お手つき禁止!~機織り娘の後宮奮闘記~

織原深雪

文字の大きさ
上 下
26 / 39

しおりを挟む
 そんな寒くなってきた日々に仕上げた毛織物はお針子たちの手を借りて、立派な羽織となって後宮の側妃や女官達に支給された。
 私なりの日々のお礼である。得意で出来ることといったら機織りくらいだし。
 本格的に寒くなる前に配ることが出来でホッとしている。
 私に就いてくれてる女官に聞くと皆喜んでるようで、一安心だ。
 作業も落ち着いたので、今日は久しぶりにゆっくりしようとのんびりと室で過ごしていると先触れが来て今日陛下が来ると知らされた。
 ゆっくり過ごすと決めていたが、どうやらそうも言ってられなくなったようで室にいた女官や女中たちが慌ただしく動き始めた。
 私は邪魔にならないように、出されたお茶を飲みつつ私付きの女官が声をかけてくるまで待機していた。

 「春麗さま、お召し替えを……」

 そうして差し出された衣装に手を借りて着替えて、流鶯さまから簪をもらったことを伝えたらその数日後陛下からも簪が届いた。
 金の豪華な簪は垂れと紅玉の大玉がついたもので、今日はそれで髪をまとめられた。
 ここのところ陛下は忙しく二週間ぶりに顔を合わせる。
 久しぶりすぎてドキドキする。

 そうして久々に着飾って陛下が来るのを待っていると、着替えを終えて少ししたころに陛下はやってきた。
 女官さんたちのタイミングの良さには本当に脱帽の思いだ。

 「陛下、ようこそお越しくださいました」

 陛下の登場に椅子から立ち、頭を下げると簪がシャランと音を立てた。
 顔を上げると陛下は私を見て柔らかく微笑む。

 「よく似合っている。今度は翡翠の簪も送ろう。紅玉も悪くないが、春麗には翡翠も似合いそうだ」

 大変にこやかに散財発言するのはやめてほしい……。
 この簪すら、使うの怖いのに……。

 「この簪が大変気に入りましたので、しばらくはこれを使うので大丈夫です!」

 つい、強めに返すと陛下はくすくすと声を立てて笑う。
 
 「そうか、気に入ってくれてなによりだ。春麗、そろそろ新年の準備で忙しくなるがちょこちょこ顔を出す。短い時間になるが、迎えてくれるか?」

 陛下がお望みならば、それは迎えるしかない。
 私はにっこりと答えた。

 「もちろん、陛下がお望みであれば。私はいつでもお待ちしておりますので……」

 私の答えに陛下は少し考えた後に、口を開いた。

 「もしかしたら、俺が動けないときは春麗に来てもらうこともあるかもしれないが。その時は来てくれるか?」

 「陛下がそうお望みなら、参ります。ただ、お声掛け無しでは立ち入れませんからね?」

 陛下の室はそういうものである。陛下もそれは分かっているので、一つ頷いて言った。

 「もちろん、分かっている。呼んだときは来てほしい」

 それに私はしっかり頷いて答えたのだった。

 「かしこまりました」

 こうして、陛下は新年に向けて忙しくなり、私もまた新年用の毛織物をせっせと織る生活を送るようになった。
 外は雪がちらつき始め、冬へと変わっていった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

長岡更紗
恋愛
フローリアンは女であるにもかかわらず、ハウアドル王国の第二王子として育てられた。 兄の第一王子はすでに王位を継承しているが、独身で世継ぎはおらず、このままではフローリアンが次の王となってしまう。 どうにか王位継承を回避したいのに、同性の親友、ツェツィーリアが婚約者となってしまい?! 赤髪の護衛騎士に心を寄せるフローリアンは、ツェツィーリアとの婚約破棄を目論みながら、女性の地位向上を目指す。 いつかは女性にも王位継承権を! 様々な困難を乗り越えて、最後に掴み取るのは、幸せか、それとも……?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...