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【番外編②】夏休み/憂太の過去(4)
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※憂太視点で進みます※
※現在の憂太は湊と楽しく夏祭りに出かけたり、家でゴロゴロしたりして夏休みを満喫しています※
夏休み前の麻生さんとの一件は、胸をざわつかせたが何事もなく夏休みを迎えることができた。
のんびり高校最後の夏休みを過ごし、大学入試に向けた勉強にも力を入れている。
スマートフォンが鳴り、通知を見ると麻生さんだった。
「今日の夜会えない?」
一言だった。
また彼氏の隼人くんと喧嘩したのかと思った。
夜遅くまで外を出歩くのは気が引けるから、まだ陽がぼんやり空に残る時間帯に会うことにした。
「ほんとごめんね、急に」
「ううん、大丈夫。暑いしどこか入る?」
「いや、この辺りで大丈夫。少し歩かない?」
2人の家からちょうど良い距離だったから、高校の最寄り駅で会うことにした。
最寄り駅のすぐ目の前は小さめのショッピングモールが建っているが、少し歩くと昔ながらの商店街があり、大きめの道路を挟んで公園もある。
程よい田舎さが残る街並みだ。
所々、今日の仕事を終え、シャッターを下ろしている商店街を歩く。
「隼人とね、距離を置こうって夏休みに入る前になって、もう3週間ぐらい連絡も取ってなくて、会ってもないんだよね」
衝撃だった。
半年以上、間接的ではあるが2人の間を一生懸命取り持っていたから、何とくショックだ。
「いわゆる、自然消滅!あはは、こんな終わり方もあるんだね」
「そ…れは…」
気丈に振る舞っているように見える麻生さんは、少し痩せたようにも見えた。
「でね、ゆうたくん。私と付き合わない?」
「え!?」
さらなる衝撃だった。
「いや、別れたばっかりじゃ…それに、僕は麻生さんのこと応援してたから、付き合いたいって思ったことないというか…」
ただただ気まずかった。予想していなかったし、こういう時は何が正解なのかわからない。
「え?憂太くん、私と付き合う気はなかった…ってこと…?」
麻生さんが口元に手を当てて、ショックを隠しきれない様子を見せている。
「憂太くんが前に言ったこと本気にしてたの私だけだったんだね」
口元だけでなく、顔全体を手で覆っている。
小さい背中がさらに小さく見える。
「私、憂太くんの言葉本気にして、隼人とバイバイしちゃったのに…なんだか裏切られたみたいでショックかも…ごめんね」
血の気が引いた。
人の関係を僕が無意識に裂いたのかと思った。
それに、麻生さんに対しても思わせぶりなことをしていたのかと思うと、急に怖くなった。
手が冷えていくのがわかる。
麻生さんのことは嫌いではないが、好きでもなかった。
困っている人がいるのであれば、ほんの少しの助けにしかならなくても手を差し伸べられる人でありたいと思っていた。
それなのに、いつの間にか真逆のことをしていたなんて。
無言になっている僕の手を麻生さんは掴んで、「私って彼女だったら、やっぱり嫌なのかな…」と呟く。
頭の中がグルグルする。
麻生さんの想いには応えられないと思う自分と、2人の間を裂いて傷つけたのだから麻生さんだけでも幸せにすべきだと罪悪感に苛まれる自分、あれだけ相談してきておいて別れたという一言すらくれないなんて薄情じゃないかと苛立つ自分。
「嫌じゃ…ないよ…」
「ほんと?じゃあ、付き合ってくれる?」
「……うん」
掴んでいた僕の手をするりと恋人繋ぎに変え、嬉しそうに喜ぶ麻生さんをぼーっと眺める。
「(付き合ってみたら好きになるかもしれない…)」
強く、強く、何度も心の中で繰り返し、そう思い込むことにした。
※現在の憂太は湊と楽しく夏祭りに出かけたり、家でゴロゴロしたりして夏休みを満喫しています※
夏休み前の麻生さんとの一件は、胸をざわつかせたが何事もなく夏休みを迎えることができた。
のんびり高校最後の夏休みを過ごし、大学入試に向けた勉強にも力を入れている。
スマートフォンが鳴り、通知を見ると麻生さんだった。
「今日の夜会えない?」
一言だった。
また彼氏の隼人くんと喧嘩したのかと思った。
夜遅くまで外を出歩くのは気が引けるから、まだ陽がぼんやり空に残る時間帯に会うことにした。
「ほんとごめんね、急に」
「ううん、大丈夫。暑いしどこか入る?」
「いや、この辺りで大丈夫。少し歩かない?」
2人の家からちょうど良い距離だったから、高校の最寄り駅で会うことにした。
最寄り駅のすぐ目の前は小さめのショッピングモールが建っているが、少し歩くと昔ながらの商店街があり、大きめの道路を挟んで公園もある。
程よい田舎さが残る街並みだ。
所々、今日の仕事を終え、シャッターを下ろしている商店街を歩く。
「隼人とね、距離を置こうって夏休みに入る前になって、もう3週間ぐらい連絡も取ってなくて、会ってもないんだよね」
衝撃だった。
半年以上、間接的ではあるが2人の間を一生懸命取り持っていたから、何とくショックだ。
「いわゆる、自然消滅!あはは、こんな終わり方もあるんだね」
「そ…れは…」
気丈に振る舞っているように見える麻生さんは、少し痩せたようにも見えた。
「でね、ゆうたくん。私と付き合わない?」
「え!?」
さらなる衝撃だった。
「いや、別れたばっかりじゃ…それに、僕は麻生さんのこと応援してたから、付き合いたいって思ったことないというか…」
ただただ気まずかった。予想していなかったし、こういう時は何が正解なのかわからない。
「え?憂太くん、私と付き合う気はなかった…ってこと…?」
麻生さんが口元に手を当てて、ショックを隠しきれない様子を見せている。
「憂太くんが前に言ったこと本気にしてたの私だけだったんだね」
口元だけでなく、顔全体を手で覆っている。
小さい背中がさらに小さく見える。
「私、憂太くんの言葉本気にして、隼人とバイバイしちゃったのに…なんだか裏切られたみたいでショックかも…ごめんね」
血の気が引いた。
人の関係を僕が無意識に裂いたのかと思った。
それに、麻生さんに対しても思わせぶりなことをしていたのかと思うと、急に怖くなった。
手が冷えていくのがわかる。
麻生さんのことは嫌いではないが、好きでもなかった。
困っている人がいるのであれば、ほんの少しの助けにしかならなくても手を差し伸べられる人でありたいと思っていた。
それなのに、いつの間にか真逆のことをしていたなんて。
無言になっている僕の手を麻生さんは掴んで、「私って彼女だったら、やっぱり嫌なのかな…」と呟く。
頭の中がグルグルする。
麻生さんの想いには応えられないと思う自分と、2人の間を裂いて傷つけたのだから麻生さんだけでも幸せにすべきだと罪悪感に苛まれる自分、あれだけ相談してきておいて別れたという一言すらくれないなんて薄情じゃないかと苛立つ自分。
「嫌じゃ…ないよ…」
「ほんと?じゃあ、付き合ってくれる?」
「……うん」
掴んでいた僕の手をするりと恋人繋ぎに変え、嬉しそうに喜ぶ麻生さんをぼーっと眺める。
「(付き合ってみたら好きになるかもしれない…)」
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