このたびゲスの極み上司に脅されまして

まさかの真相にガクブルです

3

「七海ちゃん？」
「大丈夫、大丈夫です」


自分に言い聞かせようと呟いたけど、肺が胸壁に張り付いたみたいに息苦しくなってくる。



「おいどうしたっ、病院――いや、救急車呼ぶか？」


あからさまに動揺する彼の袖を掴んで引いた。


「少しすれば……落ち着きますから」
「けどおまえ、汗が……っ、息も苦しいのか！？」
「大丈……横になれ……ば」


言いながらも、どんどん酸素が薄くなっていき、頭の芯がキュッと締め付けられる。


「過呼吸か、紙袋だっけ？――待ってろ、直ぐに持って来る！」


類さんは私を丁寧に寝かせてくれて、そのまま部屋を飛び出した。


なぜだろう、その背中が部屋から消えた瞬間、体中の血が逆流するような、いいようのない感覚に襲われた。
怖い、苦しい、悲しい、寂しい、ありとあらゆる負の感情が混ざり合い、怒涛のように押し寄せてくる。


「……っさん……るい……」


ねえ、怖いよ……どこに行ったの？
ひとりにしないで、傍にいてよ、じゃないと私――。


「いやだあっ！！」


限界まで膨らんだ感情が弾けるのと同時に、悲鳴にも似た私の声が、室内に響いた。
血相を変えた彼が飛びこんでくる。


「どうした！？」


私は駆け寄って来た彼に縋りつき、泣きわめいた。
そうしなければ、気が狂ってしまいそうだった。


「いやだ、行かないで、お願いだからここに居て！」
「っ……分かった、大丈夫だ、何処にも行かないから」


そっと包み込むように抱きしめられる。


「これ、持てるか？　慌てなくていいからな、ゆっくり息を吸って、吐いて、そう……上手だ」


口元に紙袋があてられ、類さんの声に導かれ呼吸を繰り返す。


「吸って……そうだ、ほら、楽になってきたな」


背中に回された手から、じんわりとした温もりが伝わってきて。


「大丈夫……七海ちゃんは、なにも心配しなくていい」


耳元で吐き出される優しい声に、少しずつ正気を取り戻していく。


「……類さん、類さん」
「おお、どうした……ここにいるぞ。大丈夫だ、ずっと傍にいるから」
「ほん……とう？」
「ああ、約束する……何があっても守ってやるから、心配するな……ほら、息をして」


少しずつ呼吸が楽になっていく。


「も……平気……」
「そっか、よかった……けど、もう少しこうしてろ」
「うん」


規則的に背中をさすられるのが気持ち良くて、安堵のため息が漏れる。
でも、それと同時に、なんだか瞼が重たくなって――。


「少しだけ、寝ても……いい…――」


彼に触れられている場所から順番に、深い眠りに落ちて行った。