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第1話「はい」

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「アリス」
「なんですか、お父様?」
「……お前もあと1週間で成人だな」
「そうですね」

 この世界には、大きな国が7つある。そしてここがその1つ、ファステリア王国。

 その国の王家──ファステリア一族が暮らしている城。その城内の現国王──ソルト・ファステリアの仕事部屋に、第一王女のアリス・ファステリアは呼び出されていた。

 この国では15歳からが成人とされていて、アリスは会話の通り14歳。実際には1週間もなく6日で大人になり、王族として忙しくなる。


 ──はずだった。


 そこまで会話したところで、ソルトはもう何度目潤わせたかも分からない目を再び潤わせながら、アリスを抱きしめる。アリスは一切動かず、ただただぼーっとしている。

「……なんで……っ、アリスなんだろう、な……」
「わかりません」

 ──後天性感情消失病こうてんせいかんじょうしょうしつびょう。100万人に1人でも多いくらいの難病である。このやまいを発症すると、日が経つにつれ徐々に感情がなくなり、成人を迎えると市に至るというものだ。

 治療法は、不明。

 そして、アリスがこのやまいの所持者でもあった。

 アリスはあと6日で成人。つまり、あと6日で死んでしまうのだった。

「──……自分の、好きなことをするんだぞ」
「お父様、昨日も聞きましたよ」
「明日も言ってやるさ」

「それで、要件というのは?」
「……あぁ、そうだったな。実は明日、ハーリス家の長男がお前に会いたいらしくてな」
「では明日は応接間に行けばいいのですね」
「……すまんな」

 面倒くさい、いやだ、そんな感情はアリスには一切ない。もしかしたらにかけ、否定を期待したソルトは、そのつぼみが実らなかったことに苦い表情を浮かべながら、謝罪の言葉を伝えた。

 なんでソルトが苦い表情を浮かべたのかという疑問。それすらもアリスには感じられず、この日は部屋に戻った。
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