上 下
7 / 20

Ep.5 窮屈な旅路

しおりを挟む
    ディネールを出て一刻も経たずに日が陰り始めてしまった。
    昼間とうって変わり、街道はどんよりと空気が重い。
    以前も夜この辺りを通ったのだが……その時とはまた違う。
    これが元々の環境だったのだろう。
 当初の予定では、もうそろそろ途中の村――クアーロ村につく予定だった。夜のとばりで視界が狭まっているとはいえ影がうっすら見えてもいいハズなのだが……
「サラ、まだ行けるか?」
 少し遅れて歩くサラ。目を擦りながらフラフラと歩いている。
 思い返すと朝からずっと動きっぱなしだった。龍人とはいえまだ子供、すでに体力を使い果たしているのだろうとゼクスは思っていた。
「う……ん。まだ……だいじょう、ぶ」
 誰が見てももう限界。今にも倒れてしまいそうだ。ゼクスも心配してみてはいるがこちらももうヘトヘト。舌を軽く噛んで眠気をこらえていた。
『キュウー……』
 弛緩した可愛らしい主張がサラのお腹から聴こえた気が。
「ゼクスおなかすいた」
 眠気よりも食い気。どうやら眠気よりも空腹のほうがサラにとっては大事らしい。
 よくよく考えてみれば体力はゼクスなんかよりも圧倒的にあるはず。眠気だってもともと夜行性、この時間からがピークだ。
 空腹に耐えかねたサラはその場にへたり込んでしまう。
 だがそんな事情は魔物にとっては知ったことではない。むしろ格好の餌。
 見計らったようにどこからか狼型の魔物ウォーウルフが二人を狙う。
「おい! サラ囲まれるぞ」
 抜刀しつつ、片手でサラの肩を揺らすが立ち上がる気配はない。
「おいおいっ!」
 気を取られる暇も与えず2体が飛び掛かる。
 正面の敵は瞬時に盾を出現させて顎に盾を食い込ませる≪シールドバッシュ≫で対応しつつもう一体を魔力強化させた腕でウルフの腹部を殴りつける。
「うおらっ!!」
 キャウンッと悲鳴を上げると二体が宙を舞う。
「サラ! 飯だ!」
 ゼクスが叫ぶ。するとサラは「ご飯っ!?」と目が輝かせてキョロキョロあたりを見回す。
「こいつら食っていいぞ!」
 サラの目が一段と赤黒く染まる――獣の目。
 ローブを脱ぎ去り赤い翼を広げて宙に舞った二体に襲い掛かる。ゼクスはその一瞬を目の当たりにしてしまった。空中で彼女とウルフが重なったと思うと取り込まれる――いや、喰われていったのだ。頭から一気に。
 一体目が食べずらかったらしく二体目はダガーナイフで細切れにする。
 血しぶきがゼクスの顔にかかり、そんなことはお構いなしに目の前のごちそうにサラはがっついていた。
「お、い? サラ」
 口の周りにべったりとついた黒みがかった獣の血。両手には肉片。その光景には狂気すら感じさせた。
 彼女ら獣人というのはこれが当たり前なのか? そんな疑問をゼクスは抱いた。
「ゼクスも食べる?」
 と毛皮のついたままの前足を向ける。
「いや、いい。俺はそんな肉は食わないからな」
 などと意味が分からない返答をしてしまう。
「それより食事もいいがまだ残ってるぞ」
 今のサラに押された群れはしり込みをしているが引く気配はいまだみせてない。
 ならば、と以前使った方法を応用してみようと考えた。
「サラ、」
 と声をかけ意識をこちらに向けさせる。
 ゼクスの意図をくみ取りサラはゆっくりと立ち上がる。
 
 血に濡れた笑みを向けるとダガーに風を切らせる。
 同時に気配が消える。ゼクスが気配を消すとドラゴンズプレッシャー――上位種であるドラゴンが放つ殺気を放つ。
 ウォーウルフたちが見たのは、眼。彼女の背後に途方もない魔力を感じその生存本能を駆り立たせた。逃げろと。
 瞬く間に脅威は去り、また静かな夜に戻っていく。
「上手くいったな」
 背後から頭をポンと撫でる。
 くるりとこちらを向くと口にべったりと血がついてしまっていた。ゼクスは一瞬ビクッととするが、「ほらこっち向け」と言い、左手の魔法陣から布を取り出して口元を拭いてあげた。
「ったく、口周りだけじゃなくて襟もじゃねーか」
「んーーっ!!」
 ゴシゴシとあちこちについてしまった血痕を拭き取る。ところどころ残ってしまってはいるが、まあ気にならない程度だ。
「ここらで休憩キャンプを張りたいがウルフの匂いが残っちまってるな。もう少し移動したらそこで休むか。サラ行けそうか?」
「余裕」
 と親指を突き立ててみせた。
 食事をとったせいかサラはいつもの元気を取り戻していた。いや、それ以上か。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

妹はわたくしの物を何でも欲しがる。何でも、わたくしの全てを……そうして妹の元に残るモノはさて、なんでしょう?

ラララキヲ
ファンタジー
 姉と下に2歳離れた妹が居る侯爵家。  両親は可愛く生まれた妹だけを愛し、可愛い妹の為に何でもした。  妹が嫌がることを排除し、妹の好きなものだけを周りに置いた。  その為に『お城のような別邸』を作り、妹はその中でお姫様となった。  姉はそのお城には入れない。  本邸で使用人たちに育てられた姉は『次期侯爵家当主』として恥ずかしくないように育った。  しかしそれをお城の窓から妹は見ていて不満を抱く。  妹は騒いだ。 「お姉さまズルい!!」  そう言って姉の着ていたドレスや宝石を奪う。  しかし…………  末娘のお願いがこのままでは叶えられないと気付いた母親はやっと重い腰を上げた。愛する末娘の為に母親は無い頭を振り絞って素晴らしい方法を見つけた。  それは『悪魔召喚』  悪魔に願い、  妹は『姉の全てを手に入れる』……── ※作中は[姉視点]です。 ※一話が短くブツブツ進みます ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げました。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

処理中です...