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事実は小説よりも

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* * *

夕食後、類さんは言葉を選びながら、ことの顛末を話してくれた。


まずは坂本医師が医師が、なぜ私に執着したのか。


「当時、坂本は派閥争いや、我儘な患者に疲れ果てていたらしい。そのタイミングで現れたのが七海ちゃん。奴は嬉々として自社の商品を説明する七海ちゃんの姿に惹かれたそうだ。っても、最初は、彼女のように自分も頑張ろうって――その程度の感情だったんだがな」


そこまで言って言葉を切った類さんは、腕を組んで口をつぐむ。


「私が……勘違いさせるようなことを、してしまったのでしょうか」
「うん……まあ」
「はっきり言ってください」


自分に落ち度があるなら、教えて欲しい。
身を乗り出す私に、類さんはしぶしぶといった様子で口を開く。


「七海ちゃんが……坂本に言ったそうなんだ」
「なにを、ですか?」
「白衣って素敵ですね、ちょっとだけ触ってもいいですか――って」


ああ、そうだ。
たまたま休憩室で鉢合わせて、雑談を交わしたときに、制服の話になって。


「言いました……覚えてます」
「コスプレ好きの血が騒いだのか?」
「……はい、家にある白衣と、素材とか違うのかなあって。だけど変な気持ちは全くなくて」
「だろうな……だが坂本は、そうは取らなかった」


言われて、今さらながら後悔した。


「うかつ……でした」
「いやまあ、それで、この女が自分に惚れてるって勘違いする男も男だけどな」
「え、待ってください。その流れで食事に誘われたので、恋人がいるから、個人的な付き合いは出来ないって、キッパリお断りしましたよ」


たしか彼は、すんなり納得してくれたはずだけど。


「残念ながら、サイコパスには通じなかった」
「……そういえば、その後も何事もなかったように二度ほど食事に誘われて、変だと思ってました」
「坂本の脳内では、今の彼と別れるまで待って欲しいと――、都合よく変換されたみたいだな」
「そんな……」


思わず背中が冷たくなった。


「そうだ、坂本にスマホを触らせたことは?」
「うーん、多分ないと思うんですが――あっ!」


不意に思い出した事実に、眩暈がした。


「まさか、あれが……」
「あるんだな?」
「はい……なにかのきっかけでスマホを取り出したら「俺と一緒だね」って……見せてきたのが、同じ機種で……」
「まさか、すり替えられたのか」
「はい。坂本と別れて、用を済ませた後、駅に向かっていたら、私の番号から電話がかかって来て……入れ替わっていたことが分かったんです」
「やられたな」


類さんの眉間に深い皺が刻まれる。


「でも、どうして二年も経ってからこんなことを?」


一番の疑問を口にすると、彼は苦い顔のまま説明を始めた。

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