冒険がしたいので殿下とは結婚しません!

ルジェ*

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再びの学院祭

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 夏休みが終わり学校が始まると私達は暫く様々な人達に囲まれていた。エスカトンの最下層を発見し、魔王を倒し、そしてAランクパーティーへと昇格したとなれば注目を浴びるのは必然だろう。学生達だけでなく先生方からも魔王との戦いの事などを色々と聞かれ、私達ノウムアルゴーは暫く気疲れが絶えなかった。
 そして秋、ルス兄の冠事変から早2年。再び学院祭がやって来た。今年も去年に引き続きマリウスとアレクのペアで学院内での選抜を勝ち抜き、模擬戦に出場する事となった。今年はゼノンが魔法個人部門に、殿下とエランス卿もダブルスで剣術部門に参加しているはずだ。
 予選はアレクの剣とマリウスの簡単な氷魔法だけで突破し、本戦もマリウスはあまり攻撃する事なく終わった。やはりアレクの剣の技術はすごいし2人の連携もいつも通りよくできてる。マリウスの支援も的確だ。

「この夏、魔物狩りまくって良かったね。」
「ほんとにね。実戦を積みまくったから連携にも磨きがかかったんじゃないかな。」

私はヘレナに頷く。すると一緒に観戦しているシロウ先輩とレオ先輩も頷いた。

「やっぱり実戦が1番だよなー。」
「あぁ。レベルはもちろんだが去年より更に判断力も上がっているし、隙が全くない。」

普段から授業で2人の様子を知っている先輩達はそう分析していた。

「なるほど。…あ、2人ともおかえりー!」
「お疲れ!」
「余裕そうだったな。」
「まぁな。」

マリウスは頷く。そりゃそうだろう、だってまだマリウスはほとんど動いていない。

 本戦が終わった翌日、魔法個人戦部門の決勝ではゼノンが見事優勝を勝ち取っていた。そして更に翌日。ダブルスの決勝戦。ついにマリウスもアレクの横に並んだ。

「お、マリウスもついにやるか。」
「元々筋は悪くなかったが、アレクと稽古するようになってからは更に剣も上手くなったからな。」
「それになんてったって、魔王を討伐したんだしね!」

ギルドのみんなも期待に満ちた目でリングに注目する。1戦目の相手は春の暁ウェールアウローラ所属の6年生2人。初手からかなり手強い相手ね…。去年の決勝戦では激戦の末負けた相手だ。

『それでは、始め!』

ギンッ!といきなり金属のぶつかり合う音がする。アレクの超素早い攻撃を相手はギリギリで受け止め、マリウスは一瞬で氷剣を作りながらもう片方に斬りかかる。あの剣、斬られるとその傷口も凍ってめっちゃ痛いんだよね。

「脚力上昇」
「っしゃあ!」

マリウスはアレクが相手に敢えて受け流させる瞬間に持続時間は短いが上昇率のすごく高い脚力上昇の身体強化を施し、アレクは相手を思い切り蹴飛ばす。相手は何とか防御を張ったがアレクの蹴りが強すぎて威力を殺しきれず、勢いよく吹っ飛んで行った。リングを超えて壁に思いっきりぶつかる。

『おーっとヘンリクス選手、早々に吹き飛ばされました!!リング外に出てしまったのでヘンリクス選手は退場です!』
「っ、濁流トレンテ!」

おお、最初から水の上級魔法か。濁流がマリウスとアレクを押し流そうとする。

「アイスウォール」
「サンドウォール」
かまいたちヴァンメッサー!」

なんとか2人が流されるのを防ぐとたちまち風の刃が襲いかかって来た。アレクが夜に咲く花ピロテクニマで相殺し、マリウスは氷剣で相殺しきれなかった風の刃を弾きながら走る。

「アクア…」
「こっちだぜ?」
「!!スライムウォール!」

身体強化で一気に相手の背後まで回り、上から斬り掛かったアレクだったが、相手はギリギリ自分を覆うようにスライムウォールを展開してアレクの剣も防いだ。アレクは後方に着地する。

「アレク。」
「おっしゃ、いかづちの刃グランツ!」

アレクは剣に電気を纏わせて剣を振るった。マリウスは少し距離を取り、意識を集中させていて辺りの温度が下がる。

「──我は支配者。ここは我が領域。」

ボウ、と魔法陣がリング上に浮かび上がる。アレクはなんとか相手を魔法陣の外に出さないよう押し留めていた。

「我が領域は一切の運動を認めぬ。絶対凍結アポリトミデン

アレクはギリギリのタイミングで身体強化で魔法陣の外へと出た。相手は全身凍りつき、アレクはそっとうつ伏せに倒した。歓声があがる。

『試合終了ー!!勝者、ノウムアルゴー男子チーム!!いやぁ、圧勝でしたね!』
『流石は魔王を討伐し在学中にAランクとなった実力者達ですね。お見事です!』

マリウスがパチン、と指を鳴らすと氷は溶けた。ヘンリクスもリング上に戻り、4人は笑って握手をした。

「いやぁ、素晴らしい連携だった。完敗だよ。」
「こちらこそ全力で挑んだ甲斐があった。」
「楽しかったぜ!」
『両者とも素晴らしい試合をありがとうございました!続きまして───』
「すっげー!」

私の2つ下で今年魔法学院に入学した弟、ルカスは興奮していた。みんなも頷く。

「まさか氷の最上級魔法をかますとはな。」
「気合い入っとるのう。」
「ねーねー、じいちゃんもあれできる?」
「もちろんだとも、昔はよくあれでダンジョンボスを葬ったもんだ。」
「僕もやりたい!!」

フェルがキラキラした瞳でおじいちゃんを見つめると、おじいちゃんは得意げに笑ってフェルを膝に乗せた。

「ならじいちゃんが特訓してやろう。」
「やったー!!」


 その後もマリウスとアレクは快進撃を遂げ、結局全戦全勝でトーナメントを終えた。表彰式でアレクとマリウスの2人に冠が授与される。

「おーい、みんなー!」
「アレク、マリウス、ゼノン!」
「おめでとう~!!よくやったな!」

3人は一緒にこちらに戻って来て、みんなに揉みくちゃにされていた。うんうん、みんな本当に凄かった。

「エミリア。やる。」
「え。」

みんなの輪から抜け出したマリウスはそう言って私の頭に冠をのせた。

「…良いの?」
「来年も取るから問題ねえよ。」
「…ふふ。」

私は笑ってマリウスに思い切り抱きついた。マリウスはちゃんと抱きとめてくれる。

「じゃあ来年は私と出てくれる?」
「ふ、お前と出たらリングが穴だらけになりそうだな。」
「あら、良いわね!私もおじいちゃんが6年生の時におじいちゃんと一緒に出場して優勝したのよ。」
「あの時の2人は相当ヤバかったらしくてなぁ。暫く伝説になってたんだよ。知ってるか?闘技場を崩壊させた話。」

お父さんはなんとも言えない表情で言う。

「え、それおじいちゃん達だったの⁉︎」
「マジで⁉︎」
「あぁ、今でも語り継がれてるのか…。」
「ちと恥ずかしいなぁ。」
「ふふふ。」
「あれはすごかったのう。」
「お、ヘンリクス!みんな!お疲れさん!」

そうして私達はいつも通り騒ぎながらギルドへと帰る。
──来年は私も4年で模擬戦に出られる。楽しみだ。
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