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魔王と部長

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* * *


「はあ、染みるわあ」


芋焼酎ロックが喉を焼き、お腹の底に落ちていく。その心地良さに、思わずため息が漏れた。


「はあ、痛えなあ」


対して部長はしかめっ面で、重いため息を吐く。
顎に貼られた特大冷却シートのせいで、せっかくのイケメンが台無しだ。


「自業自得ですよ」
「にしてもやり過ぎなんだよ、冗談も通じねえのかよ」
「冗談だったんですか」
「え、本気にしていいの?」
「もう一発いきましょうか」


縁側に座ったままファイティングポーズを取ると、彼は両手を前に、防御する。


「待て、俺が悪かったから」
「分かればいいです」


私が構えを解いてから、ようやく安堵の表情を浮かべた部長。今度は探るように聞いてくる。


「てかさ……おまえって何者?」
「二階堂部長の部下です」
「そうじゃなくて、今のパンチ――」


身を乗り出した部長の顎から、冷却シートが剥がれて、焼き鳥の上にポトリと落ちてしまう。


「ちょっと、焼き鳥が冷えちゃうじゃないですか!」


慌てて冷却シートを取り除き、被害にあった串を救出する。


「ごめんね、ひなニンニクちゃん。冷たかったでしょう」


でも安心して、ちゃんと食べてあげるから。
ガブリと串に食らいついた瞬間。


「おまっ、それ俺の――」
「どうかしましたか」


部長は、半分になったひなニンニク串越しに私を凝視し、固まっている。


「あ……もしかして狙ってました?」


確かにひなニンニクは最後の1本だった。


「よかったら、どうそ」


おずおずと食べかけの串を差し出しだす。
すると部長は視線を宙に投げ、不機嫌に眉を寄せた。


「く、食わねえよ」
「焼き鳥くらいで拗ねないでくださいよ」
「拗ねてねえ」
「拗ねてるじゃないですか」
「違う、つってんだろ」
「じゃあ、その態度はなんですか」


お互いの声が大きくなって、喧嘩腰になったところで、部長がボソリと呟いた。


「驚いたんだよ」


顔を背けたまま、投げやりな口調。
でも……気のせいだろうか。微かに頬が赤い気がする。


「なにか驚くようなことがありました?」
「普通は……食わねえだろ」
「これの事ですか?」


ひなニンニク串を指さすと、彼はチラリとそれを見て頷く。
なんだ、やっぱり食べたかったんじゃない。


「ですから、どうぞって――」
「そうじゃなくて!」


私の言葉を強く遮った彼は、一瞬だけこちらを見たけど、すぐに目をそらし口ごもる。


「嫌じゃ……ないのか、俺の顎にあった冷却シートが落ちたのに」
「は?」


予想外の繊細さに、笑ってしまった。


「自分のパンツを私に洗わせようって人が、何を気にしてるんですか」
「いや、それとこれとは――」
「一緒ですよ、焼き鳥に罪はないですし」


笑顔のまま串を差し出し「で……食べます?」と尋ねる。けれども部長は「いらねえ」とさらに顔を背けてしまう。


「部長って潔癖症なんですか?」
「……いや」
「じゃあ……もしかして、照れてるとか」


正面に回り込んで顔を覗き込むと。


「ち、調子に乗るんじゃねえ!」


私から勢いよく焼き鳥を奪い取った彼は、残りの肉とニンニクを食いちぎるみたいに串から引き抜いて、飲み込んでしまう。そうしてグラスに半分ほど残っていた焼酎を空にしてから、はあ――と、大きなため息をついた。

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