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酒は飲んでも飲まれるな
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しおりを挟む「アポロン様、琴を聴かせて下さいませんか?」
麦焼酎の果実酒を舐めながら強請った。
アポロン様は傍らの竪琴を手に取り、ポロン、ポロンと爪弾いて下さる。
そのでたらめな音色に酔いしれていると、塀向こうから「うるせえぞ、何時だと思ってるんだ!」と怒鳴り声が響いた。
なんと無礼な、神に楯突くとは!
下界の愚民に興を削がれたのか、アポロン様は琴を手放した。
私はムッとして立ち上がり、声を張り上げる。
「神をも恐れぬこの暴言、断じて許さぬぞ、成敗してくれよっ――」
「黙れバカ!」
けれども途中で口をふさがれ、羽交い絞めにさてしまう。
「ムガムバマンネムマ(バカとはなんですか)」
「分ったから、シーッ!」
人差し指を口の前に立ててたアポロン様は、まるで人間のような口調で「申し訳ありませんでした!」と、塀向こうに声をかけた。
「チッ、つまんないの」
すっかり現実に引き戻された私が舌打ちすると、羽交い絞めのまま、耳元で懇願される。
「頼むよ七海ちゃん、いい子だから、ちょっと大人しくしてくれる?」
うーん、その艶やかな見た目に免じて許してやろう。
「分かりましたよ、黙ればいいんでしょう、黙れば」
縁側に胡坐をかいて、空になった杯を突き出した。けれども彼は渋い顔をする。
「ちょっと飲みすぎじゃねえか」
「とことん付き合ってくれるって言いましたよね」
「それはそうだけど……」
「けど?」
「お前、酔うとめんどくさそうだし」
焼酎の大瓶を背中に隠そうとする二階堂部長。
なんてケチくさい男だ。
しかたがないので、深く息を吸い込んで――。
「おい人間っ、アポロ――」
「待てっ、俺が悪かった!」
私の大声を遮った彼は、素早く酒瓶を差し出した。
「ふふ、分かればいいんれすよ、分かれば」
並々と杯を満たして貰ったあとに、彼にも酒を勧める。
「ほら、全部のんでくらはい、絶世の美女がお酌をして差し上げまひゅ」
「いきなり呂律が回らなくなっているぞ」
「ええ、そんなことないれすよお」
言いながら、確かにその通りだとおかしくなった。
ケラケラ笑う私に、彼は呆れたように「典型的な酔っ払いだな」と肩を竦める。
でもその表情はとびきり優しかったから、私は心から思った。
ああ、今夜ひとりじゃなくてよかった――って。
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