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第2部・社会人編
試練・3
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* * *
一週間後。
伊豆での研修がはじまった。
「うわあ、すごい!」
本社に集合して、バスで三時間。
現地に到着した瞬間、私は感嘆の声を上げた。
研修用の宿泊施設だと聞いていたので、民宿のような所をイメージしていた。
けれども目の前にそびえ建つそれは『宿泊施設』と呼ぶには絢爛すぎる。
大正浪漫を感じる、重厚な外観。
回転扉の前では、巨大なライオンの彫刻が、庶民の侵入を拒むように睨みをきかせている。
「神谷建設……恐るべしだな」
私に続いてバスを降りてきた同期の山口君も、目を丸くしている。
「うん、豪華すぎて落ち着かないかも」
「俺も……若干ビビってる」
山口君がはあーっと息を吐くと、先に降りていた雛子ちゃんが振り返った。
「わりと素敵な所だね」
アッサリ言ってのける彼女は、私とは住む世界が違うのだろう。手にしているスーツケースも、高級ブランドの新作だ。
「てかさ、田代さん荷物、多くね?」
「えー、普通だよ」
「いやいや、あきらかに俺たちの三倍はあるでしょ」
山口君のいうとおり、雛子ちゃんのスーツケースは、大人ひとりスッポリ入るサイズだ。
けれども雛子ちゃんはスーツケースに目を落としながら反論する。
「これでも必要最低限に絞ったんだよー」
「最低限って?」
「水着が二種類でしょ、ナイトドレスが三着に、サンダルとハイヒール、ハイキング用のスニーカーもいるし……」
「完全にリゾート気分だな」
山口君に呆れられて、雛子ちゃんが「そんなことないもん」と唇を尖らせる。
まあ、ナイトドレス……が必要かどうかは別にして、彼女の気持ちも理解できなくはない。
ここ一ヶ月で同期の皆とは、すっかり打ち解けた。
最初は「とんでもないエリート集団に紛れ込んでしまったものだ」と委縮していたけど、飲みに行って腹を割れば、なんのことはない。
彼らも私とおなじく緊張していたのだという。
それに同年代でお泊りなんて、修学旅行以来だ。
少しだけワクワクしてしまうのは、致し方がないと思う。
「男性は東館、女性は南館に移動します」
指導員の声で、山口君に手を振ると、彼は私の耳元に口を寄せ。
「花ちゃん、あとで一緒にオレンジビーチに行こうぜ」
そう囁いたかと思うと、返事をする間もなく立ち去ってしまう。
「え、ちょっ――山口君っ!」
あわてて追いかけようとしたけど、後ろから雛子ちゃんの腕の腕が絡みついてきた。
「いつの間にそんな仲になったのよお」
「そんな仲……って」
「山口君かあ、お似合いだと思うよ」
「や、別に彼とは――」
「ふふ、応援するねっ」
聞く耳を持つ気はないらしい。
雛子ちゃんは可憐な笑顔に似合わず、強引な所がある。
そして流されやすい私は、どうも彼女に弱いのだ。
一週間後。
伊豆での研修がはじまった。
「うわあ、すごい!」
本社に集合して、バスで三時間。
現地に到着した瞬間、私は感嘆の声を上げた。
研修用の宿泊施設だと聞いていたので、民宿のような所をイメージしていた。
けれども目の前にそびえ建つそれは『宿泊施設』と呼ぶには絢爛すぎる。
大正浪漫を感じる、重厚な外観。
回転扉の前では、巨大なライオンの彫刻が、庶民の侵入を拒むように睨みをきかせている。
「神谷建設……恐るべしだな」
私に続いてバスを降りてきた同期の山口君も、目を丸くしている。
「うん、豪華すぎて落ち着かないかも」
「俺も……若干ビビってる」
山口君がはあーっと息を吐くと、先に降りていた雛子ちゃんが振り返った。
「わりと素敵な所だね」
アッサリ言ってのける彼女は、私とは住む世界が違うのだろう。手にしているスーツケースも、高級ブランドの新作だ。
「てかさ、田代さん荷物、多くね?」
「えー、普通だよ」
「いやいや、あきらかに俺たちの三倍はあるでしょ」
山口君のいうとおり、雛子ちゃんのスーツケースは、大人ひとりスッポリ入るサイズだ。
けれども雛子ちゃんはスーツケースに目を落としながら反論する。
「これでも必要最低限に絞ったんだよー」
「最低限って?」
「水着が二種類でしょ、ナイトドレスが三着に、サンダルとハイヒール、ハイキング用のスニーカーもいるし……」
「完全にリゾート気分だな」
山口君に呆れられて、雛子ちゃんが「そんなことないもん」と唇を尖らせる。
まあ、ナイトドレス……が必要かどうかは別にして、彼女の気持ちも理解できなくはない。
ここ一ヶ月で同期の皆とは、すっかり打ち解けた。
最初は「とんでもないエリート集団に紛れ込んでしまったものだ」と委縮していたけど、飲みに行って腹を割れば、なんのことはない。
彼らも私とおなじく緊張していたのだという。
それに同年代でお泊りなんて、修学旅行以来だ。
少しだけワクワクしてしまうのは、致し方がないと思う。
「男性は東館、女性は南館に移動します」
指導員の声で、山口君に手を振ると、彼は私の耳元に口を寄せ。
「花ちゃん、あとで一緒にオレンジビーチに行こうぜ」
そう囁いたかと思うと、返事をする間もなく立ち去ってしまう。
「え、ちょっ――山口君っ!」
あわてて追いかけようとしたけど、後ろから雛子ちゃんの腕の腕が絡みついてきた。
「いつの間にそんな仲になったのよお」
「そんな仲……って」
「山口君かあ、お似合いだと思うよ」
「や、別に彼とは――」
「ふふ、応援するねっ」
聞く耳を持つ気はないらしい。
雛子ちゃんは可憐な笑顔に似合わず、強引な所がある。
そして流されやすい私は、どうも彼女に弱いのだ。
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