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 遅れた分を取り戻せと一心不乱に機織りに集中していた私は、工場に再びはじめましてな人物が入って来たことに気づかなかった。
 そう、肩をトントンと叩かれるまでは……。

 この部屋で、声をかけるより肩を叩かれるなんてことは今までなかったので、びっくりして機織り機の椅子で飛び跳ねそうになった。

 「あぁ、驚かせてすみませんね。入る前に声を掛けたんですが、返事がないので入ってしまいました。私は陛下の側近の文官で泰然(タイラン)と言います」

 肩を叩いてきたのは、陛下の側近の文官を名乗る、線の細い超美形さんでした。
 この感じで後宮までお咎めなく入って来られる側近の文官だと、この方は宦官?
 下手な女性より綺麗とか、どうなっているの陛下の側近は……。
 美しさとワイルドな屈強さとかが側近基準?
 などと、己の思考に潜り込んでいたらクスッと笑い声がした。
 目の前の人に視線を戻すと、美しいお顔が笑みに彩られて柔らかさが出た。

 「あなたのお考えの通り、私は宦官ですよ。現在は宦官長の補佐官で陛下の側近です」

 泰然さんの帯紐も紫で翡翠の玉がついていた。
 なんで、私は今日陛下にはお会いしていないのに、側近さんとはじめましてな出会いをしているんでしょう?
 私はどうも顔に出やすいので、泰然さんは私をみてはクスクスと隠せないかのように笑っている。
 笑い上戸なの? まぁ、いいけれど……。

 「今日は陛下に会いましたか?」
 
 さっきの武官さんと同じこと聞くなぁ。
 多分顔に出たのだろう、泰然さんはおやって顔のあとに聞いてきた。

 「同じことを誰かに聞かれました?」

 「えぇ、先程陛下の側近武官だという方に……。今日はお会いしていませんよ。ちょっと前まで一刻ほど流鶯さまのところにお邪魔しておりましたし」

 私の返答に一つ頷くと、泰然さんは納得したという表情をして私に邪魔をした旨を謝罪し、工場から去っていった。

 本当に、陛下ちゃんと仕事してください……。
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