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03.親離れ子離れ
01.優しさとは
しおりを挟む10月。
高濱さんの異動まで、まだ半年はあるはずなのに
ここ最近大阪出張が増えてきた。
「え、今日も高濱さん大阪でしたっけ、ラッキー」
「明日稟申なのにどうすんだよ~」
高濱さんがいなくて寂しいのは私だけみたいだ。
昼休み。
「梨沙、悪いけど藍沢の資料手伝ってくんねえか」
高濱さんから電話がかかってきた
と思ったら、お疲れ様です、を言う暇もない勢いで
言われる。
「どうしたんですか」
「専務にコンセプトもアプローチも
全部やり直せってひっくり返されたんだよ
散々やってきたのにふざけやがって……」
慌てて事務所に戻ると藍沢さんが一人で
pcに向かっていた。
「俺明日まで大阪だから今日の夕方
信託銀行に持っていくのあいつに任せてんだよ、
時間ないから頼む」
それだけ言って切れる電話。
「藍沢さん、手伝いますよ」
「…高濱さんから聞いた?」
高濱さんがいる日が少なくなって、
いる日はますます緊張感が増したように思う。
高濱さんがこうしてアシストしてくれるから
チームが上手く回っているというのは大いにある。
「梨沙さんごめんね、昼休み途中だったよね」
藍沢さんが、昨日も23時頃まで残ってたの、
知ってるから、何もいえない。
何だか、最近本当に落ち着かないな。
・
・
・
次の日、高濱さんが大阪から戻ってきて、
朝から早速資料の誤植で叱られた。
下らない、取るに足らない誤字を目敏く指摘されて
"お前はなんならできるんだよ"
なんて言われて、
イラついて、つい無視してしまった。
高濱さんの小姑みたいなところだけは
本当に苦手だ。
打ち合わせ2本終えても顔が見える度に
ふつふつと湧き上がってくる苛立ち。
気分転換に営業電話でもかけようと、
フリースペースに足を踏み入れると、
奥の方で事業部長と高濱さんが何やら話してる。
チラッと私の名前が出たので、
何の話かと思わず聞き耳を立てた。
「育てる気がないんじゃないです、
事業部長も、長年やってきてるんだから
ご存知でしょう」
「ああ、わかるよ。
でも鈴木さんは望んで来てるんだ、
男女差別は今どき良くないだろ
成長期会を与えないのも、甘やかすのも、
どっちも良くないぞ」
「うちはいいですけど、他社なんてどこもまだまだ
女性だからって高圧的になったり、
酷い扱いしてくる人間なんていっぱいいますよ。
俺は梨沙に…社員に傷付いてほしくないんです」
「高濱くんの手伝いだけしてても、
彼女はいつまでも一人前にはなれないぞ
高濱くんがいなくなったら急に放り出される。
しかも中堅になる年で。その方が可哀想だろ」
うーん。
どちらの言い分も間違っていない。
私の話だが、どこか他人事に思っていた
私のポジション、扱い方について。
この仕事、やりたいなんて
気軽に言うべきじゃなかったのかな、やっぱり。
自分のことなのに、どう動くべきか
どうしていきたいのか、分からない。
目の前の仕事をこなすだけ、
キャリアビジョンなんか特になく、
高濱さんの背中を追いかけてきた毎日だから。
法人営業部のメンバーに、高濱さんに憧れて
手を挙げた。
けど、実際は資料すら満足に作れない。
その場に足を踏み入れる訳にも行かず、
そのまま事務所に戻った。
荷物をデスクに置いて時計に目をやると、
ちょうど昼休みの時間になっていた。
お昼でも買いに行こうと、
またエレベーターホールに戻ると、
後ろから高濱さんの足音がする。
「お疲れ様です」
大体の人の足音は分かる。
「お前さっき盗み聞きしてたろ」
私の横に立って、私を見下ろす。
「…何のことでしょう」
「まあいいけど……どうなんだよ、仕事
これからどうしていきたいとかねえのか」
「わかんないです
社会人失格ですよね」
私がそう言うと前髪をかきあげて大きく溜息をつく。
「……だから大阪来いって言ってんだよ」
高濱さんは鬼上司じゃなかった、全然。
私に甘すぎる。
今更気づくなんて、私は愚かだ。
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