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心頭を滅却するのです
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二階堂めっ!
ぜったいに聞こえているはずなのに、こちらをチラリとも見やしない。
なるほど、本性がバレている私など、気力と体力を消耗してまで助ける価値はないということか。
あくまでも気づいていませんよという体で、大袈裟に笑いながらビールを煽る白々しさったら!
「七海ん~、今日、俺のうち来る?」
「今日だけでなく、未来永劫、行きませんよ」
設楽さんはすっかり彼氏気取りで、パーソナルスペースに侵入してくる。
さらにいつの間にか湯川さんまで、隣に移動してきていた。
「七海ん、僕のことはアンドリュー・ガイアと呼んでくれたまえ」
なに人だよ、アンドリュー・ガイアって。
「七海ん、ほら呼んでみて、キングカズって」
心の底からめんどくさい。
でも断るのもしんどい。
「はいはい、キングカズ」
「僕はっ、僕はっ!?」
「ごきげんよう、アンドリュー・ガイア」
「んー、もう少し可愛い声で言えないかい?」
「ごきげんようっ、アンドリュー・ガイアッ」
「驚くほど可愛くないな」
頭が痛くなってきた。
そろそろ茶番を終わらそうと大きく息を吸い込み、ふたりに向き直ったとき。
「あれえ、企画部のみなさんじゃないですかあ!」
おそらくアンドリューが求めているであろう……でも私としては今もっとも聞きたくないアニメ声が耳に飛び込んできた。声の主は松本凛、おっぱい女だ。背後には受付担当の伊波さんもいる。
「あっ、二階堂さん。先日はありがとうございました。おかげで佐藤工業の三橋さんに気に入って貰えたんですよっ」
こんな場所で顧客の名前を出すのはどうかと思う。断りもせずに、二階堂部長の隣に座るのも、非常識ではないだろうか。
なにより、なぜ私の前で堂々としていられるのだろう。
「早苗ちゃんとふたりで、ご飯食べに来たんですけど、皆さんの声がしたから」
聞かれてもいないのに、説明を始めたおっぱい女の表情に違和感を覚えた。
もしかしてこの子……私を牽制しにきた?
会社帰りに同僚と夕食、というには気合が入り過ぎてやしないだろうか。隙のないメイクに巻のしっかりしたヘア。洋服も着替えたのだろう。胸元がざっくり開いたニットに、ミニスカートといういで立ちだ。
疑惑が確信に変わったのは、次のひとこと。
「ご一緒してもいいですか、少しは華があった方が飲み会も楽いでしょう」
悪かったわね、華もおっぱいもなくて。
荒れ狂う私の心境など知る由もない男たちは「もちろんだよ、ねえ部長」と浮かれている。
でもまあ、さすがに二階堂部長は断ってくれるだろう。だって陽介の相手が、この女だって知っているんだから。
と期待した私がバカだった。
外面帝王は、いつもの爽やかな笑顔で言ったのだ。
「ええ、もちろん僕はかまいませんよ」
「わあ、嬉しい。じゃあ私は二階堂さんと同じドリンクでっ、早苗ちゃんは何にする?」
「うーん、あたしは甘いのしか飲めないから……」
一気に場が華やぐ。
この子はいったい何を考えているのだろう。陽介になにか言われたのだろうか。
実は彼に別れを告げた後、メールがきた。「絶対に別れないからな」と、ただひと言。
短いその一文に、彼の強固な意志が透けて見え、なんだか恐ろしくなった。
もしも、それをそのまま彼女に伝えていたのだとしたら……勘弁してほしい。修羅場はいちどで十分だ。
この際だから、彼女の邪魔をする気がないことを伝えておこう。
ぜったいに聞こえているはずなのに、こちらをチラリとも見やしない。
なるほど、本性がバレている私など、気力と体力を消耗してまで助ける価値はないということか。
あくまでも気づいていませんよという体で、大袈裟に笑いながらビールを煽る白々しさったら!
「七海ん~、今日、俺のうち来る?」
「今日だけでなく、未来永劫、行きませんよ」
設楽さんはすっかり彼氏気取りで、パーソナルスペースに侵入してくる。
さらにいつの間にか湯川さんまで、隣に移動してきていた。
「七海ん、僕のことはアンドリュー・ガイアと呼んでくれたまえ」
なに人だよ、アンドリュー・ガイアって。
「七海ん、ほら呼んでみて、キングカズって」
心の底からめんどくさい。
でも断るのもしんどい。
「はいはい、キングカズ」
「僕はっ、僕はっ!?」
「ごきげんよう、アンドリュー・ガイア」
「んー、もう少し可愛い声で言えないかい?」
「ごきげんようっ、アンドリュー・ガイアッ」
「驚くほど可愛くないな」
頭が痛くなってきた。
そろそろ茶番を終わらそうと大きく息を吸い込み、ふたりに向き直ったとき。
「あれえ、企画部のみなさんじゃないですかあ!」
おそらくアンドリューが求めているであろう……でも私としては今もっとも聞きたくないアニメ声が耳に飛び込んできた。声の主は松本凛、おっぱい女だ。背後には受付担当の伊波さんもいる。
「あっ、二階堂さん。先日はありがとうございました。おかげで佐藤工業の三橋さんに気に入って貰えたんですよっ」
こんな場所で顧客の名前を出すのはどうかと思う。断りもせずに、二階堂部長の隣に座るのも、非常識ではないだろうか。
なにより、なぜ私の前で堂々としていられるのだろう。
「早苗ちゃんとふたりで、ご飯食べに来たんですけど、皆さんの声がしたから」
聞かれてもいないのに、説明を始めたおっぱい女の表情に違和感を覚えた。
もしかしてこの子……私を牽制しにきた?
会社帰りに同僚と夕食、というには気合が入り過ぎてやしないだろうか。隙のないメイクに巻のしっかりしたヘア。洋服も着替えたのだろう。胸元がざっくり開いたニットに、ミニスカートといういで立ちだ。
疑惑が確信に変わったのは、次のひとこと。
「ご一緒してもいいですか、少しは華があった方が飲み会も楽いでしょう」
悪かったわね、華もおっぱいもなくて。
荒れ狂う私の心境など知る由もない男たちは「もちろんだよ、ねえ部長」と浮かれている。
でもまあ、さすがに二階堂部長は断ってくれるだろう。だって陽介の相手が、この女だって知っているんだから。
と期待した私がバカだった。
外面帝王は、いつもの爽やかな笑顔で言ったのだ。
「ええ、もちろん僕はかまいませんよ」
「わあ、嬉しい。じゃあ私は二階堂さんと同じドリンクでっ、早苗ちゃんは何にする?」
「うーん、あたしは甘いのしか飲めないから……」
一気に場が華やぐ。
この子はいったい何を考えているのだろう。陽介になにか言われたのだろうか。
実は彼に別れを告げた後、メールがきた。「絶対に別れないからな」と、ただひと言。
短いその一文に、彼の強固な意志が透けて見え、なんだか恐ろしくなった。
もしも、それをそのまま彼女に伝えていたのだとしたら……勘弁してほしい。修羅場はいちどで十分だ。
この際だから、彼女の邪魔をする気がないことを伝えておこう。
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