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魔王と部長

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「だったらどういうお嫁さんなら、いいんですか?」


陽介の残像を振り切ろうと、笑顔で聞く。すると部長は、心底嫌そうな顔でため息をついた。


「人の話、聞いてる? そもそも大前提として結婚する気がないっての」
「仮にですよ、仮に結婚するなら、どんな子なら許せるかって話です」


酒の肴としての何気ない質問だった。でもそれがとんだ藪蛇になった。
彼はうーんと悩み込んだあと、ゆっくりと口を開く。


「そうだなあ、風俗と浮気とギャンブルに寛容で、親戚付き合いを強要しなくて、家事を完璧にしてくれる女なら考えてもいい――って、そうか!」


とんでもないゲス発言のあと、なにかに気づいたらしい。彼の表情がパッと明るくなった。


「考えたら、この暮らしは理想そのものじゃないか」
「どこがですか」
「今後は七海ちゃんが家のこと、全部やってくれんだろ」
「まあ、ある程度は」


話し合いの末――というより、正確には脅されてだけど。とにかく、部長が生活費を出す代わりに、家事は私の担当になった。こうなったら、しばらくは三食つきの家政婦として働き、独立資金を貯めるつもりだ。


「それにおまえは、俺がギャンブルをしようが、女を連れ込もうが気にしないときている」
「連れ込むのはダメですよ。よそでやって下さい」
「マジかよ」
「マジですね」
「プロのお姉ちゃんならいい?」
「どうして家でしようとするんですかっ!?」


嫁入り前の乙女と同居してるのよ。この人には、デリカシーってものがないのかしら。
ギロリと睨みつけたけど、彼にとってはどこ吹く風。相変わらずのゲス発言を吐きだした。


「だってよお、射精の後って、そのまま寝たいじゃん? 電車とか乗りたくないじゃん?」


知るかっ!


「同意を求めてないでください、あと……子犬のような目をしても、ほだされませんよ」
「……チッ」


まさかの舌打ち!?
数時間前まで完璧な上司だったとは思えない態度の悪さに、唖然としてしまう。居酒屋でのナイスジョブは、これで帳消しだ。


「最低ですね」と呟いた私に「どうも」と答えた彼は、グッと身を乗り出してくる。そうして挑むような瞳をギラリと光らせた。


「じゃあさ、七海ちゃん」
「な……なんですか」
「七海ちゃんが相手してくれる?」
「なっ、なにを――」
「セックス」
「全身全霊をかけて、お断りします」
「いいだろ、減るもんじゃないんだし」


ゆっくりと前進する彼から逃げ、ついに縁側の端まで追い込まれてしまう。


「そんな嫌そうな顔すんなよ……そうだ、七海ちゃんの大好きなコスプレを取り入れようか」
「え――?」


コスプレと聞いて、一瞬だけ胸をときめかせた私は、とんでもない大馬鹿だった。
彼は満面の笑みを浮かべて、こう言ったのだ。


「七海ちゃん、イメクラごっこしようぜ」
「はあっ!?」
「俺が白衣で、七海ちゃんはナース服。そうだな……『当直医と看護師、深夜のイケナイ遊び』って設定でどうだ」


頭の奥で血管が切れる音がした。


「こっの――外道が」


神聖なコスプレを、性の道具にしようんなんて言語道断!


「えっ……ちょっ、七海ちゃ――がああっ!」


ヤツの顎めがけて、懇親の右ストレートを振りぬいてやった。


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