上 下
44 / 82

第44話 大声

しおりを挟む
「(違う、憂太にこんな顔をさせたい訳じゃない。それに俺たちは本当の恋人じゃないし、俺も憂太に嘘ついたままじゃん)」

頭では落ち着いて話をしないといけない分かっているのに、口から飛び出す言葉を止められない。

「じゃあ何だよ。なんで言ってくれなかったんだよ。俺、お前の言葉信じて……恋人の練習とか言ってさ、完全に馬鹿じゃん」

泣きそうになってる憂太よりも先に涙が出てくる。

「ほんとに騙すつもりじゃなかったんだ、湊、聞いてくれ!」

「やだよ!何を聞くんだよ、お前が俺に嘘ついてどうやって楽しんでたかってことをか?」

ショックが大きすぎて、必死に弁明しようとする憂太の声を遮った。


「騙すつもりなんてある訳ないだろ!!」

初めてこんな憂太の大きな声を聞いた。

大声を聞いて、はっと我に返った。

まっすぐ俺を見る憂太の目には、今にもこぼれ落ちそうな涙が溜まっている。

「…頼む、湊。聞いてくれ、ちゃんと話すから」

憂太の震えるような弱々しい声を聞くと、泣きやみたいのに涙が止まらない。

「…やだよ。聞きたくない。こっち来んな」

俺の目から流れる大粒の涙を拭こうと、憂太の手が頬に触れた。

憂太の手は冷たくなって、震えていた。

「さわんなぁ…ひっく…」

泣き顔を見られないように膝を抱えたまま俯いた。


………ぎゅ。

温かくて、安心するいつもの体温と匂いが俺の身体全体を包み込んだ。

憂太が膝を抱える俺を横から抱きしめていた。

「湊…本当にごめん。いつかきちんと話そうと思っていたんだ。ただ…話したら今の関係が終わるかもしれないと思うと怖くて…でも、正直に話すから聞いてほしい」

耳元で憂太の優しくて、少し掠れた低い声が聞こえる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

孤独な戦い(6)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

孤独な戦い(2)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

禁断の寮生活〜真面目な大学生×体育会系大学生の秘密〜

藤咲レン
BL
■あらすじ 異性はもちろん同性との経験も無いユウスケは、寮の隣部屋に入居した年下サッカー部のシュンに一目惚れ。それ以降、自分の欲求が抑えきれずに、やってはイケナイコトを何度も重ねてしまう。しかし、ある時、それがシュンにバレてしまい、真面目一筋のユウスケの生活は一変する・・・。 ■登場人物 大城戸ユウスケ:20歳。日本でも学力が上位の大学の法学部に通う。2回生。ゲイで童貞。高校の頃にノンケのことを好きになり、それ以降は恋をしないように決めている。自身はスポーツが苦手、けどサカユニフェチ。奥手。 藤ヶ谷シュン:18歳。体育会サッカー部に所属する。ユウスケとは同じ寮で隣の部屋。ノンケ。家の事情で大学の寮に入ることができず、寮費の安い自治体の寮で生活している。

孤独な戦い(5)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

【完結】女装ロリィタ、職場バレしました

若目
BL
ふわふわ揺れるリボン、フリル、レース。 キラキラ輝くビジューやパール。 かぼちゃの馬車やガラスの靴、白馬の王子様に毒リンゴ、ハートの女王やトランプの兵隊。 ケーキにマカロン、アイシングクッキーにキャンディ。 蔦薔薇に囲まれたお城や猫脚の家具、花かんむりにピンクのドレス。 ロココにヴィクトリアン、アールデコ…… 身長180センチ体重80キロの伊伏光史郎は、そのたくましい見かけとは裏腹に、子どもの頃から「女の子らしくてかわいいもの」が大好きな25歳。 少女趣味が高じて、今となってはロリィタファッションにのめり込み、週末になると大好きなロリィタ服を着て出かけるのが習慣となっていた。 ある日、お気に入りのロリィタ服を着て友人と出かけていたところ、職場の同僚の小山直也と出くわし、声をかけられた。 自分とは体格も性格もまるっきり違う小山を苦手としている光史郎は困惑するが…… 小柄な陽キャ男子×大柄な女装男子のBLです

処理中です...