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【番外編②】初恋/憂太の過去(最終)
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同じペースで読んでいた湊は、僕が口を開くより先に怒りの言葉を発していた。
「…俺、腹立つんだけど、やっぱり麻生のことは好きになれんわ」
僕は読み終わってから、過去のこととはいえ、怒るべきなのか何なのかわからなかった。
長くも短くもない手紙からは、謝罪の気持ちと麻生さんの保身のために僕が傷ついたことくらいしか読み取れなかった。
真実がどうであれ、僕があの時に感じたつらい気持ちや、息苦しい感覚は本物だ。
だからこそ、改めて真相を解き明かそうという気は湧いてこない。
「なあ、憂太!やっぱり憂太は付き合ったことなかったじゃん!彼女いたことなんかない!」
「え?」
湊が勢いよく立ち上がり、両腰に手を当てて立っている。
「憂太の初恋はやっぱり麻生じゃないってこと!なんていうか、んー、恋!してないじゃん、麻生に」
「そ…うだね?」
いつもと違う湊の声の大きさと勢いに思わず驚いてしまう。
「俺も…憂太と付き合うまで、恋はできてなかった。だ、だから、憂太と俺は一緒!」
だんだんと湊の頬が薄いピンク色に染まっていく。
「何が一緒…?」
「憂太は、ただ麻生の恋愛ごっこに巻き込まれただけじゃん。だから巻き込み事故と一緒!」
湊が急にソワソワしながら喋り始めるから、こっちも落ち着かなくなってきた。
「…んまあ、だから…なんていうか…ゆ、憂太が初めて本気で好きになったのは俺だろ?で!俺も、初めて本気で好きになったのは憂太!だから一緒!!」
照れ隠しなのか、湊の身振り手振りが落ち着かない。
「そんで、お互いが人生で初めてできた恋人!!お互い初めて!そゆこと!」
最後の方を強く言い切った湊は、僕の顔を見ることなく、冷蔵庫に飲み物を取りに行った。
堂々としているのか、恥じらっているのかわからない湊の態度は、僕にまで伝染して照れくさくなってくる。
湊なりの精一杯の励ましと、恋人への甘い言葉だったのかもしれない。
それに、耳まで赤くした湊の後ろ姿は、僕の胸を嬉しさと温かさでいっぱいにした。
「で、お茶!入れるか?」
顔の赤さが落ち着いていないままの湊が、僕の家の冷蔵庫の中からお茶を入れたガラス瓶を持って戻ってきた。
「うわ、憂太!お前、何照れてんだよ。言った俺まで恥ずかしくなってくるじゃん」
湊が僕の顔を見て驚く。
「へ?そんな変な顔になってる?」
湊に言われるまで自分がどんな表情をしていたか気づかなかった。
「めっちゃ変な顔になってる!珍しく顔面がふやけてる」
「ふやけるって。あははっ。それなら湊も真っ赤になってふやけてるじゃん」
「憂太よりはふやけてねーよ」
「いや、絶対ふやけてるよ」
「はぁ?じゃあ、もう、憂太なんかこうしてやる」
そういった湊が僕の両方のほっぺたを摘んで、グイッと引っ張った。
「ひったぁー。ほりゃっ」
僕も負けじと湊の頬を引っ張る。
そのまま気が済むまで、お互いの頬を引っ張りあった。
「あー。いったー。なあ、憂太。俺、ほっぺたついてる?」
「ついてるけど、赤くなってるよ」
そう言って、僕に引っ張られて赤くなった湊の両頬を手で包みこんだ。
「ね、僕が初めて心の底から好きだと思ったのは湊だ。それに触れたいって思ったのも、やきもちを妬いたのも初めて。僕の初めては全部、湊でできてる。本当にありがとう。僕に初めてをくれたのが湊で良かった」
改めて湊にお礼が言いたくなった。
「…おう。……じゃ、俺の初めても全部やるよ…」
「っふふ。湊の全部、もらっていいの?」
「いいんだよ!それに、今のは雰囲気的に優しくありがとうって言うとこだろぉ!」
照れくさそうにしながらも言葉にしてくれる湊を見ていると、誰かを心から好きになると笑顔がこんなにも自然に溢れるんだなと思った。
「(ありがとう、湊)」
(おわり)
「…俺、腹立つんだけど、やっぱり麻生のことは好きになれんわ」
僕は読み終わってから、過去のこととはいえ、怒るべきなのか何なのかわからなかった。
長くも短くもない手紙からは、謝罪の気持ちと麻生さんの保身のために僕が傷ついたことくらいしか読み取れなかった。
真実がどうであれ、僕があの時に感じたつらい気持ちや、息苦しい感覚は本物だ。
だからこそ、改めて真相を解き明かそうという気は湧いてこない。
「なあ、憂太!やっぱり憂太は付き合ったことなかったじゃん!彼女いたことなんかない!」
「え?」
湊が勢いよく立ち上がり、両腰に手を当てて立っている。
「憂太の初恋はやっぱり麻生じゃないってこと!なんていうか、んー、恋!してないじゃん、麻生に」
「そ…うだね?」
いつもと違う湊の声の大きさと勢いに思わず驚いてしまう。
「俺も…憂太と付き合うまで、恋はできてなかった。だ、だから、憂太と俺は一緒!」
だんだんと湊の頬が薄いピンク色に染まっていく。
「何が一緒…?」
「憂太は、ただ麻生の恋愛ごっこに巻き込まれただけじゃん。だから巻き込み事故と一緒!」
湊が急にソワソワしながら喋り始めるから、こっちも落ち着かなくなってきた。
「…んまあ、だから…なんていうか…ゆ、憂太が初めて本気で好きになったのは俺だろ?で!俺も、初めて本気で好きになったのは憂太!だから一緒!!」
照れ隠しなのか、湊の身振り手振りが落ち着かない。
「そんで、お互いが人生で初めてできた恋人!!お互い初めて!そゆこと!」
最後の方を強く言い切った湊は、僕の顔を見ることなく、冷蔵庫に飲み物を取りに行った。
堂々としているのか、恥じらっているのかわからない湊の態度は、僕にまで伝染して照れくさくなってくる。
湊なりの精一杯の励ましと、恋人への甘い言葉だったのかもしれない。
それに、耳まで赤くした湊の後ろ姿は、僕の胸を嬉しさと温かさでいっぱいにした。
「で、お茶!入れるか?」
顔の赤さが落ち着いていないままの湊が、僕の家の冷蔵庫の中からお茶を入れたガラス瓶を持って戻ってきた。
「うわ、憂太!お前、何照れてんだよ。言った俺まで恥ずかしくなってくるじゃん」
湊が僕の顔を見て驚く。
「へ?そんな変な顔になってる?」
湊に言われるまで自分がどんな表情をしていたか気づかなかった。
「めっちゃ変な顔になってる!珍しく顔面がふやけてる」
「ふやけるって。あははっ。それなら湊も真っ赤になってふやけてるじゃん」
「憂太よりはふやけてねーよ」
「いや、絶対ふやけてるよ」
「はぁ?じゃあ、もう、憂太なんかこうしてやる」
そういった湊が僕の両方のほっぺたを摘んで、グイッと引っ張った。
「ひったぁー。ほりゃっ」
僕も負けじと湊の頬を引っ張る。
そのまま気が済むまで、お互いの頬を引っ張りあった。
「あー。いったー。なあ、憂太。俺、ほっぺたついてる?」
「ついてるけど、赤くなってるよ」
そう言って、僕に引っ張られて赤くなった湊の両頬を手で包みこんだ。
「ね、僕が初めて心の底から好きだと思ったのは湊だ。それに触れたいって思ったのも、やきもちを妬いたのも初めて。僕の初めては全部、湊でできてる。本当にありがとう。僕に初めてをくれたのが湊で良かった」
改めて湊にお礼が言いたくなった。
「…おう。……じゃ、俺の初めても全部やるよ…」
「っふふ。湊の全部、もらっていいの?」
「いいんだよ!それに、今のは雰囲気的に優しくありがとうって言うとこだろぉ!」
照れくさそうにしながらも言葉にしてくれる湊を見ていると、誰かを心から好きになると笑顔がこんなにも自然に溢れるんだなと思った。
「(ありがとう、湊)」
(おわり)
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