硝子の街に、閉じ込めて

白波瀬 綾音

文字の大きさ
上 下
6 / 18
01.

06.一日目

しおりを挟む





「上がって~」

ひんやりとした石壁の玄関から、
既にモデルルームの
ルームディフューザーの香りがする。

さすが著名な建築士、
都心のマンションの最上階に、明らかに
設計変更とオプション盛り沢山の
自宅構えるなんて。

「月村さんって……おいくつなんですか」
「んー?28ーなんで?」

私の肩に手をおいて靴を脱ぎながら言う。

「いや、普通に気になって…」
28でこんな家一人で住んでる人知らないよ私。

「シャワーこっちな、先ええよ」
タオルと適当に引っ張り出したTシャツを渡されて
リビングの方に戻っていく。

久しぶりに、男の人の家だ。
男の人の家というか、もはやモデルルームだけど。
あ、シャンプー一緒だ。


レインシャワーが、体についた煙を流していく。
今日のことも全部水に流れればいいのに。
むしろ、最初からなかったことになればいいのに。

大事な20代の数年を無駄にしたという絶望が
押し寄せてくる。

それでそのまま月村先生の家に泊めてもらうって
いくら酔ってるからとはいえ、何してんだろ……



月村さんのTシャツを着て、髪をタオルで拭きながら
しまわれていると思われるドライヤーを
出していいものかと思い、バスルームを出ると

「わあっ!!!!」
唐突に月村さんの
鍛えられた上半身が目に飛び込んでくる。

「もう一個パウダールームあるから
 そっちで髪乾かして」

眠たそうに目をこすりながら、
バスルームの外を指差す。
「えっ、あはい」

急にあんな格好で現れられたら心臓に悪い。


ところで、月村さんの家は
案内してもらわないと迷子になるくらい部屋がある。
LDKは廊下を挟んでバスルームの逆側。
ここは…パントリー、こっちはトイレか。

「寝室…」
ガラス張りの大きなウォークインが半分見えて、
逆側にはクイーンサイズのベッドが
綺麗にベッドメイクされてる。

「ここか…」
ウォークインと壁を挟んで隣にやっと見つけた。

モデルルームなんて普通は落ち着かないが、
彼の家は整然としていながらも落ち着く感じがする。
髪を乾かしながらも、その空間に対する
こだわりが垣間見えて感心してしまう。



髪を乾かしてリビングで携帯をいじっていると
月村さんが戻ってきた。

「眠い、寝るで」

「おやすみなさい」

スウェットの月村さんも悪くない。

「ほら、おいで」
私の左手を軽く引く。

「一緒?寝るんですか??」
「このソファいくらするか知ってんの?
 ここは寝るとこちゃいます」

よく見たら
うちの会社の応接室に使ってるのにつくりが似てる。
同じブランドだとしたら…。




「おやすみ~」
一緒のベッドに入ると、
月村さんは私に背中を向けて寝始める。

何もしないんだ。

月村さんのこと警戒しすぎてた。
つい最近知り合った私をほいほい家に上げるくせに
案外まともな人だったんだ。


久しぶりの他人の家。
やっぱり落ち着かなくて眠れない。
ベッドもホテルみたいな肌触りだし。
明日も仕事なのにな…

「りょかちゃん、寝た?」
しばらくすると小声で話しかけてくる。

「んー……」
「わっ…」
甘えたい気分になって、
寝たふりをしてぎゅっと抱きつくと

「もう勘弁してくれよ~……」
私の後ろ髪を撫でる。





朝目が覚めると背中にがっつり手を回されていて、
月村さんの寝息がかかる。

イケメンの破壊力、朝から刺激が強い。

「んー……おはよう」
腕にぎゅっと力がかかって、おでこにキス。

寝ぼけてる。

「……ごめん間違えたわ
 ごめん、ほんまちゃうねん……」

「いや別に…私はいいですよ」

誰かと間違えたのかな。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

Perverse

伊吹美香
恋愛
『高嶺の花』なんて立派なものじゃない ただ一人の女として愛してほしいだけなの… あなたはゆっくりと私の心に浸食してくる 触れ合う身体は熱いのに あなたの心がわからない… あなたは私に何を求めてるの? 私の気持ちはあなたに届いているの? 周りからは高嶺の花と呼ばれ本当の自分を出し切れずに悩んでいる女 三崎結菜 × 口も態度も悪いが営業成績No.1で結菜を振り回す冷たい同期男 柴垣義人 大人オフィスラブ

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

処理中です...