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02.鬼上司と歪な関係
05.突然の知らせ
しおりを挟む「梨沙おはよ~」
「加藤さん、おはようございます」
加藤さんは何だか私に言いたげな雰囲気。
「何かあったんすか」
勿体ぶって、ゆっくりと重い口を開く。
「ねえ、高濱さん、大阪で支店長やるらしいよ
聞いた?」
「えっ?」
寝耳に水だった。
普通であれば、転職してきてから1年で
部署のトップになることも滅多にないのだが
それに加えて、まだ3年で支店長になるなんて
聞いたことがない。
「それほんとですか?」
「え、あんなに高濱さんのお世話してるのに
ほんとに聞かされてないの?」
梨沙も大阪行っちゃうかもしれないと思ったのに
安心した、とホッとする加藤さん。
私は内心穏やかではいられない。
「それって決定事項ですか?!いつ?!」
「人事と総務が話してたけど、来年?
4月からとか聞いたけど
高濱さんも受けるつもりらしいよ」
信じられない。
「よかったね、平和になるじゃん」
嘘だよね?
「なんだ、嬉しくなさそうだね」
「高濱さんがいなくなったら、
引っ張ってくれる人いなくなるなあって……」
「新しい人来るでしょ、心配することないよ」
一歩先を歩く加藤さんに
顔を見られていなくてよかった。
今の自分、とんでもなく引き攣った表情を
しているに違いない。
──────
「高濱さん、大阪行っちゃうんですか」
「……誰から聞いた、
関係ある奴しか知らないはずだ」
同行が終わって、喫煙所でタバコを吸う高濱さんを
横目でチラッと見て、真っ直ぐ向き直す。
「私は関係ないんですか?」
「……ああ、お前には関係ないことだ」
同じチームなのに。
私は本当にただのお荷物社員だった
ということなのだろうか。
事務所に戻ってコーヒーを淹れようと
談話室に行くと、藍沢さんがちょうど
打ち合わせから戻ってきたところに居合わせた。
「藍沢さんは高濱さんのこと、知ってたんですか」
藍沢さんもバツが悪そうに口元に手をやって頷く。
「ああ……武田さんと俺は聞かされてたよ
今後のことがあるからね、久野くんも知らないし
相良くんももちろん知らないよ」
そうですか、としか言えない私に藍沢さんが
少し間を開けて話を続ける。
「俺もさ、高濱さんがいなくなるの
正直めちゃくちゃ不安だよ、
新陳代謝の激しいチームだから
仕方ないのは分かってるけど、
今の編成は脆弱すぎる。
武田さんもそのうち別のチームになるだろうし、
そうなったら俺が一番社歴長いのかよって感じ」
それでもどこか覚悟が決まっているような、
悟っているような目をする藍沢さん。
「大企業の、売上を支えてる事業の
トッププレイヤーとか、責任者とか
そういう話になってくるんだよな、俺達がさ」
呑気に、大きな仕事を、一番後ろで
一緒になってやった気分になっている。
楽しそうだからと気軽に手をあげて、
つかせてもらったポジションには
重い、重い重圧がのしかかってきた。
「加藤さんが、新しい人来るんじゃないかって…」
「それでもこの部署、この会社を
よく知ってるのは俺達だろ?
今のうちにマニュアルとフロー整理しておいて」
無責任な私の発言に何事も言わずに
お茶を汲んで事務所に戻る。
それにしても、本当に高濱さん、
大阪行っちゃうんだなあ。
藍沢さんに言われて、密かにフローチャートや
マニュアルの再整備を始めた。
急な展開に未だ気持ちが追いつかず、
上の空で進めていた。
高濱さんが大阪に行くまで、
加藤さんの話が正確であれば半年。
関係ない、そう言われたのが妙に腹立たしい。
今までのこと、セクハラで
訴えてやろうかと思ったが、
仕掛けたのは私だった。
「梨沙、もう20時だぞ」
「あっ」
もうこんな時間?
珍しく高濱さんが会食に出掛けてない。
他のチームメンバーはもういつの間にか
みんな退勤している。
うちの会社はこう見えてハラスメントに厳しい。
上司が異性の部下をサシ飲みに誘うのもアウトだ。
「高濱さん、フローチャート整理頑張ったんで
一杯奢ってください」
「…いいけど」
・
・
・
そう言って、飲みに来たはいいものの、
なんだかきまずい。
何を話せばいいのか探り合ってる。お互いに。
「酒量自分でコントロールできるようになったら
安心して営業に出せるんだけどな」
そう悪態ついてくれる人ももう居なくなって、
完全に独り立ちするというビジョンが見えない。
「高濱さんいなくなるとか、想像つかないです」
「不安か?」
「そりゃ……まあ……久野さんと相良くんにも
早めに言っといたほうがいいと思いますよ」
高濱さんは私を横目で見て、酒を煽った。
私が意見するといつも不服そうにする。
自分が常に正しいと言わんばかりに。
タバコを1本出して、火をつける。
高濱さんのタバコを吸う姿が、色気があって好きだ。
「……吸うか?」
箱の底をトントン、として一本だけ出てきたのを
私に向ける。
「いーんですか」
それを口で受け取って火をつけてもらう。
「自分でやれよ」
高濱さんは私のことどう思ってるんだろう。
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