経験はないけど彼氏の作法を教えてやるよ

つかさ

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【番外編】 彼女としての紹介/憂太の彼氏力が高かった理由①

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「湊、何食べる?」

「俺はもう決めてる!チーズハンバーグの1番でかいサイズ!」

昨日の晩に放送されていたテレビ番組を見てから、どうしてもハンバーグを食べたくなって、大学の帰りに憂太を誘ってハンバーグを食べにきた。

ハンバーグをメイン料理にしているファミリー層向けのレストランでもあって、学校帰りの高校生や小さい子どもを連れた夫婦など様々な人が早めの夕食を楽しんでいる。

「んー、じゃあ僕は目玉焼きが乗ってるやつにする」

「サイズは?」

「レギュラーサイズでいいよ。ついでにポテト頼みたいんだけど湊も食べるでしょ?」

「食べる食べる」

「食べ盛りですねえ、湊くんは」

「憂太が食うかって聞いたんじゃん!それに食べた分、まだ身長伸びるかもしれないだろ」

「僕を越せると良いね。応援してる」

こんな風にからかってくる憂太と付き合い始めて3か月は経った。

恋人だなと感じる瞬間もあるが、今みたいな友人同士のような会話も楽しい。

常に親友と恋人が近くにいるみたいな気分だ。

「そういえばさ、憂太、やっぱお前モテんだな」

4月に入り、湊と憂太は共に4年生になった。

大学には新1年生が入学し、2人が所属する研究室にも新たに3名メンバーが加わった。

「んー?そう?」

相変わらず自分に向けられる甘い視線には興味がないらしい。

「そうだよ!同じ学部の新入生にも噂になってるらしいぞ。研究室に入ってきたばっかりの3年生にも、憂太に彼女はいるかって聞かれたもん」

「なんて答えたの?」

憂太は新しく研究室に入ってきた3年生ではなく、俺の答えの方が気になったらしい。

「…いるって言っといた」

「それから?」

机に頬杖をつきながら、何の興味もなさそうに聞いていた憂太の目が突然輝き始めた。

「それからって?」

「彼女はどんな人?とか聞かれなかったの?」

これは墓穴を掘ったなと思った。

実際、何人かに聞かれていたし、俺は本人に伝わらないだろうと思って、自分自身のことを彼女として話していた。

「………きかれてない」

「絶対嘘じゃん」

「うそじゃない」

「で、なんて言ったの?」

憂太の恋人である俺自身のことを、周りになんて紹介したのか、本人の目の前で発表するなんてとんでもない罰ゲームだ。

「適当に同じ歳の人で、元々運動部だったらしいよって言った」

「うんうん」

「終わり。そんだけ」

まだ続きがあるでしょ、と言いたそうな頷きに押し負けそうになる。

「絶対それで、そうなんだあーって終わらないでしょ」

なんでわかるんだよ、と心の中でツッコミを入れてしまう。

「どんな性格?とか、かわいい系?美人系?とか聞かれなかったの?」

「…聞かれた」

正直に答えると、次に「なんて答えたの」って返されるのが分かっているから、返事が小さくなった。

「で、なんて答えたの?」

予想通りだった。

腹を括って、どれだけ俺が調子に乗って憂太の彼女像を伝えたかを話し始める。

「まず!かわいい系か美人系か、という質問には、かわいい系って言った!」

恥ずかしさを堪えて話す俺の様子を見て、憂太の整った顔は笑いを堪えるせいで崩れかかっている。

「それから、ちゃんと筋肉もあるし、かっこいい体型って言った」

「なにそれ」

もうだめだと言って、腹を抱えながら笑いだした。

「性格は聞かれなかったの?」

「せ、性格は…明るくて、元気で、誰とでも仲良くできて、たまに思ってることが顔に出てバレやすいけど…ちゃんと相手のことを考えて行動できる良い子って言った…」

正直に話したものの、羞恥心に身体が支配される。

「(公の場でこれは恥ずかしすぎだろ、今すぐベッドの中に潜り込んで隠れたい…)」

特に驚いたり、恥ずかしくなったりすると顔に出やすいから、今の感情もきっと憂太にはバレているのだろう。

「あはは。湊、おもしろすぎ。めっちゃ自分のこと褒めてるじゃん」

憂太が笑いすぎて涙目になっている。

大きな声で笑っているわけではないのに、普段のクールさとのギャップで大爆笑しているように見える。

「それに、最後に僕が言った言葉をちゃんと入れてたんだね」

顔に身体中の熱が駆け上がってくる。

しれっと言ったつもりだったのに、憂太は自分が3か月ぐらい前に言ったことを覚えているなんて。

憂太は俺の顔を見て、「本当だから良い紹介じゃん」と言って笑っていた。

この雰囲気に耐えられそうになって、グビグビとコップに注がれていた冷水を飲み干す。
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