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【番外編②】知らない雰囲気/憂太の過去(6)
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※憂太の視点で話は進みます※
※現在の湊は憂太の家に向かう途中に、「暑いから2人分のアイス買って、憂太の家に行こっ」と思いながらアイスを選んでいます。そして、憂太も「暑いし、迎えに行く途中で湊の分のアイスも買おう」と考えて、コンビニに寄っています※
新学期になり、久しぶりに登校する。
夏休み前に工事していた駅前のロータリーは、工事を終えて綺麗に補装されていた。
「山岸、おはよう」靴箱で会ったクラスメイトに挨拶をする。
「…お、おはよう…」
歯切れの悪い返事にモヤっとした。
廊下を歩き、教室に入った瞬間だった。
クラスメイトたちの笑い声が、しん…と一瞬静まったように感じた。
靴箱での挨拶といい、今の静まり方といい、心臓に悪い。
「(ん?なんかあったかな…)」
自分の席を探して、鞄を机の上に置き、椅子に座る。
相変わらず教室の雰囲気が変だ。
「(なんだろう…気のせいかな…)」
だんだんと1人だけ世界に取り残されたようで不安になる。
久しぶりの学校にワクワクしていた分、恐怖で自分の心臓の音が聞こえそうだ。
机の前で誰かの足が止まる。
「なあ、ゆうたくんってお前だよな?」
視線を机から声の方へ向けると、目の前に僕より少しだけ背の低いガッチリとした体型の隼人が立っていた。
「え、うん。そうだけど…」
「美海、俺の彼女って知ってたよな?なんでちょっかいかけた?」
「(は?)」
目の前が真っ白になった。
何を言っているのか分からない。
「ちょっかいってなに…」
「いやいや、麻生美海。俺の彼女じゃん。なんで夏休み中に手出してんだよ。しかも、俺たちが喧嘩して、冷静になろうとしてる間にさ」
「出してな…」
出してないというには無理があると自分でも分かった。
たとえ1週間だとしても、付き合っていたことに変わりはない。
「でもそれは、麻生さんのほうから言ってきてて、別れたって聞いて…た…」
うわ、最低。
どこかから聞こえてきた。
誰が言ったか分からなかった。
でも確かに、僕に向かって言った言葉だっていうのが分かった。
「最低」の次に聞こえてきたのが「自分のために女子を売るとか…」みたいな言葉だったからだ。
「(あぁ、そっか。ここで隼人くんの言葉を認めたら、人の彼女に手を出した最低野郎になるし、否定したら嘘をついて麻生さんを売る最低野郎になるのか…)」
クラスのみんなは遠くから見物しているだけで、誰も何もしない。
むしろ、隼人を加勢しているようにも思えてくる。
それも仕方のないことかもしれない。
隼人はいわゆるスクールカースト上位の人間だ。
不良ではないかもしれないが、それなりガタイも良く、服装も交友関係も派手でとにかく目立つ。
そんな影響力の強い人物が言っていることだからか、クラスのみんなも隼人を疑ってもいなさそうだった。
「それならちゃんと説明するから、ここじゃなくてもいい?」
「は?なに言ってんの。説明もなにも美海から全部聞いたんだって。だから、嘘つかねーようにわざわざ、ここで言ってるのわかんない?」
「え、えっと…」
騒ぎを聞きつけて、他のクラスの人たちも何人か教室を覗きにきている。
「自分のことぐらい説明できんだろ」
クラスのみんなの視線が痛い。
誰か助けてほしい。
僕は嘘を言ってない。
怖い。
どうしたらいいか分からない。
誰も変だと思わないの…。
もう、僕はなんて言ったらいい…。
必死に言葉を探しているうちに呼吸が速くなってきているのがわかる。
それでも、何か言わなければ…と自分の身体の異変を無視して言葉を探す。
「…っはぁ…」
苦しい。
上手く息を吸って、吐くことができなくて、ギュッと目を閉じた。
※現在の湊は憂太の家に向かう途中に、「暑いから2人分のアイス買って、憂太の家に行こっ」と思いながらアイスを選んでいます。そして、憂太も「暑いし、迎えに行く途中で湊の分のアイスも買おう」と考えて、コンビニに寄っています※
新学期になり、久しぶりに登校する。
夏休み前に工事していた駅前のロータリーは、工事を終えて綺麗に補装されていた。
「山岸、おはよう」靴箱で会ったクラスメイトに挨拶をする。
「…お、おはよう…」
歯切れの悪い返事にモヤっとした。
廊下を歩き、教室に入った瞬間だった。
クラスメイトたちの笑い声が、しん…と一瞬静まったように感じた。
靴箱での挨拶といい、今の静まり方といい、心臓に悪い。
「(ん?なんかあったかな…)」
自分の席を探して、鞄を机の上に置き、椅子に座る。
相変わらず教室の雰囲気が変だ。
「(なんだろう…気のせいかな…)」
だんだんと1人だけ世界に取り残されたようで不安になる。
久しぶりの学校にワクワクしていた分、恐怖で自分の心臓の音が聞こえそうだ。
机の前で誰かの足が止まる。
「なあ、ゆうたくんってお前だよな?」
視線を机から声の方へ向けると、目の前に僕より少しだけ背の低いガッチリとした体型の隼人が立っていた。
「え、うん。そうだけど…」
「美海、俺の彼女って知ってたよな?なんでちょっかいかけた?」
「(は?)」
目の前が真っ白になった。
何を言っているのか分からない。
「ちょっかいってなに…」
「いやいや、麻生美海。俺の彼女じゃん。なんで夏休み中に手出してんだよ。しかも、俺たちが喧嘩して、冷静になろうとしてる間にさ」
「出してな…」
出してないというには無理があると自分でも分かった。
たとえ1週間だとしても、付き合っていたことに変わりはない。
「でもそれは、麻生さんのほうから言ってきてて、別れたって聞いて…た…」
うわ、最低。
どこかから聞こえてきた。
誰が言ったか分からなかった。
でも確かに、僕に向かって言った言葉だっていうのが分かった。
「最低」の次に聞こえてきたのが「自分のために女子を売るとか…」みたいな言葉だったからだ。
「(あぁ、そっか。ここで隼人くんの言葉を認めたら、人の彼女に手を出した最低野郎になるし、否定したら嘘をついて麻生さんを売る最低野郎になるのか…)」
クラスのみんなは遠くから見物しているだけで、誰も何もしない。
むしろ、隼人を加勢しているようにも思えてくる。
それも仕方のないことかもしれない。
隼人はいわゆるスクールカースト上位の人間だ。
不良ではないかもしれないが、それなりガタイも良く、服装も交友関係も派手でとにかく目立つ。
そんな影響力の強い人物が言っていることだからか、クラスのみんなも隼人を疑ってもいなさそうだった。
「それならちゃんと説明するから、ここじゃなくてもいい?」
「は?なに言ってんの。説明もなにも美海から全部聞いたんだって。だから、嘘つかねーようにわざわざ、ここで言ってるのわかんない?」
「え、えっと…」
騒ぎを聞きつけて、他のクラスの人たちも何人か教室を覗きにきている。
「自分のことぐらい説明できんだろ」
クラスのみんなの視線が痛い。
誰か助けてほしい。
僕は嘘を言ってない。
怖い。
どうしたらいいか分からない。
誰も変だと思わないの…。
もう、僕はなんて言ったらいい…。
必死に言葉を探しているうちに呼吸が速くなってきているのがわかる。
それでも、何か言わなければ…と自分の身体の異変を無視して言葉を探す。
「…っはぁ…」
苦しい。
上手く息を吸って、吐くことができなくて、ギュッと目を閉じた。
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