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この気持ちに名前はつけません
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しおりを挟む「珍しいな、七海ちゃんが俺を褒めるなんて」
「そうですか?」
「惚れた?」
「それはないですけど」
否定して目を反らすと、類さんは「だよな」と笑って残りの水を飲み干した。
もういちど沈黙が落ち……けれども今度のそれは、やけに気まずい。
「類さんって、女の子に本気になること、あるんですか?」
「さあ……どうだろうなあ」
沈黙を塗りつぶすための質問は、軽くかわされる。
「じゃあ……そうだっ、どんな車が好きで、どんな乗り方をしますか?」
不意に思い出したのは、午前中に読んでいた雑誌の心理テストだ。これで彼の恋愛観が分かるかもしれない。
確か派手な車を選ぶ男は、女性をアクセサリー的な感覚で捉えている。実用性重視の車なら、家庭的で世話を焼いてくれる人が好き。そうそう、他にもクラシックカーやビンテージものを大事に乗る男は一途で、コロコロ乗り換えるのは浮気性だとか、細かく分析していた。
類さんのことだから『毎年、新車で赤いスポーツカーを買う』とか言い出しそう。
なんて想像していると、彼はしばらく考えた後、きっぱりと言い切った。
「タクシーだな」
「……は?」
予想外の答えだった。戸惑う私を見て彼は説明をつけ加える。
「だいたい車を所有する意味が分からない。車検にメンテ、出先で酒も飲めねえし、面倒なことだらけだろ? だったらその場その場で乗り捨てられるタクシーが一番だと思わないか?」
説明を聞いて、いかにも類さんらしい答えだと納得した。
後腐れのない女の子を、そこかしこで乗り捨てる……まさに彼の生き方そのものだ。
「ほんと、当たってますよ」
ネタバラシをすると、彼は呆れたように鼻で笑う。
「B型は自分勝手で、乙女座はロマンチストだとか、そういうヤツか、くだらねーな」
「それは占い、これは心理テストです」
「女って好きだよなあ、その手の話題」
「そういう言い方は、ジェンダーフリーの時代に問題ですよ」
「相変わらずお堅いねえ、おまえA型だろ」
「……ん?」
「……お?」
類さんの矛盾した返しに、一瞬だけ顔を見合わせ――。同時にプッと噴き出した。
「アハハ、お察しのとおり私はA型です。類さんは?」
「ABのふたご座」
なんと!
まさかの回答に感心してしまう。
「占いもバカに出来ませんねえ」
「……俺もそんな気がしてきた」
また顔を見合わせて笑いながら、ふと気が付いた。
「あれ、私と同じふたご座ってことは、誕生日はいつですか?」
「六月十五日だけど?」
サラリと吐き出された言葉に、驚いた。
「って、明日……じゃないですか!」
というか、もう数時間後。
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