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酒は飲んでも飲まれるな
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ほっぺたから滑り落ちた涙が、焼酎に映る月を歪ませた。
ポタリ、ポタリ――。
とめどなく落ちる滴が、満月を歪に壊していく。
隣で二階堂部長が「また泣くのかよ」と呟いたけど、どうにも止まらなかった。
「うっ……ううっ」
「なあ、泣くなって」
「無理でずっ……うう」
「お前の情緒、どうなってんの?」
「そんなの……どっぐ…にっ、崩壊しでまずっ」
鼻をすすりながら顔を上げると、彼の顔が思いのほか近くにあった。
ああ、やっぱり綺麗な顔。
緩やかに下降する、奥二重の瞳のせいだろうか。それとも、肉食獣を思わせる薄く引き締まった唇の艶やかさが原因だろうか。
若さゆえのギラついた欲望がそぎ落とされた、匂うような色気にのみ込まれそうになる。
でも彼が吐いた次の言葉に、ハッとする。
「俺さ、女に泣かれるのは得意じゃないんだよ」
「どの口が言ってるんですか」
同じマンション内で三人も泣かせたくせに。まったく、とんでもない男だ。
そんな色っぽい目をしても、騙されないんだからっ!
プイと顔を背け、手の甲でガシガシと涙を拭う。ついでに傍らのペーパータオルで、鼻をチーンとかんだ。
「妙な雰囲気出すの、やめて貰えますか」
「ああ? 出してねえし」
「出してます。何ですかその目付き」
「デフォルトの目付きに欲情されても困る」
「してませんっ!」
目の前のぐい飲みを掴んで、一気に飲み干す。
「って、おい、無茶すんなって」
涙の分だけ塩っぱくなった安酒が、胃の奥をカッと熱くする。
「飲みましょう、飲んで忘れますから!」
空になったぐい飲みを差し出すと、彼は「ゆっくり飲めよ」と、焼酎を注いでくれる。
「部長も付き合ってくれますよね、やけ酒」
今度は私が彼のぐい飲みを満たす。二階堂部長は、フッと小さく息を吐いて肩を竦めた。
「しょうがねえな、とことん付き合ってやるよ、他に希望は?」
「え……?」
「可愛い部下のためだ、今夜だけはなんでも聞いてやるよ」
言って、フワリと笑う。
その瞬間、アルコールが全身を駆け巡った。
クラクラする。押さえきれない欲望が、心の底から沸き上がり、私はすくりと立ち上がった。
「お願いがありますっ!」
こんなチャンス、もう二度とないかもしれない。
「ちょっと待ってて下さいね!」
唖然とする二階堂部長を残し、私はパンドラの箱を開けるべく、荷物置き場に向かって走りだした。
ポタリ、ポタリ――。
とめどなく落ちる滴が、満月を歪に壊していく。
隣で二階堂部長が「また泣くのかよ」と呟いたけど、どうにも止まらなかった。
「うっ……ううっ」
「なあ、泣くなって」
「無理でずっ……うう」
「お前の情緒、どうなってんの?」
「そんなの……どっぐ…にっ、崩壊しでまずっ」
鼻をすすりながら顔を上げると、彼の顔が思いのほか近くにあった。
ああ、やっぱり綺麗な顔。
緩やかに下降する、奥二重の瞳のせいだろうか。それとも、肉食獣を思わせる薄く引き締まった唇の艶やかさが原因だろうか。
若さゆえのギラついた欲望がそぎ落とされた、匂うような色気にのみ込まれそうになる。
でも彼が吐いた次の言葉に、ハッとする。
「俺さ、女に泣かれるのは得意じゃないんだよ」
「どの口が言ってるんですか」
同じマンション内で三人も泣かせたくせに。まったく、とんでもない男だ。
そんな色っぽい目をしても、騙されないんだからっ!
プイと顔を背け、手の甲でガシガシと涙を拭う。ついでに傍らのペーパータオルで、鼻をチーンとかんだ。
「妙な雰囲気出すの、やめて貰えますか」
「ああ? 出してねえし」
「出してます。何ですかその目付き」
「デフォルトの目付きに欲情されても困る」
「してませんっ!」
目の前のぐい飲みを掴んで、一気に飲み干す。
「って、おい、無茶すんなって」
涙の分だけ塩っぱくなった安酒が、胃の奥をカッと熱くする。
「飲みましょう、飲んで忘れますから!」
空になったぐい飲みを差し出すと、彼は「ゆっくり飲めよ」と、焼酎を注いでくれる。
「部長も付き合ってくれますよね、やけ酒」
今度は私が彼のぐい飲みを満たす。二階堂部長は、フッと小さく息を吐いて肩を竦めた。
「しょうがねえな、とことん付き合ってやるよ、他に希望は?」
「え……?」
「可愛い部下のためだ、今夜だけはなんでも聞いてやるよ」
言って、フワリと笑う。
その瞬間、アルコールが全身を駆け巡った。
クラクラする。押さえきれない欲望が、心の底から沸き上がり、私はすくりと立ち上がった。
「お願いがありますっ!」
こんなチャンス、もう二度とないかもしれない。
「ちょっと待ってて下さいね!」
唖然とする二階堂部長を残し、私はパンドラの箱を開けるべく、荷物置き場に向かって走りだした。
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