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 機織りに入れ込んで過ごすうちに、外はチラチラと雪が舞うようになっていた。

 工場の窓から外を見て、私は機織りの手を止めて窓辺に寄った。

 「随分冷え込んできたと思ったら、もうこんな季節になってたのね」

 私は窓から外に手を出して、今年初の雪に触れる。
 乗ってすぐにサラッと溶けてしまう、けれど冷たさは残る。
 そんな雪の感触を楽しんでいると、ふいに後宮にまあまり見かけることのない武官の姿をみかけて首を捻る。

 「こんな奥に見かけたことのない武官が来るってなにか変……」

 私は自身が感じた違和感に従って、そっと工場を離れて女中や女官の取りまとめである女官長を探して裏方の通路に入ると駆け出した。

 そう、ここ一ヶ月は工場近辺には顔見知りの女中や女官、泰然さま、飛龍さま、陛下くらいしか見かけなかった。
 そういった体制が取られるようになって少したった頃、陛下が言ったのだ。

 「万が一にも、この近辺で見知らぬ者を見かけた時はすぐに女官長に知らせよ。その場から離れるように」

 そう、言い含められていた。
 それが何故なのかは私にはわからなかったけれど、それを私に告げる時の陛下の顔が真剣で普段と違う迫力ある雰囲気だったので私は頷いて返事をした。

 「はい。おかしいと思ったらすぐに女官長へ知らせます」

 私の返事を聞いて、陛下は一つ頷くと表情を緩めて言った。

 「取り越し苦労ならいいんだ。でも、春麗になにかあっては困る。だからこの約束は守ってくれ」

 ちょっと、いつもと違った陛下に一歩引きつつも私はブンブンと首を縦に振って首肯したのだった。

 それ以来、どんなにのめりこもうとも一刻に一回は手を休めて周囲を観察するようになった。
 おかげで、今回の違和感にも早めに気づけたのだが……。

 「おかしい……。この通路を進んでいて、誰にも会わないなんて……」

 私はここでも嫌な予感を感じ取ると、女官長の部屋への進路から流鶯さまの居室へと続く使用人通路へと足を向けた。

 部屋に近づくにつれて、そこが息を詰めるほど張り詰めていることに気づく。
 音を立てずにそっと室内の様子を窺う。

 「工場にはいなかったようですし、女官長の部屋にも来ていません」

 「そこに行ったんだ?陛下の大事な花は……」

 「早く探し出してここに連れてこい!」

 流鶯さまの居室には数人の武官と一人の文官がいた。
 いつも優しい流鶯さまと、迎えに来てくれる女官さんが部屋の中央の絨毯の上で縛られていた。
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