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愛しきピンキーちゃん

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* * *

「さあて皆々様、お酒のご準備はよろしいでしょうか」
「はあーい!」
「それではっ、クールンルン発表会の大成功を祝して、かんぱーい!」
「お疲れさまあ」
「イエーッ!」


設楽さんの掛け声で、グラスを合わせる小気味よい音が響く。


発表会の翌日、プロジェクトメンバーはいつもの居酒屋に集合していた。あいにく類さんは、どうしても外せない予定があるとかで不参加だけど、また改めて機会を設けることになっている。


「七海ん、マジでお疲れだったね」
「設楽さんこそ、もしかして少し痩せました?」
「あー分かる? 実はこの数日で二キロ減」
「うわあ、本当にご苦労をおかけしました」


この件でいちばん煽りを食ったのは、なんといっても彼だと思う。


私たちの自宅謹慎中、専務をはじめとする経営陣は、なんとかクールンルンの規模を縮小しようとした。けれども彼は、ありとあらゆる手を使って阻止してくれたのだ。
減産調整をするよう指示が出れば『工場責任者との打ち合わせが難航している』と嘘をつき、工場側には賄賂を渡し、口裏を合わせて貰う。広告規模を縮小しろと言われれば、のらりくらりと逃げ回り、ついには社長室に呼びつけられたので、仕方ない、貧血でぶっ倒れ意識を失う――という名演技まで披露したそうだ。


「結果として、設楽さんのお陰で混乱を避けられましたけどね」


昨日行われた発表会は、来場希望者が殺到し、規模の縮小どころか、急遽大型の会場を手配する事態となった。そのうえクールンルンのアイディアが予想以上の好評を得て、大幅増産が決定。生産ラインを追加することになった。


「専務に言われるまま、規模を縮小してたら、今ごろパニックだったろうなあ」
「こうして飲んでる場合じゃなかったでしょうね」
「想像しただけでも恐ろしいよ。今度こそ演技じゃなく、本当にぶっ倒れそう」


互いに顔を見合わせひとしきり笑ったあと、一気に生ビールを飲み干す。


「さあ、今日はじゃんじゃん飲むぞ!」


設楽さんが内ポケットから取り出したのは、会社から出た金一封。テーブルの中央には、コモンズから届いた超高級酒『リシャール・ヘネシー』が鎮座している。


どうしてもお礼がしたいという小森さんと、押し問答の末「それでは焼酎でも差し入れてください」とリクエストした結果がこれ。焼酎ではなく、二十万近い金額のヘネシーだ。


「今ごろコモンズさんも、大騒ぎだろうね」


ヘネシーを見つめながら、設楽さんがしみじみと噛みしめる。


「でしょうねえ」


実は今、コモンズデザインの商品が市場から消えてしまうほど、売れに売れている。
理由は例の生配信。ジュンピーさんがコモンズデザインの雑貨類を、ベタ褒めしたからだ。


ほんとうにあの配信は、今思い出しても、鳥肌が立つくらいに完璧だった。
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