経験はないけど彼氏の作法を教えてやるよ

つかさ

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【番外編】 弱点/憂太の彼氏力が高かった理由③

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「でもまあ、湊、ちゃんと聞いてたなら分かるでしょ?」

「んん?」

どういうことだ?俺にだけ特別にってことで合ってるのか?とハンバーグを頬張りながら考える。



「相変わらず鈍感だなあ、湊」

憂太がハンバーグを口に運ぶことを中断した。

「何も分かってなさそうだけど…わざとしてたに決まってるじゃん」

「わざと?俺だけに?…そっかぁ…」

自分の都合の良い想像と合っていたことに、ほわほわっと喜びが湧いてきた。

憂太の「俺にだけ、わざと…」という言葉で十分だった。

それだけで、随分前から憂太を独占できていたのかと嬉しくなる。

「それならいい!もう大丈夫!」

「え?僕は大丈夫じゃない。絶対に湊は分かってない」

そう言うと、憂太が夕食時のファミリーレストランだというのに、はっきりと何かを言おうとしている。

「僕は、湊のことが好きだったし、恋人の練習とか言って湊は僕にキスを許したんだから、ほんの少しでも望みはないかなって思ってた」

あまりに堂々とはっきりと話す憂太に、俺たちの周りに座っている人たちが反応した。

チラッと周囲を見渡すと、憂太の声が聞こえたであろう人たちが俺と同じ驚いているような、照れているような顔をしていた。

「ちょ、ゆ、ゆうた!?待って、ここ外!」

「うん、分かってるよ。だからこそ…」

何食わぬ顔で続きを話そうとする憂太を、慌てて止めた。

「わかった!だから、もうちょい小さい声で話し…」

「やだ!」

俺の必死の訴えは、憂太の子どもみたいな返事で遮られた。

「や…って、なんでだよ」

「湊が僕のことを思わせぶりをする奴みたいな言い方するからじゃん」

「ごめん、そんなつもりじゃなくてさ」

自分のことを話す恥ずかしさを紛らわせようと、安易に憂太をからかったのが良くなかった。

それもそうだ。

憂太はあまり恋愛に関して良い思い出がないと知っていたのだから。

傷つけてしまったかなと反省していると、憂太が口を開いた。

「ま、さっきのは僕が嫌がること言ってきた湊への仕返しかな」

反省していたのに、憂太の仕返しという言葉を聞いてポカンとした。

「湊、こういうの弱いもんね?」

机に頬杖をつきながら、にやりと笑っている。

なんて言い返そうか考えていると、口がポカンと開いたままになった。

「ねえ、湊のそういう分かりやすいところも、単純なところも好きだよ」

憂太は2人きりの空間にいるかのように、まっすぐ俺を見ている。

「照れてるところも、焦ってるところもかわいいって思えて好き」

後光がさしているかと思うくらいの笑顔で憂太が好きを連呼してくる。

「ちょ、ま…待って待って、分かった。俺が悪かったから、落ち着け。ゆっくり話そう、ゆっくり!」

俺の反応を見て面白がっている憂太の口を塞ぐために、机に身を乗り上げて手で押さえた。

さっき感じたホワホワした温かく嬉しい気持ちは、いつの間にかハラハラドキドキするものに変わっていた。
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