硝子の街に、閉じ込めて

白波瀬 綾音

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01.

15.敵

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次の日、目覚めると
先に仕事に出かけていたのに気づいて
慌てて準備して、事務所に向かう。

ギリギリの時間になっちゃった。

執務室のドアの隙間が開いており、人の気配がする。

「…龍之介さん?」
「あら、こんにちは」

パーティーで見かけた人だ。

今まで一緒にいたのかな。
二人で?


「今宮華世子です、よろしく」

全身鳥肌が立つ。
彼女の美貌に、
滲み出る、関わってはいけないような恐ろしさに。


「秘書なんやってな」

頭から足の先までジロジロ見られる。
良くない日に寝坊してしまった。

結婚しないとは言っていたけど、
パーティーのあの親しげな様子を見たら
どういう関係性なのか、嫌でも気になってしまう。

「秘書なんて、偉そうになったもんやわ」
…?

華世子さんはまるで、
ここは自分の領域だとでも言いたげに
龍之介さんのデスクに軽く腰掛ける。

「海外ホテルと親の受け売りやん、
 所詮二世やもんなあ」

そう言い放たれた言葉は、挑発的でありながら
どこか龍之介さんへの軽蔑を孕んでいた。

「…私はそうは思いません」

足が私を前へ前へと押し出して、
華世子さんをまっすぐ見据えた。

「前勤めていた会社の物件を担当してくれていた時、
 休みの日も現場に出ていいものにしようと
 努力してたんです」

じわじわと、怒りが込み上げてきて
手を握る力が強くなる。

「ああ、あそこの会社にいはったの、
 あのマンションもぼったくりやったなあ、
 いくら利益出てんのかしらんけど、
 大したもんできひんかったなあ
 ていうか…サラリーマンに何がわかんねん」

私を挑発するような目で見てくる。

「あなたこそ、
 不動産も、建築も素人じゃないですか
 何がわかるっていうんですか」

私がそう言うと嘲笑うように、馬鹿にするように
笑い飛ばす。

「所詮七光なんよ、分からん?
 分からんかぁ、一般人には」

バシャッ

「あ」
「は?!何すんの!!!」

頭に血が上って、つい
龍之介さんのデスクにあったグラスを手に取り
華世子さんに水をかけてしまった。

「…龍之介さんは」

声を絞り出すも、喉が震える。

華世子さんが掴みかかったところで
龍之介さんの足音が近付く。

「涼香~10時からのミーティング……って」

水をかぶった華世子さんと
グラスを手に持った私。

「龍!!この人急に!!!」

頭から水を被った華世子さんと
グラスを手に持ってる私を見て
何も言わずにタオルを取り出して華世子さんに渡す。

「勝手に事務所入るな言うとるやろ」
「それより…!」

龍之介さん越しに私を睨みつける。


「今日はもう帰って、涼香」

冷たい声。

「二度と私に顔見せんといて」

ああ、やってしまった。



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