ばした。


「女癖が悪くて、恰好つかないし」


頬に貼った絆創膏を、指先で撫でる。


「何度言っても靴下を裏返しで洗濯機に入れるし、部屋着はヨレヨレ、ニコチン中毒で嘘つきで子供っぽくて――」
「流石に言い過ぎじゃないか」
「そうですか、まだまだ言い足りないくらいですけど……でも」


もう意地を張ったり、自分の気持ちを嘘をついたりしなくてもいいから。


「そんな所もぜんぶひっくるめて、私は類さんが好きです」


言いながら、涙が溢れて止まらなかった。
類さんの大きな手が、私のグシャグシャに濡れた頬を拭ってくれる。


「泣いたり、笑ったり、怒ったり……大変だな」
「っ……今まではこんなんじゃなかったんですよ」


しっかり者の七海ちゃん――。
私が作り上げた虚像は、類さんの前では崩れ去る。


「それはお互い様だよ」


類さんは私を胸の中に閉じ込めながら、困ったみたいに眉を寄せた。


「なあ……あのさ」
「なんですか?」
「キス……してもいいか」
「そっ、そんなこと、聞かないで下さい!」
「なんでだろ、俺……今、すげえ緊張してる」


まったく類さんらしくない台詞に驚いた。
それだけじゃなくて、彼は顔だけじゃなくて耳まで赤くして照れている。


「ちょっ、そんな顔されたら、私まで――」


緊張が伝染して、うつむいてしまう。
それでも勇気を出して答えた。


「いいですよ……えっと、キスだけじゃなくて……その先も」


ゴクン――と、唾をのむ大きな音が聞こえた。
同時に体が宙に浮いた。


「きゃっ、類さん!?」


突然抱き上げられ、慌てて彼の首にしがみついた。
そのまま景色が動いたと思ったら、あっと言う間に背後のベッドに沈められる。


「なっなんですか、突然!」
「自分でも分からねえ、なんかもう、色々と限界超えた」
「はあ!?」


私を組み敷く彼の目は、さっきまでの戸惑いがうそみたいに獰猛に輝いていた。
類さんの指が私の唇をすべり、そのまま、顎、首筋、鎖骨と滑っていく。
まるで捕まえた獲物の肉質を探るみたいに。


「いいんだよな、キスも……その先も」
「や、待っ――」
「待たねえよ、待てるわけねえだろ」


耳元に低い声が落とされるのと、私の口から甘い嬌声がこぼれるのは同時だった。


「っ……あっ」


いつの間にシャツを捲り上げられていたのだろう。
露わになった胸の先が、意地悪な指に弾かれた。
たったそれだけのこと。
なのに体が小さく跳ねてしまうのはきっと、彼の色気にあてられているから。


退廃的な美――。


その言葉がこれほどまでにしっくりくる男が、他にいるだろうか。


「ハッ、なんて顔してんだよ」


薄く笑った彼は、長く骨ばった指で、私の唇をこじ開ける。


「んっ……まっ……心の準備っ……がっ」


このままでは、のみ込まれてしまう。
いいですよ――とは言ったものの、さすがに刺激が強すぎる。
なけなしの理性をかき集め、目の前の胸を押し返せば、その手を掴まれシーツに縫い付けられた。


「だ……め」
「だめ、じゃないだろ……言えよ、来て――って」


トロリと潤んで私を見下ろすのは、中心部分が藍色にも見える漆黒の瞳。
その目はまるで、荒縄のように私の体を拘束した。


乱れた黒髪が頬をくすぐるほど、至近距離に顔を寄せられる。


彼の瞳の中に私がいた。
私の瞳の中にも彼がいるのだろう。


完敗だ――。


力をこめていた唇が力が失うと、彼の指が私の口内に侵入した。


舌を弄ばれ、歯列をなぞられる。
それ仕草はまるで、捕食する者が獲物を甚振るようで。


そのくせ、酷く優しかった。


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