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第20項 月が……綺麗ですね

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――――バンッ!――――
「アイリッ!!」
 扉を跳ね開けて入っていくゼクス。
 急に扉が開いたもので「ギミャッ!?」と奇妙な声を上げて皿を落としそうになるキャミィ。間一髪のところでしっぽでキャッチをした。
 乱暴に開けた扉を気にすることなく、店内はいつものごとく傭兵たちが晩酌を楽しんでいた。
「どうしたの? 騒がしいわね。アイリなら今いないわよ?」
 アイリの指定席――カウンターの最奥端――には主のいない回転椅子がちょこんとあるだけ。
「例のブツの出所がわかった。それですぐにでも出ないと被害が出る。ミーナと出る。アイリが戻ったら至急よこしてくれ」
 端的に要件だけ伝えると、ゼクスは風のように去っていく。
「やれやれ、そそっかしい子ね」
 ため息を吐くリリィは肩をすぼめた。
「どうやら、大事になりそうだなぁ……」
 浅黒い筋骨隆々の騎士はボトルをショートグラスに傾ける。拳のような氷がカランと音を立てた。
「まあね。いろいろと手回ししなくちゃいけないみたいで大変だわ」
「相変わらず他人事みたいな言い方だな」
彼が重い腰を上げ、「しかたねえ」と、立ち上がる。
「リリィねえには俺たちも世話になってるからな。俺たちも手ェ貸すぜ」
グラスを煽り一気に中を空にして――タンッ!――とテーブルに叩きつけた。
「グラス、割らないでね」
やれやれ、とリリィは彼を見送った。

ゼクスが店から飛び出ると広場に見覚えのある魔装馬が二頭。出撃できる状態で佇んでいた。
「移動手段のアテはあるの?」
二頭の影からガンベルトを体に巻き付けたミーナが腰に手を当てて待っていた。
「ミーナ!? なんでここに――」
「あれだけ大きな魔力の流動が起きたら一発でわかるわよ。さぁ、乗って。急ぐんでしょ!?」
「ああ、助かる!」
 跳躍して魔装馬の背に飛び乗ると手綱を引いて疾走した。

「どこに行くのかわかってるのか!?」
 夜の高野をひた走る二人。
「大体しかわからない! ゼクス、先導して!!」
 前傾姿勢になりながら舌を噛まないように叫ぶ。
 シュレムの魔力を感知して魔装馬を用意したのは良かったが、行き先はまったくもって分かっていない。
 とにかく。できることはしておくミーナは自身も完全武装をして広場で待っていたのだ。
 彼女にできることはここまで。ここからはゼクスだけが頼り。出来ることなら自分が先導して解決したかった。
 自分の不覚でことが大きくなってしまった事でその思いは日々大きくなっていたのだ。
「一番近い村はどこだ!?」
「え、ああ。迷いの森に近いバレーナ村。海岸近くのオルカ村。この中で一番大きいクアーロ村だよ」
 帝都からそれほど離れていないおかげか治安は割とよくそのため村は数多くある。だがミーナはその中でもロクスティが行きそうな場所を選択して言ってくれているのだろう。
 海岸近くのオルカ村から船で海運してばらまく可能性もある。一番大きいクアーロ村でより多くの人を錯乱させることもありえる。
 彼の目的が分からない以上、勘で行くしかない。
「…………バレーナ村だ。理由はない」
 確信はない。ゼクスは信じてくれというしかなかった。
 後方を走るミーナはゼクスが何を思っているのか。わかりきった表情で微笑むのだった。
 彼女の表情で悩みは吹っ切れた。
(もう、進むしかないよな!!)

 静寂が包み込む村。家の明かりはついているのだが人の気配はない。その異様な雰囲気にゼクスは息を飲んだ。
「あれは……」
 広場にロクスティのものらしき荷馬車が一台佇んでいた。
 だが周辺にも人の気配はない。
 ミーナは荷台を覗くと、中は空っぽ。何か運んでいた形跡もない。
「……ミーナ」
 周囲を警戒していたゼクスがミーナを呼ぶ。
 村の入口から反対――森の入口にロクスティが二人を待っていたかのように立っていた。
「こんばんは。お二人とも。今夜は月が綺麗ですね……」
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