上 下
72 / 82

【番外編】 鈍感/憂太の彼氏力が高かった理由⑥

しおりを挟む
「逆に、湊は今まで彼女いなかったのに、どうやって僕に教えようと思ってたの?」

憂太からシンプルな疑問が投げかけられる。

「(うわぁ)」

反射的に俺よりも10cmほど背の高い憂太を見上げる。

恥ずかしいから触れてほしくない部分だったのに、あっさり触れられてしまった。

俺も憂太にズケズケと質問したんだから仕方がない。

無邪気に質問する憂太の顔が、月明かりに照らされて輝いているように見える。

「……友達の話とか、後で調べようかと思ってた…」

正直に話すのは想像以上に恥ずかしかった。

もう、さっきまで肌寒さは感じない。

憂太から目を逸らしたから、憂太の笑っている声だけが聞こえる。

「わ、笑うな!彼女いることにしてたし、俺だってモテるやつって思われたかったんだよ!」

言い訳をすればするほど恥ずかしさが増してくる。

「おい、ゆうた!もう笑うの禁止!」

ツボに入ったのか、憂太は涙を目に浮かべて笑っている。

「おいぃ!」

憂太の両腕を掴み大きく揺らす。

「ごめん、ごめん。あはは。あんまりにも素直で、ツボっちゃった」

笑いを堪えきれていない憂太が胸に手を置いて、深呼吸をする。

「はぁー。でも、湊、モテないって言うけど、実際はそんなことないと思うよ」

笑ったと思ったら、今度は慰めてくれているのだろうか。

「湊って基本的に人の感情に気がつくの得意なくせに、恋愛感情には鈍感じゃん」

「そんなことない!」

「そうだよ」

「なんで?どこが?」

自分でも周りの人の感情に気づくことが得意だという自覚はある。

それなら恋愛感情も例外じゃないはずだ。

「だって、僕がはっきり好きだって言葉にするまで分かってなかったでしょ」

「(ぐ…なんとも言えない…)」

憂太も俺と同じ気持ちだったら良いなとは思っていたが、完全に確信を持っていたわけではなかった。

「ほらー、全然僕からの好意に気がつかないくせに、どんどん距離を縮めさせるから、内心ちょっとハラハラしてたよ」

憂太が目を細めて、じろりと俺を見た。


「だから、女の子たちも湊のあまりの鈍感さに、ああ、脈無しなのかって退散してたんだよ。きっとね」

「え、そんなことあった…のか…?」

「僕が知ってる限りでも何度か見てたよ。2人で夜ご飯誘われたり、家に誘われてるのに他の友達も誘ってたり。僕と遊ぶからとか言って断ってたり。ボディタッチされても気にしなさすぎでしょ」

言われてみても全く思い出せない。

あんまり仲良くないうちに遊ぶなら、大勢の方が相手も気を使わなくていいかなとか思っていた。

ボディタッチなんて余計に思い出せない。

「ま、これからは僕がいるし問題ないもんね?」

「…うん、まあ、そだな」

これまでの人生で彼女ができたかもしれないチャンスを自ら潰していたなんて。

それよりも俺は恋愛に関して鈍感なんだと気がつかされ、雷にでも打たれた気分だ。

「え?そこ、はっきり言ってくれないんだ、湊ー?」

ハッとして憂太を見ると、わかりやすくショゲていた。

「憂太、ちがうちがう!」

「なにが違うんだよー」

「俺、そんな鈍感なタイプ?って驚いてただけ!それなら、これまでも無意識に憂太を傷つけてたりしたのかなって」

「今、傷つけられてるよ?」

憂太はしょげたと思ったら、次は口を尖らせている。

「ゆ、憂太がいるから俺は問題ない!憂太といるの楽しいし」

憂太の手のひらの上でコロコロと転がされているなと思うのに、それがまた楽しい。

「はい、よろしい!湊ちゃん」

「おい、誰が湊ちゃんだ」

こうして、ひひひと笑っている憂太の横顔も可愛くて好きだ。

「あ、俺ん家、シャンプー切れてるから、後で薬局寄ってね」

「はいはい。ついでにアイスも買って帰ろ」

「アイスは風呂入ってからな」

「はいはい」

たわいもない会話、俺たちはきっとこれからもこんな感じなのだろう。

(終わり)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

処理中です...