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お勤め先は後宮でした
しおりを挟む後宮に奉公に来て、一ヶ月。
私はすっかりここでの生活にも慣れて、日々実家にいた頃と変わらず機織りや刺繍に精を出す日々。
それは私にとっては日常であり、変わらぬ日々の生活に安寧を感じるほど。
それでも、ここで触れるもの見るものは全て高級でそれは新鮮な刺激となり、私は機織りにますます精を出してしまう。
食事と寝る以外ではすっかり後宮の片隅の工場が私の居場所になっていた。
結婚とは程遠い生活ながら、すっかり満足していた私なのだが、ここ数日になって状況が変わってしまった。
それは、今ここの壁に寄り添ってピッタと動かず息を詰めている人物のせいである。
「皇帝陛下、お願いですから女官長や宦官からの逃げ場にここを使用しないでくださいませ」
陛下がここに逃げ込むこと三回目。
私はとうとうこの国で一番偉い人に苦言を呈してしまった。
しかし、私にとっては雲の上の人すぎて感覚が麻痺したのか、毎回いい作業の時に部屋に飛び込んで来て、女官長や宦官長がバタバタとひと騒動を起こして去って行く。
その原因たる陛下に、もう続けざまに三日ともなると、何も言わずにいるのも限界だった。
「そなた、見かけぬ顔だが名はなんと申す?」
うん、ここ三日で初めてのお声掛けがこれでした。
苦言は丸無視しましたね、陛下……。
「下働きで、機織りを任されております。春麗と申します」
仕方なし、初めに教わった高貴な方への跪拝の礼の姿勢を取った。
そこで、私は頭を下げたまま再び口にした。
「恐れながら、ここを逃げ場になさるのはお控えくださいますよう願い奉ります。何分、ここは染め粉やお湯も沸かすため火も使いますゆえ、御身に危険があっては困りますれば……」
そんな私に、陛下はおもむろに近づいて来た。
頭を下げた私の視界に、綺麗に刺された刺繍と宝石の施された靴は高貴さを示す紫の生地。
この靴を履けるのは、現陛下のみである。
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