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01.
07.ライフワーク
しおりを挟む「澤田、月村さんが今やってる物件、
内装見させてもらえることになったんだけど
行く?」
上司に誘われて、
月村さんの担当した物件を見に行くことになった。
ちょうど契約者内覧会が終わり、
このタイミングでしか見られないと言うので、
せっかくのチャンスだ。
エントランスでうちの設計担当が待っており
私達に気づいて会釈する。
「涼香さんも来てくれたんですね!
聞いてくださいよ~
月村さんに声掛けたんですけど、
忙しいから来れないって言われたんです~
会いたかった~」
折角の機会なので、本来であればデザイナーから
案内、説明を聞いた方が物件理解が深まるのだが
仕方あるまい。
あれから、一週間ほどお言葉に甘えて
住まわせてもらっているが、
ほぼ毎日私が寝る時間の後に帰ってきているので
何時まで仕事をしているのかもわからない。
体を壊さないといいのだけど。
「すごい……」
案内されたのは最上階のペントハウス。
「大体契約者さんと何回も何回も打ち合わせして
決めるんですけど、ここは月村さんに
お任せでできたお部屋なんです」
「元々ここに壁があって2部屋だったんだけど
ぶち抜いたんだよね」
「やっぱ広い空間にすると開放感あるし
大胆な使い方できますよね」
設計のことはよくわからないけど、
あれから月村さんの作品集を見た。
うちの会社らしさがあって、
彼らしいテイストがある。
設備は豪華だけど、
家主やゲストを包み込んでくれるような
温かい感覚。
少し、彼の自宅にも似ていて
まさに作品のような家だった。
今日は物件見学の後、そのまま直帰してきた。
「お邪魔しまーす…」
月村さんは、まだ帰っていない。
私は焦っていた。
月村さんの家に住まわせてもらって
もう1週間以上経つのに、新居を探しているものの
なかなか条件の合う家が見つからない。
贅沢言ってられないかと、PC画面を見ながら
ため息をついていると、月村さんが帰ってくる。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい早かったですね」
今日は週末なので、早く切り上げてきたという。
「今日月村さんのやってくれたお部屋
見に行きましたよ、忙しかったんですね」
「ああ…その時間はちょっとな」
何か意味ありげに目を逸らしながら
ジャケットを掛けて、画面を覗き込む。
「何見てたん?」
「家……」
私が見ていた、ここの管理費より
確実に安い物件を見て苦笑い。
「デベ勤めなのに、もっと良い家にせえよ」
「私営業職じゃないのでそんなお金ないです…」
私の隣に座ってペットボトルの水を飲む。
「りょかちゃんって今なんの仕事してるん」
「マーケティング担当ですけど……
営業アシスタントですね」
「へえ……営業はやらんの」
「1回やらせてもらいましたが、できませんでした」
男社会、横のつながり、この仕事は、
私みたいな性格の人間には向いてない。
根暗で、ヘラヘラしてることしかできない私には…
「俺の秘書ならん?」
「え?」
「一回営業部長さんから今やってる
現場の経緯の話聞いたねん、
稟議資料見せてもらったんやけど、
めっちゃわかりやすかった、綺麗やったし」
私が作った資料だ。
「今の倍払ったる」
倍の給料という条件に、私の心は傾いた。
安月給の単調な仕事。ずっと辞めたいと思っていた。
「どうして私なんか」
私が尋ねると、月村さんは微笑みで返す。
「考えといて」
わからない、この人が。
「ごはん食べた?」
「…まだです」
「一緒どっか行こか」
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