17 / 40
第15-5項 白銀のアイリ2
しおりを挟む
「ふぅ……」
酒場の居住区で汗を流したゼクス。
「あ、いたいた。ちょっといいかしら?」
封筒を持ったリリィが探していたようだ。
「これを道具屋に道具屋に届けてもらいたいのだけれど、大丈夫かしら?」
「特に予定はない。大丈夫」
濡れた髪の毛を拭き取りながら答えた。
「じゃあ頼むわ。急ぎじゃないから今日中に届けてもらえればいいから」
と言い残し、どこかに行ってしまう。
ゼクスは着替えると、道具屋に向かった。
広場では朝市が終わり、撤収作業に勤しんでいた。
心做しか出店数が少なくなっている。
サラマンダーの出現で街を離れる人も出始めていた。
なんとか物価が高騰しても頑張っていた住民達も生活が脅かされるほどの脅威の出現により、離れざるを得なくなっているのも事実だ。
街の様子を伺いつつ、道具屋に向かう。
出迎えたのは娘の方だった。
「どうも」
「あ、いらっしゃいませ。お久しぶりですね。今日はどんなご要件で?」
「今回は買い物に来たわけじゃなくてな。これを渡しに来たんだ」
といって懐から預かった封筒を取り出す。
「リリィさんの使いでしたか。ご苦労様です」
と、いうと中身を見ずにしまってしまう。中身は分かっているようだった。
「ええと、ゼクスさん……でしたか? 最近色々と物騒になりましたね」
「そうだな。こっちの方はなんか問題あったりしたか?」
「いえ、特には…………」
ふと、視線を逸らした。無意識だったのだろう。
その仕草を不審に思ったと彼女は過剰に反応した。
「なんだ?」
「…………少しだけ、生贄の件ですけど。前は反対派が大多数を占めてたと思うんですけど、最近、賛成派が増えてきたみたいで……」
「そうなのか?」
「……はい」
憂いを帯びた顔で返事をする。
「まあ、大丈夫だ。何か困ったこととかあったら言ってきてくれ。できることならしてやるさ」
「分かりました、助かります」
ぎこちない作り笑いを浮かべる。
用事を済ませて店を出る。
この前も道具屋に来たあと、鍛冶屋に向かったこともを思い出す。
(ついでだし、調子でも伝えに行くか)
カランカラン――
「ん?」
音を立てて開いたドアの先に、見覚えのある巨体の先客がカウンターを塞いでいた。
「い、いらっしゃい」
影から顔をおずおずと出しながら、相変わらずの消え入るような声で迎えるシェリー。
それに同じように振り返り反応はしたのは、やはり見覚えのあった。
「おお、いつかのにいちゃんか。久しぶりだな」
「えっと、バルガス――だったか? なんでこんなところに」
歩み寄ると、カウンターに置いてあった両手斧が目に付く。
「傭兵がこんなところに来るときは武器の調達くらいだろ」
褐色のぶっとい腕を組みながらそう答える。
バルガスは重厚な両手斧を軽々と持ち上げると、背中に指す。
「ところで少し、話がしたいんだが、いいか?」
「ん? 構わないが、バルバのオヤジに剣の調子伝えてからでいいか?」
「おう、なら外で少し待ってるぞ」
とだけいうとその巨体を揺らしながら店の外に行ってしまう。
「あの、すみません。お師匠は外に出てしまっていていないんです」
キャシーは帽子のつばを影にしながら呟く。
「じゃあいいや、そんな大した用事でもなかったし。剣の調子はすこぶる好調だ、とだけ伝えておいてくれ」
踵を返そうとするゼクス。
「あのっ」
頑張って声を振り絞るキャシー。
「お手入れ、ちゃんとしてくださいね。剣は気まぐれなので面倒かけてあげないとすぐひねくれちゃうので」
と、言って小さな砥石を渡してくる。
「これ、サービスです。刃先をちょっと研いであげるだけでも違うので……」
「おう。ありがとな」
ゼクスは砥石を受け取る。
キャシーは嬉しそうに笑うと、恥ずかしくなりほんのり赤くなった顔を帽子で隠した。
店を出ると入口付近で壁によりかかってぼぅっと空を眺めているバルガスと合流する。
「早かったな」
「まぁな。それで話ってのはなんだ?」
周囲を見回すバルガス。人目を気にしている。
「ここで話すことじゃない。ついてきてくれ」
「構わないが、どこに行こうってんだ」
「ここよりは安心できるところだ」
まるでここが安心できないかのような口ぶりでバルガスは中央広場とは反対の方に向かった。
酒場の居住区で汗を流したゼクス。
「あ、いたいた。ちょっといいかしら?」
封筒を持ったリリィが探していたようだ。
「これを道具屋に道具屋に届けてもらいたいのだけれど、大丈夫かしら?」
「特に予定はない。大丈夫」
濡れた髪の毛を拭き取りながら答えた。
「じゃあ頼むわ。急ぎじゃないから今日中に届けてもらえればいいから」
と言い残し、どこかに行ってしまう。
ゼクスは着替えると、道具屋に向かった。
広場では朝市が終わり、撤収作業に勤しんでいた。
心做しか出店数が少なくなっている。
サラマンダーの出現で街を離れる人も出始めていた。
なんとか物価が高騰しても頑張っていた住民達も生活が脅かされるほどの脅威の出現により、離れざるを得なくなっているのも事実だ。
街の様子を伺いつつ、道具屋に向かう。
出迎えたのは娘の方だった。
「どうも」
「あ、いらっしゃいませ。お久しぶりですね。今日はどんなご要件で?」
「今回は買い物に来たわけじゃなくてな。これを渡しに来たんだ」
といって懐から預かった封筒を取り出す。
「リリィさんの使いでしたか。ご苦労様です」
と、いうと中身を見ずにしまってしまう。中身は分かっているようだった。
「ええと、ゼクスさん……でしたか? 最近色々と物騒になりましたね」
「そうだな。こっちの方はなんか問題あったりしたか?」
「いえ、特には…………」
ふと、視線を逸らした。無意識だったのだろう。
その仕草を不審に思ったと彼女は過剰に反応した。
「なんだ?」
「…………少しだけ、生贄の件ですけど。前は反対派が大多数を占めてたと思うんですけど、最近、賛成派が増えてきたみたいで……」
「そうなのか?」
「……はい」
憂いを帯びた顔で返事をする。
「まあ、大丈夫だ。何か困ったこととかあったら言ってきてくれ。できることならしてやるさ」
「分かりました、助かります」
ぎこちない作り笑いを浮かべる。
用事を済ませて店を出る。
この前も道具屋に来たあと、鍛冶屋に向かったこともを思い出す。
(ついでだし、調子でも伝えに行くか)
カランカラン――
「ん?」
音を立てて開いたドアの先に、見覚えのある巨体の先客がカウンターを塞いでいた。
「い、いらっしゃい」
影から顔をおずおずと出しながら、相変わらずの消え入るような声で迎えるシェリー。
それに同じように振り返り反応はしたのは、やはり見覚えのあった。
「おお、いつかのにいちゃんか。久しぶりだな」
「えっと、バルガス――だったか? なんでこんなところに」
歩み寄ると、カウンターに置いてあった両手斧が目に付く。
「傭兵がこんなところに来るときは武器の調達くらいだろ」
褐色のぶっとい腕を組みながらそう答える。
バルガスは重厚な両手斧を軽々と持ち上げると、背中に指す。
「ところで少し、話がしたいんだが、いいか?」
「ん? 構わないが、バルバのオヤジに剣の調子伝えてからでいいか?」
「おう、なら外で少し待ってるぞ」
とだけいうとその巨体を揺らしながら店の外に行ってしまう。
「あの、すみません。お師匠は外に出てしまっていていないんです」
キャシーは帽子のつばを影にしながら呟く。
「じゃあいいや、そんな大した用事でもなかったし。剣の調子はすこぶる好調だ、とだけ伝えておいてくれ」
踵を返そうとするゼクス。
「あのっ」
頑張って声を振り絞るキャシー。
「お手入れ、ちゃんとしてくださいね。剣は気まぐれなので面倒かけてあげないとすぐひねくれちゃうので」
と、言って小さな砥石を渡してくる。
「これ、サービスです。刃先をちょっと研いであげるだけでも違うので……」
「おう。ありがとな」
ゼクスは砥石を受け取る。
キャシーは嬉しそうに笑うと、恥ずかしくなりほんのり赤くなった顔を帽子で隠した。
店を出ると入口付近で壁によりかかってぼぅっと空を眺めているバルガスと合流する。
「早かったな」
「まぁな。それで話ってのはなんだ?」
周囲を見回すバルガス。人目を気にしている。
「ここで話すことじゃない。ついてきてくれ」
「構わないが、どこに行こうってんだ」
「ここよりは安心できるところだ」
まるでここが安心できないかのような口ぶりでバルガスは中央広場とは反対の方に向かった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
政略結婚のハズが門前払いをされまして
紫月 由良
恋愛
伯爵令嬢のキャスリンは政略結婚のために隣国であるガスティエン王国に赴いた。しかしお相手の家に到着すると使用人から門前払いを食らわされた。母国であるレイエ王国は小国で、大人と子供くらい国力の差があるとはいえ、ガスティエン王国から請われて着たのにあんまりではないかと思う。
同行した外交官であるダルトリー侯爵は「この国で1年間だけ我慢してくれ」と言われるが……。
※小説家になろうでも公開しています。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる