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01.
しおりを挟む「山田さんたち、また2人で会議室から出てきたよ」
「絶対ヤってんじゃんまじ無理」
事務の子達が眉間に皺を寄せて口角を釣り上げながら
笑っている声が聞こえる。
モテる独身のイケメンと、社内恋愛はおろか
堂々と社内不倫したら、それはそれは注目されるし
非難の的になるのは当然なことだ。
「あの、入江さん…えと、今日の飲み会行きます?」
変わり者で挙動不審な掘り出し物なら?
「行くよ!黒瀬くんも行こうよ」
誰も気にしないし、独り占めしても何も言われない。
「黒瀬くんって本当可愛いよね~」
「顔は悪くないけど、ちょっと変わってるからな~」
黒瀬駿哉、総務部、2年目。
顔はいいが、
「あ、あの……お客様がえっと…ううっ」
なんせおどおどしていて、自信がない。
仕事はできるようなのだが、
コミュニケーションがまともに取れない。
大学時代をリモート授業で過ごしてきた
可哀想な世代ではあるものの、
それにしたってコミュニケーションが取れない。
「黒瀬くん」
後ろから声を掛けると、ガタッと
椅子から浮くくらい飛び上がる。
「はははい!!!!」
この反応が面白くてついつい声をかけたくなる。
「ごめん、代理店から振込みいつか聞かれてて」
「あ、っと…確認します……えっと、
先週請求書回したやつなら、今週末ですね」
「ありがと」
私がそう言うと、嬉しそうにニコニコする。
「あげる」
さっき下のコンビニで買ってきたアメを1つ
黒瀬くんのデスクに置くと、きょろきょろしながら
上目遣いで私を見てくる。
「えっ、あ、っありがとうございます」
堪らねえええ~~~~~!!!
私は入江梨華。27歳、営業。
同期の中では常に営業成績トップで
上司にも同僚にも部下にも恵まれているが
私には男運だけはない。
大学を卒業してから一度も彼氏がいたことはないし、
いい男はみんな誰かのものになってしまう。
でも、いいのだ!
今の私は黒瀬くんが可愛くて堪らない。
どれだけ仕事が忙しくても、
どれだけ変なお客さんに捕まっても、
営業が辛くても黒瀬くんに会えると頑張れる。
いわば私の"推し"なのだ。
「黒瀬くんまじ可愛い、堪らん、顔も良いし最高」
「あんた変わってるよね」
あの良さは誰にも伝わらなくていい。
私だけわかっていればいいのだ。
ずっと私だけのアイドルでいてほしい。
「黒瀬くんもあんたのこと好きだし、両想いじゃん」
「え?」
「あんなに熱い視線向けられてるのに
分からないわけ?」
確かに、たまに黒瀬くんが私のことを
直視してるなと感じることはあるけど、
私は気づかないふりをしていた。
推しは、推しであって、
付き合いたいとかそういう気持ちではない気もするし
黒瀬くんは年下だし、セクハラになりかねないので
今ほどの距離感が丁度いいのだと思う。
久しぶりの大人数の10年目以下の若手飲み会。
部署関係なく話ができるので、私は結構好きだ。
お酒も好きだし。
「黒瀬くん!!楽しんでる??」
隅っこの席でずっと料理を回したり
お酒を注文したりしてくれてた黒瀬くんから
注文のQRコードを奪って隣に座る。
「あっ、入江さん、待ってました」
たまにする謎な発言も可愛い。
天然なところにめちゃくちゃ癒される。
私の推しは最高だ。
「待ってたの~そうなんだ~」
可愛すぎて脳が溶けそうになる。
「入江さんと喋りたかったから来たのに
ずっと遠くの席いるから……」
「可愛いなあ本当君は」
抱きしめたい欲求を抑えつつ
頭をわしゃわしゃと撫でる。
「あわわわわ……酔ってる」
「当たり前じゃん」
楽しくて、つい手が滑って
日本酒をたくさん入れてしまった。
「入江さん頼みすぎですよ…」
もう制御不能な私を止めようにも止められず
困っている黒瀬くんも可愛い。
「まだまだ飲むぞー!」
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