【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音

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01. 鬼上司と秘密の関係

03.翌朝の鬼上司

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目が覚めると、暗い部屋にデジタル時計の文字だけが
ビカビカと光っていた。

8:45。
枕元の明かりのつまみを少し捻ると、
高濱さんはまだ寝ていた。

上司としちゃったんだよなあ、と改めて
頭を抱えたくなった。

でも正直、めちゃくちゃ良かった。
久しぶりに、というかこんなに相性がいい人
今までいただろうか。

布団の中に戻って少し高濱さんに近づくと、
私を片腕で抱き寄せる。
うわわわ…

高濱さんの鼓動が心地良い。
あったかくて安心する。

もうすぐ準備して出ないといけないけど、
もう少しこのままでいようと思った。




「ん……ッ頭いて…あっ」

高濱さんが目覚めて、私の存在に気付く。

「あっ、あの…おはようございます……」
急に恥ずかしくなって、布団の中に潜る。

「ああ…おはよう」

嫌な間が、
寝起きの高濱さんが思考を巡らせている間だ。
二日酔いの日の、反応が鈍い時の高濱さんだ。

「あ、あの…」
「うるさいもう何も喋るな」
「あっすみません…」

ベッドから出て、頭を掻きながら
テーブルの上のタバコに火をつける。
溜息をつくように深く煙を吐いた。


「はあ……悪かった」
「えっ」
「上司として一番良くなかったと思う、
 部下に手出すなんて…」

また大きく一つ息を吐く。

「でも別に、全然嫌じゃなかったですよ?」
私がそう言うと、
高濱さんは眉を顰めて私の方に向き直す。

「お前もしかして誰とでもするタイプか?」
「えいや、しないですけど、
 経験人数3人くらいですし」
「聞いてねえよ」

いつもの高濱さんでちょっと安心する。


「接待で終電逃させた俺の責任だから、
 許してもらえるなら何でも言うこと聞くよ」

タバコの火を消して、チラッと私の方を見て言う。

「じゃあ結婚してほしい」
「昨日まで他の女子と
 俺の悪口で盛り上がってたくせに何なんだよ」
「バレてました?」
「しばくぞ」

タイミングよくお腹が鳴る。

「朝ごはん奢ってください」
「そんだけでいいのか、ちょろいなお前」
「それだけって誰も言ってません、
 あとお前お前言わないでください」

今回の件はしばらく
利用させてもらうことにしようと思う。







─────


「梨沙、手土産の事前申請回したか」
「あっ、すみませんまだです」
「早くしろよ」

月曜、何事もなかったかのように
いつも通りの鬼に戻ってる。
あれは夢だったのか…

「梨沙~ちょっと」

加藤さんに肩をちょんちょんとされて、
事務所の外に呼び出される。
「コーヒーでも買いに行こ~」
「いいっすね~」

用事は何のことかわかる気がする。

「ラウンジ接待、どうだった?」
「やー、何すれば良いかわかんなすぎて、
 ひたすら指名じゃないついてくれた子達と
 話して飲んでましたね」
「飲みすぎてない?」
「それは大丈夫っす、さすがに取引先の前では」
「営業は大変だよね~、私には無理」

1Fのカフェに着くと、加藤さんがまとめて
私の分のコーヒーまで買ってくれた。

「えっ、いんですか」
「梨沙にはなんかしてあげたり
 買ってあげたくなっちゃうんだよね~」
「子供扱い」

氷の音がゴロゴロ聞こえる
キンキンに冷えたアイスコーヒーを一口飲む。

「なんかジャケットタバコ臭くない?」
私のジャケットに顔を近づけて眉を顰める加藤さん。

「あえっ、スプレーしたんですけどね…」
「後で私のいいやつ貸してあげる」
心臓がバクバクいってる。
加藤さんに聞こえちゃうくらい。


事務所に戻る前に更衣室で
加藤さんに消臭スプレーを貸してもらって
改めて金曜の出来事をリセットする。

「助かった~ありがとうございます、
 加藤さんめっちゃ鼻いいですもんね」
「私が気づかなかったら誰もわからないから
 安心しなさい」

何か起こった身としてはそれがどう言う意味なのか
変に深く考えてしまう。

「早く戻らないと」
「コーヒーごちそうさまです!」

そう言って自席に戻る。
今日も頑張りますか…



13時、調べ物のキリが悪く、
昼休みの時間に出そびれてしまった。

カードケースだけ持って
昼ごはんを食べに出かけようと準備していると、
来客対応から戻ってきた相良くんと目が合う。

「あれ、梨沙さんこれから昼ですか」
「あ、そう、タイミング逃して」
「一緒行きます?」

チームメンバーはみんな出払っていた。
「みんないないしゆっくり外で食べよ~」



事務所の近くの適当な定食屋さんに入って、
注文を済ませて運ばれてくるのを待つ。

「接待どうでした?」
「みんな気になるんだ~
 加藤さんにも聞かれたんだけど」
「あんな嫌がってたらみんな聞くでしょ」

水を注いで、おしぼりも渡してくれる。
気が利くんだよなあ。

「んー、思ったより普通だったかな、
 お店の女の子と話して飲んで楽しかった」
「へえ、ボスいつも通り機嫌悪いから
 なんかやらかしたのかと思いました」
「失礼だな君は」

お客さんもこの時間でだいぶ
少なくなってきていたので、もう料理が出てきた。

「わーいいただきまーす」

日替わり定食、今日はお刺身と
なんか梅とシソが巻かれたお魚のフライ。
ニンニクはどのメニューもなしか控えめで
サラリーマンの味方。

「ボス、梨沙さんに当たり強いじゃないですか、
 結構みんな心配してましたよ」
「んー?別にいつも通り、平気だったよ」

相良くんは箸を止めて、私をしらーっと薄目で見る。

「そういう鈍いところが腹立つんでしょうね」
「だからほんとに失礼だね」



─────

「お腹いっぱい~」

美味しいご飯で満足して事務所に戻る。

「午後ずっと事務所ですか?」
「おう」
「俺もです、頑張りましょ」

エレベーターホールまで来ると、
高濱さんの後ろ姿が見えた。

「あ、高濱さん、お疲れ様です」
「お、お疲れー」
相良くんに続いて私も顔を出す。
「お疲れ様です」
「おう」

3人でエレベーターに乗り込む。
高濱さんと相良くんは、相良くんが今
取り組んでる案件の話で盛り上がってる。

操作盤の前に立つ相良くん、後ろに高濱さんと私。
改めて金曜のことを思い出して、変な気になる。
フロアに着いて、2人は楽しそうに話しながら
私の先を歩いていく。

「梨沙、午後代理店が来るだろ、俺も同席するから」
「あっ、あはい、わかりました」

珍しい、高濱さんが
代理店との打ち合わせに同席なんて。


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