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魔王討伐記念パーティー⑤
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その後、陛下の声により再び夜会は再開した。陛下は玉座へと戻り、魔法省長官は書類を作ると言って一時退室した。仕事が早い。楽団の指揮者は指揮棒を手にし、再び音楽が流れ始めた。
「ルボル侯爵閣下、アロイシウスさん、助けていただきありがとうございました。このご恩は忘れません。」
「私からも御礼申し上げます。娘を助けていただいた御恩は忘れません。」
「いやいや、私は当然の事をしたまで。」
「気にするな、無事取り戻せて良かった。」
閣下とアロイシウスさんは笑顔を見せた。
「それにしても、さすがは魔王を倒したパーティーの一員。この証は素晴らしい出来ですな。」
「いえ、閣下より賜った極上の素材があってこそです。感謝申し上げます。」
「はっはっは、有効活用していただけて何よりだ。」
閣下はルーメンアトランティスからもらったことに顔を顰める事もなく満足げにしていた。
「それにしてもマリウス…、大層なものを仕込んだのう。」
「重い男は嫌われるぞ?」
じいさん達は若干引き気味に言った。そんな事を言ったって仕方がないだろう、もう“前”のような死に方は絶対にさせないと誓ったのだから。
「あら、私はとっても素敵だと思うわ。マリウス君も本当に成長したわねぇ。」
「ありがとな、ばあさん。仕方ねえだろ、エミリアはすぐ1人で突っ走ってくんだから。」
そう言うと皆は確かに…、ととても納得していた。
「エミリアには過保護なくらいがちょうど良いですわよね。」
「うんうん。」
「そ、そんな事ないもん!」
「いやいや、そんな事あるぞエミリア。」
「ぐぅ…。」
「あはは!」
皆から言われリアは悔しそうにしていた。
夜会はまだまだ続いていたが俺とリアは疲れたので会場を離れ、バルコニーから王宮の庭園に出た。適当に歩いていると東屋に辿り着き、そこに腰を降ろす。
「…疲れたね。」
「あぁ、ほんとにな。」
俺は上着を脱ぎ首元も少し緩める。
「殿下がたまたま席外してて良かった。」
「マジでそうだな。殿下がいたらもっと厄介な事になってた。」
「…ねぇ、マリウス。」
「なんだ。」
返事をすると、リアは言いづらそうに、躊躇いがちに口を開いた。
「その…、…ちょっとだけ、抱きしめて欲しいなー、みたいな…。」
──ああもう、なんでこいつはこんなにかわいいんだ。俺はすぐにリアを抱きしめた。落ち着かせるように背中をポンポンと軽く叩く。
「…痛かったな。」
「…うん。」
「死ぬほど腹立ったな。」
「うん。」
「…殿下に求婚された時、怖かったか?」
「………、少しだけ。」
リアはたっぷり悩んだ末、素直に頷いた。
「でも、夜会でみんなに私とマリウスが婚約してるって宣伝出来たし、もう殿下と会う事もないだろうから大丈夫。」
「そうだな。」
「…リウィアにもまた会えて、すっごい嬉しかった。」
「あぁ、良かったな。」
「…ねぇ、私が死んだ後の事聞いたら怒る…?」
リアは俺の肩口に額を押し付けておずおずと尋ねた。どう答えるべきか悩んで、リアの髪を弄りながら梳くように撫でる。
「…ヌーブラエ卿とエランス卿、ルボル侯爵令嬢は呪術によって操られていた。操っていた犯人も捕まって、お前を陥れるのに加担した貴族達もそれぞれ処罰された。殿下も廃嫡されてたな。」
俺はできるだけ淡々と事実を述べる。
「リウィアやみんなも殿下に糾弾されたりとかしなかった?」
「それはねぇよ、エミリアが捕まった翌日にルキウス兄が俺とニゲルとあのお嬢様を連れて陛下のところに行って、俺が陛下の解毒をしたからな。」
「そっか、なら良かった…。」
リアはホッとしたように呟いた。
「…大丈夫だ、もうあんな事にはならねぇよ。」
「…うん。」
「…リア。」
名前を呼ぶと、リアはゆるゆると顔を上げた。スリ、と頬を撫でる。
「まだ言ってなかったな、今夜はいつも以上に綺麗だ。」
「へ。」
驚いたように目を丸くして固まるリアが可愛くて、笑いがこぼれた。
「かわいい。」
「えっ、待っ、」
真っ赤に染まった頬に口付けると、リアは耳まで赤くした。
「顔、赤いぞ。」
「~っ!あ、暑いから!暑いからしょうがないでしょ!!?」
リアは勢いよく立ち上がり、そのまま庭園に出た。
「ははっ、そうだな。」
俺もリアの後を追って東屋を出た。夏の夜のぬるい風がピアスを揺らす。
ふと夜空を見上げれば、真上で夜闇を照らしている満月がやけに綺麗だった。
「ルボル侯爵閣下、アロイシウスさん、助けていただきありがとうございました。このご恩は忘れません。」
「私からも御礼申し上げます。娘を助けていただいた御恩は忘れません。」
「いやいや、私は当然の事をしたまで。」
「気にするな、無事取り戻せて良かった。」
閣下とアロイシウスさんは笑顔を見せた。
「それにしても、さすがは魔王を倒したパーティーの一員。この証は素晴らしい出来ですな。」
「いえ、閣下より賜った極上の素材があってこそです。感謝申し上げます。」
「はっはっは、有効活用していただけて何よりだ。」
閣下はルーメンアトランティスからもらったことに顔を顰める事もなく満足げにしていた。
「それにしてもマリウス…、大層なものを仕込んだのう。」
「重い男は嫌われるぞ?」
じいさん達は若干引き気味に言った。そんな事を言ったって仕方がないだろう、もう“前”のような死に方は絶対にさせないと誓ったのだから。
「あら、私はとっても素敵だと思うわ。マリウス君も本当に成長したわねぇ。」
「ありがとな、ばあさん。仕方ねえだろ、エミリアはすぐ1人で突っ走ってくんだから。」
そう言うと皆は確かに…、ととても納得していた。
「エミリアには過保護なくらいがちょうど良いですわよね。」
「うんうん。」
「そ、そんな事ないもん!」
「いやいや、そんな事あるぞエミリア。」
「ぐぅ…。」
「あはは!」
皆から言われリアは悔しそうにしていた。
夜会はまだまだ続いていたが俺とリアは疲れたので会場を離れ、バルコニーから王宮の庭園に出た。適当に歩いていると東屋に辿り着き、そこに腰を降ろす。
「…疲れたね。」
「あぁ、ほんとにな。」
俺は上着を脱ぎ首元も少し緩める。
「殿下がたまたま席外してて良かった。」
「マジでそうだな。殿下がいたらもっと厄介な事になってた。」
「…ねぇ、マリウス。」
「なんだ。」
返事をすると、リアは言いづらそうに、躊躇いがちに口を開いた。
「その…、…ちょっとだけ、抱きしめて欲しいなー、みたいな…。」
──ああもう、なんでこいつはこんなにかわいいんだ。俺はすぐにリアを抱きしめた。落ち着かせるように背中をポンポンと軽く叩く。
「…痛かったな。」
「…うん。」
「死ぬほど腹立ったな。」
「うん。」
「…殿下に求婚された時、怖かったか?」
「………、少しだけ。」
リアはたっぷり悩んだ末、素直に頷いた。
「でも、夜会でみんなに私とマリウスが婚約してるって宣伝出来たし、もう殿下と会う事もないだろうから大丈夫。」
「そうだな。」
「…リウィアにもまた会えて、すっごい嬉しかった。」
「あぁ、良かったな。」
「…ねぇ、私が死んだ後の事聞いたら怒る…?」
リアは俺の肩口に額を押し付けておずおずと尋ねた。どう答えるべきか悩んで、リアの髪を弄りながら梳くように撫でる。
「…ヌーブラエ卿とエランス卿、ルボル侯爵令嬢は呪術によって操られていた。操っていた犯人も捕まって、お前を陥れるのに加担した貴族達もそれぞれ処罰された。殿下も廃嫡されてたな。」
俺はできるだけ淡々と事実を述べる。
「リウィアやみんなも殿下に糾弾されたりとかしなかった?」
「それはねぇよ、エミリアが捕まった翌日にルキウス兄が俺とニゲルとあのお嬢様を連れて陛下のところに行って、俺が陛下の解毒をしたからな。」
「そっか、なら良かった…。」
リアはホッとしたように呟いた。
「…大丈夫だ、もうあんな事にはならねぇよ。」
「…うん。」
「…リア。」
名前を呼ぶと、リアはゆるゆると顔を上げた。スリ、と頬を撫でる。
「まだ言ってなかったな、今夜はいつも以上に綺麗だ。」
「へ。」
驚いたように目を丸くして固まるリアが可愛くて、笑いがこぼれた。
「かわいい。」
「えっ、待っ、」
真っ赤に染まった頬に口付けると、リアは耳まで赤くした。
「顔、赤いぞ。」
「~っ!あ、暑いから!暑いからしょうがないでしょ!!?」
リアは勢いよく立ち上がり、そのまま庭園に出た。
「ははっ、そうだな。」
俺もリアの後を追って東屋を出た。夏の夜のぬるい風がピアスを揺らす。
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