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反撃です、なりふり構っていられません

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「ちなみに英輔さんの好きな食べ物は?」
「んー、生春巻きとかフォーとか、ベトナム料理かな」
「ちょっと類さん!」


皆に手伝って貰う為の、手料理なんじゃなかったの?
睨みつけると、彼はあっけらかんと笑う。


「ああ、英輔はいいんだよ、そもそもこいつの手違いが発端なんだから」
「だからホント悪かったって」
「え、どうして英輔さんが発端なんですか?」


私の質問に類さんは憮然とした表情で腕を組む。


「だってそうだろう、俺と七海ちゃんが同居したせいで、面倒なことになっているんだから」


吐き捨てるような言い方に、胸の奥がチクリと痛んだ。


そうだ、確かにこの場所で私と鉢合わせたりしなければ、類さんが厄介ごとに巻き込まれることもなかった。そしてこの同居さえなければ、穏やかで優しい二階堂部長として、出世街道をひた走っていたのだ。
たとえ私にとって一緒に過ごした時間が、かけがえのないものだったとしても――。


「ダメだねえ類くんは、女心が全く分かってない」


滲みそうになる涙を笑顔で誤魔化そうとしたとき、工藤さんが呆れた声をあげた。彼は類さんの隣に移動すると、強引に肩を組み、声をひそめる。


「よおく見てみな……彼女、今どんな顔をしてる?」


工藤さんに先導され、類さんが私の顔を覗き込む。


「ちょっ、やめて下さいよ、私は別に――」
「ほおら、寂しそうだろ、どうしてだろうなあ」
「工藤さん!」
「それはね、出会えたことを否定されたからだよ」


さすがは名探偵だ――。
私の心をズバリ言い当てた。


「そう……なのか?」


類さんが、心細そうな顔で聞いてくる。


「違います、そんなの気にしてません!」


ほんとうは違わないし気にしているけど、言えるわけがない。


「もうっ、工藤さんったらっ、変なこと言わないで下さいよ」


大袈裟に笑って見せたのに、今度は大文字さんが横槍を入れてくる。


「工藤ちゃんのいう通りだよ、自分の大切な女の子を傷つけるなんて、類くんもまだまだガキだなあ」


――って、どうしてこんな話になってるのよ!


「お茶っ! 入れて来ます」


居間を飛び出した私は、誰もいないキッチンに逃げ込んだ。
やかんをコンロにかけ、青い炎をじっと見つめていると、情けない気持ちが溢れてくる。


ダメだなあ……こんなに大変なときなのに、他人にバレるくらい恋愛感情が漏れ出しているなんて。
そもそも類さんの心の中には、ユキさんしかいない。私は変えの利く抱き枕に過ぎないのに。


もう忘れよう。事態の収拾だけに徹して……全てが終わったら、この家を出ていこう。だからせめて、最後くらいは、彼に恥ずかしくない自分でいたい。


そう思って顔を上げたときだった。


「七海ちゃん?」


背後から呼ばれて飛び上がる。

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