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そんな光景を見て、私はようやく一年前の出来事を思い出した。
私は、今回とは違うものの陛下を狙って射られた矢の前に飛び出して、一命をとりとめたけれどその時に出した高熱の影響か、倒れた時に頭でもぶつけたのか。
後宮で過ごした日々をすっかり忘れていたのだ。
忘れて過ごした期間のほうが長くなりそうになっていたが、なんとか思い出した。
あの時は陛下を狙い、今回は私がなぜか狙われたけれど、矢を向けられたことでカチッと何かがハマるみたいに一気に思い出した。
うーん、この一年ですっかり立場や環境が変わってしまっているし。
愛妾てきな側妃のままでいられた日々は穏やかだったのだけれど、これそろそろ皇妃へって流れだよね……。
全力で回避したいんですけど、私しがない機織り娘だし……。
まぁ、考えるだけで無理っぽいのはなんとなく理解しているけどね……。
陛下に会うのが今から不安だわ。
こんな時だけど、そろそろ来ちゃいそうだしね。あの方は……。
フットワーク軽めだし、私になにかあると血相変えて飛んでくるのが最近定番になっているからね。
軽いため息とともに、私は鈴香が仕留めて縛り上げた敵を眺めていたのだった。
後方から響く足音に、私のため息は深くなったのは言うまでもなかった。
「春麗!! 無事か!?」
駆けつけた陛下は私を見るなり、視線をあちこちに巡らせてそして怪我のない様子を確かめるとしっかり私を抱き込んで安堵の息を漏らした。
「春麗につけた護衛から、また矢を射かけられたと報告が入った時には肝が冷えた……。無事で良かった」
そんな陛下の声に、私ははぁぁと深いため息をついてその顔をまじまじと見つめて言った。
「陛下、いま大事な新年の式典真っただ中ですよね? 私はこうして無事ですのでさっさとお戻りくださいませ」
私の言葉に、陛下は目を丸くした後に驚きを隠さぬままに抱きしめていた腕に力を入れて聞いてきた。
「春麗、そなた記憶が戻っておるな?」
「えぇ。おバカな暗殺要員のお蔭で記憶が戻りました」
私の返事に嬉しさを隠せないのか、陛下はその腕を緩めてはくれず私は仕方なし、その背中をポンポンと叩いてやる。
「えぇ、なんかいろいろ記憶がないうちに外堀埋めちゃってくれてますのでもう逃げませんしね。とにかく式典を無事に終わらせて来てください」
その私の言葉に、陛下は温かな笑みを浮かべて腕を緩めると私の頬に口づけを落として言う。
「終わらせたら、しっかり話がしたい。いいか?」
その言葉に私はしっかりとその瞳を見つめて答えた。
「はい、お待ちしております」
こうして、私は一年の穏やかだった日々に別れを告げたのだった。
私は、今回とは違うものの陛下を狙って射られた矢の前に飛び出して、一命をとりとめたけれどその時に出した高熱の影響か、倒れた時に頭でもぶつけたのか。
後宮で過ごした日々をすっかり忘れていたのだ。
忘れて過ごした期間のほうが長くなりそうになっていたが、なんとか思い出した。
あの時は陛下を狙い、今回は私がなぜか狙われたけれど、矢を向けられたことでカチッと何かがハマるみたいに一気に思い出した。
うーん、この一年ですっかり立場や環境が変わってしまっているし。
愛妾てきな側妃のままでいられた日々は穏やかだったのだけれど、これそろそろ皇妃へって流れだよね……。
全力で回避したいんですけど、私しがない機織り娘だし……。
まぁ、考えるだけで無理っぽいのはなんとなく理解しているけどね……。
陛下に会うのが今から不安だわ。
こんな時だけど、そろそろ来ちゃいそうだしね。あの方は……。
フットワーク軽めだし、私になにかあると血相変えて飛んでくるのが最近定番になっているからね。
軽いため息とともに、私は鈴香が仕留めて縛り上げた敵を眺めていたのだった。
後方から響く足音に、私のため息は深くなったのは言うまでもなかった。
「春麗!! 無事か!?」
駆けつけた陛下は私を見るなり、視線をあちこちに巡らせてそして怪我のない様子を確かめるとしっかり私を抱き込んで安堵の息を漏らした。
「春麗につけた護衛から、また矢を射かけられたと報告が入った時には肝が冷えた……。無事で良かった」
そんな陛下の声に、私ははぁぁと深いため息をついてその顔をまじまじと見つめて言った。
「陛下、いま大事な新年の式典真っただ中ですよね? 私はこうして無事ですのでさっさとお戻りくださいませ」
私の言葉に、陛下は目を丸くした後に驚きを隠さぬままに抱きしめていた腕に力を入れて聞いてきた。
「春麗、そなた記憶が戻っておるな?」
「えぇ。おバカな暗殺要員のお蔭で記憶が戻りました」
私の返事に嬉しさを隠せないのか、陛下はその腕を緩めてはくれず私は仕方なし、その背中をポンポンと叩いてやる。
「えぇ、なんかいろいろ記憶がないうちに外堀埋めちゃってくれてますのでもう逃げませんしね。とにかく式典を無事に終わらせて来てください」
その私の言葉に、陛下は温かな笑みを浮かべて腕を緩めると私の頬に口づけを落として言う。
「終わらせたら、しっかり話がしたい。いいか?」
その言葉に私はしっかりとその瞳を見つめて答えた。
「はい、お待ちしております」
こうして、私は一年の穏やかだった日々に別れを告げたのだった。
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