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ハメられました詰みました

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しかし類さんの口撃は止まらない。


「あんたたち役員にしたら、一社員に全責任を負わせ、処分しましたで済めば楽でしょう。一昔前ならそれで通用したかもしれません。しかしそんな時代ではないんです。問題の上澄みをすくったおためごかしで騙せるほど、現代の消費者は甘くない」


もはや温厚な企画部長、二階堂類の姿はどこにもなかった。
言葉こそ丁寧ではあるけれど、その内容は上司を侮辱し、明らかに喧嘩を売っている。


現に先ほどまでは重役然とした態度で腕を組んでいた常務の指先は、ギリとジャケットの生地を握り締め、こめかみには血管が浮き出ている。


「に、二階堂くん、落ち着いて」


慌てて人事部長が止めに入る。
けれども類さんは「だから僕は冷静だと言っているだろう」と、冷ややかに切り捨て立ち上がった。


「とにかくネットに上がった情報は全てが虚偽、これからチームで緊急会議を開きます。こんな所で油を売っている暇はありませんので失礼」


そうして私に「早く行くぞ」と言って、ドアに向かって歩きだす。


「えっ、はい……では失礼します」


類さんの勢いに圧倒された私が、訳も分からず立ち上がったときだった。


「待ちたまえ!」


常務の怒声が響いた。
カッと見開かれた目は類さんの背中を捕らえ、血走っている。
それでも流石は常務まで上り詰めた男だと思う。
類さんが振り返ると、不意にその目を細め、口元に笑みさえ浮かべた。


「君の意見はよく分かった。すぐに重役会議を開き、真相究明に努めるよう社長に提言しよう」
「……お分かりいただけて、幸いです」


類さんの口元も緩むけど、その声は酷く冷たい。
ふたりがけん制し合う様子は、まるで鎌首をもたげる二匹の大蛇だ。
いったいどんな修羅場をくぐれば、こんな空気を醸し出すことが出来るのだろう。
あまりの迫力に、自分が騒動の中心だと分かっていても、口を挟むことすらできない。


「それと二階堂くん、チームの緊急会議の必要はないよ」
「というと?」
「今後の方針が決まるまで、君たち二人は、自宅待機して貰うことになっている」
「はっ?」
「そんなっ!」


類さんと私の声が重なった。類さんなどは、今にも常務に殴りかかりそうになっている。けれども常務は、ピクリとも表情を動かさずに言い放つ。


「これは、社長命令だ」


つまり――逆らえばクビ。こんなカードを切られてしまえば、流石の類さんも動きようがない。グッと唇を噛んで、怒りを堪えている。


常務はゆっくりと立ち上がり、まずは私を見て言う。


「谷川くんはもう結構、本日はこのまま退社したまえ」


それから類さんに目を向け、冷たいトーンで続ける。


「二階堂くんに関しては、まだ少し話があるので、このまま残って貰うよ」


従うしかなかった。
類さんも同意見だったのだろう。私を見て軽く頷く。


けれども私が退出し、閉まったドアを背に大きな深呼吸を数回繰り返したときだった。


「ふざけんなハゲ、てめえは何処まで腐ってんだよ!」
「うわあっ!!」
「ぎゃあ、二階堂くん!」


中からただ事ではない声と、何かを蹴り飛ばす音がした。

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