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01.

11.嫉妬と不安

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「赤とハイボール」

よく知ってる声の主が、
私とその人の間に割って入って、肩を抱かれる。
「あっ…」


「あれ、月村せんせじゃん、どうも」
白々しく、ニヤニヤしながら龍之介さんに挨拶する。

「俺の秘書になんか用ですか」
不機嫌そうに金髪の彼を一瞥する。

「挨拶してただけじゃないですか~」
「そうは見えへんかったけど」

頼んだお酒を受け取って、私の肩をぐっと寄せる。
「またね~」
そう言われたので一応頭を軽く下げて
その場を後にした。


「知り合いですか?」
「あいつ大学の同期やねん」
なるほど。と、いうことは
彼も建築系の仕事をしているんだろうか。

「ほんま気いつけて、同業者やから
 また会うかもしれへんけど」
「ああ…はい」

そんなことより、さっきの話が気になって
それどころではない。

「……なんか、元気ないやん、どしたん」
なんて返せばいいのか分からない。
「1回出る?」

困らせたくない。
私は秘書なのに。
「涼香?」

「大丈夫です、すみません」

どうしてこんなに嫌な気持ちになってるんだろう。
別に付き合ってないのに。
ただの同居人で…仕事の関係なのに。

婚約者の彼女が龍之介さん越しにこちらを見ている。
綺麗で、怖い。
私を値踏みするように視線を上下に移す。

「体調悪いんやないの、顔色悪い」
私に気を使って、もう帰ろうと私の手を引く。


会場を出て、タクシーに乗り込むなり
ぎゅっと抱きしめられる。

どうしてこういうことしてくるんだろう。

「…どしたんですか」
喉がきゅっと苦しくなって、
「こっちのセリフやって」

「涼香が元気ないとめっちゃ不安なる……」
いつもと違う冷たい香水の香りが鼻を擽る。

「言って」
住む世界が違う。

「……婚約者いるんですか?」
「誰に聞いたん」
「知らない…女性の方です」

深入りするな。傷付くだけだから。

「さっき話してた時に、その人から
 別れてないのって聞かれて」

深い溜息。
何だそんなことかと、安堵のような溜息。

「親が勝手に言ってるだけやから、ほんまに」

「なんか……お似合いでしたし
 …それに、こうやってされると、
 勘違いしちゃうのでやめてください」

そう言いながら彼の腕を下ろすと、
眉間に皺を寄せて、辛そうな顔をする。

「何でそんなこと言うん」
「なんで私なんか構うんですか」

ただそばに置いておくのも恥ずかしいくらい、
あの人と私は違う。

「やめて」

そう言ってまた私を抱きしめる。

「そうやって自分で自分傷付けんの、やめて」

窓の外は冷たい雨がしとしとと降り始める。

「確かに親はそう言ってるけど
 俺はあの人と結婚する気ないねん」

あんなにお似合いなのに、どうしてなんだろう。

「秘書にお願いしてもええ?」
「…なんですか?」

いっそ、見返りのある優しさの方が助かる。
理由のない親切は不安になる。






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