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新たな季節と新しい場所へ

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 嵐から季節をまたぎ、暖かで落ち着いた春がやってきた。
 無事に冬を越したいま、羊族の村は暖かさと共に活気を取り戻しつつあった。

 そんなころ、王都から今度は初めてミケーレさんのみがやってきた。
 ミケーレさんが持ってきたのは国王様からの親書であった。

 その内容を要約するとつまりはこうだった。

 『王都でも保育園が建ったから、開始の春から夏まででいいからこっち来て手伝って! よろしくね!』

 こんな内容を丁寧な言葉でつづられた親書。
 でも、こんな形で王様から要請が来たらたんなる一落ち人がノーとは言えないよね……。

 そんなわけで、一年近く過ごしたこの羊族の村から夏までの期間限定で私は出来たばかりと言う王都の保育園へ短期派遣されることが決まったのだった。
 しかも、親書を持ってきた翌日には移動しますよって感じなので現在急いで準備中だ。
 ここでの保育園の仕事だってあるというのに、なかなかの無茶ぶりです。

 「まったく、ハルナは人気者ね。国王様もハルナを気に入ってたものね」

 私の短期派遣の準備を手伝ってくれているのはもちろんライラさん。

 さらっと保育園にやってきて、親書を読み準備に追いやったミケーレさんは現在我がもふもふ園児のお相手をお願いしている。 
 たぶん今頃囲まれて大変な思いをしていることだろう、クールな顔が崩れているのではと、ついニヤついてしまう口元を引き締めつつ私は準備を進めるのだった。

 ライラさんが用意してくれたカバンに着替えやらいろいろ詰め込んで、準備が終わると急いで園に戻る。

 お帰りの会になんとか間に合った私は、子ども達を集めて話をする。

 「みんな、急なんだけど先生明日から王都のほうの保育園のお手伝いに行くことになりました」

 私の言葉に大きな子ども達の瞳はさらに見開かれ、また言葉が呑み込めた子たちは一気に私に駆け寄ってきた。

 「えぇ、なんでよ! ハルナ先生は私たちの先生だよ! 行っちゃヤダ!」

 真っ先に駆け寄ってきて、そう叫んだのは一番付き合いが長いメロウちゃん。

 「どれくらい行くの? 帰ってくるよね?」

 私の裾を掴んで、不安げな顔で聞くのはノノちゃん。

 「この春から王都でも保育園が始まるの。私はその始まりをお手伝いするのよ。夏までには帰ってくるからね」

 そう続けると、子ども達はホッとしつつも複雑そうな顔をしていた。

 「ここにはライラさんもキャロルさんもミーナさんもエリンさんもいるでしょう? みんな少しの間だけど、しっかり言うこと聞いて元気でいてね」

 私が笑顔で告げると、やっと落ち着いてきたのかみんなしっかり頷いて私の王都行きを理解してくれたのだった。

 その日の晩はライラさんが私の好物のクリームスープとハンバーグを作ってくれて、みんなで美味しく食べた。

 「いいか、ハルナは可愛いんだからうっかり王都の路地裏とかに行ってはいけないよ?」

 とか、ローライドさんにはとっても心配そうに言われた。

 「ハルナ、ネコ科のオスに言い寄られてもついていかないんだよ?」

 なんかちょっぴり怖い笑顔でカーライドさんに言われたりしつつの夕飯タイムだったが、最後のライラさんのニッコリ笑顔で二人は黙った。

 「私たちのハルナですからね、大丈夫ですよ。ハルナ、しっかり立ち上げをお手伝いして。早めに帰ってらっしゃいね?」

 うん、ライラさんが一番強いと思うので私はその言葉にしっかり頷いて返事をした。

 「うん。私この村が好きだから、早く帰ってくるね。夏より前に帰るからね!」

 私の返事にライラさんは満足そうに頷いて、一緒に片付けをしてこの日珍しいことに私はライラさんと一緒に眠ったのだった。

 「可愛いハルナ、無事に帰って来てね」

 私が一人暮らしをするときに送り出した母と似た雰囲気を感じて私はギュッとライラさんに抱き着いた。

 「大丈夫、ちゃんと帰ってくるからね。私、もうここの子よね?」

 私は抱き着いたまま、すこし恥ずかしくって顔を上げられないままに告げた本心。
 そんな私の髪を撫でて、ライラさんが囁いた。

 「もちろんよ。ハルナはもう私の娘なの。だから無事に帰ってくるのよ」

 その囁きに、ライラさんの腕の中で頷いた後それぞれ布団に入り手をつないで眠った。

 翌朝、しっかりと起きて準備を整えると村の唯一の宿からミケーレさんが迎えに来てくれた。

 「では、行ってきます」

 ローライドさん、ライラさん、カーライドさんに挨拶をして私はミケーレさんと王都へと向かう。
 草原に来るところで保育園から子ども達が駆け出してくる姿が見えた。

 「ハルナ先生早く帰って来てね!」

 「うん! みんないい子でね、すぐ帰るからね!」

 こうしてたくさんの人に見送られて、私は王都に向かう。
 ミケーレさんが乗ってきた馬車に乗り、王都を目指す。

 羊族の村から王都に行くまでには、丸一日かかる。
 その間には馬族の村があり、そこで一泊して翌日に王都入りになるという。

 明日のお昼には到着予定だと聞くと、この国の領土が結構広いことに初めて気づいたのだった。

 その日の夕方、馬族の村に着くとやはりそこには仔馬の姿がちょこちょこと見える。
 羊とはまた違った可愛さに、ついつい眺めているとミケーレさんは珍しく私を見て表情を緩めた。

 「ハルナさんは本当に子ども達が可愛いと思ってくださってるのですね」

 その言葉に私がよく分からず首を傾げていると、ミケーレさんは教えてくれた。

 「昔にも落ち人に私は出会ったことがあるのですが、その人は動物が苦手だったのか我々の姿を嫌がりましたから……」

 中にはそういう人もいただろう、でも私はもともと動物が好きなのだ。
 しかも動物姿の子はだいたい子ども。
 子どもも好きな私にしてみたら、もはや関われるのは幸せにしか思えない。

 「そんな人もいるでしょうけど、私は動物の姿も、ましてその姿の子は子どもだということも、可愛く愛しい存在にしか見えませんから」

 そんな私の返事にミケーレさんは柔らかな表情のまま、こう返した。

 「だから、陛下も保育園事業を起こすのにためらわなかったのでしょう。あなたを認めておりますからね」

 そう、前の嵐の時に陛下に私もこの国の仲間だと認めてもらえた。
 だからこそ、今回の要請も引き受けようと思ったのだ。
 この国で暮らして行くのだから、自分で力になれる部分は頑張りたいと思ったからだ。
 あと、好奇心もある。
 王都はどんな感じなのか、どんな雰囲気なのかも見てみたいとも思ったのだ。

 だからこの要請をはじめから私が断る気はなかった。

 「ネコ科は大丈夫ですか?」

 そんなミケーレさんの問いかけに私はニコニコと答える。

 「大好きですよ、可愛いですもん。でも、羊ちゃんたちよりは追いかけっこが大変そうかなとは思ってますけど」

 なんて答えると、ミケーレさんは声を立てて笑った。
 こんな笑い方、初めて見るので驚いているとミケーレさんは目じりの涙をぬぐいつつ言った。

 「えぇ、チーターとかの子だと相手も大変でしょう。でもハルナさんなら大丈夫じゃないですかね。落ち人効果もありますから」

 あぁ、落ち人は好かれるってあの恵まれたスキルというか神様からの特典ね。
 確かにそれはあるかもしれないな。

 そんな意外にも和やかな会話をしつつ、移動一日目は慣れない馬車移動で体は疲れていたらしい。

 馬族の村の宿でご飯とお風呂を済ませると、私は早々に眠ってしまったのだった。
 
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