25 / 35
魔王討伐記念パーティー①
しおりを挟む
それから暫くした後、ついに夜会が始まった。夜会は他国の王族や要人も招かれており、とても大規模なものだった。アレクの言った通り俺達ノウムアルゴーは大勢の貴族や要人達に話しかけられ、途中からはほとんど会話の内容が頭に入って来なかった。タイミングを見計らって上手く抜け出し、やっと一息つく。
「つっかれたーーーー。」
ヘレナはバルコニーの塀にもたれかかった。
「やっぱこういうの苦手だわ…。」
「そうだな、大人は何考えてんのかよく分かんねーし。」
「ルキウス兄達がいるのがせめてもの救いだな。」
ぐったりとしながら暫く夜風に当たっているとアレクとヘレナはアレクの両親やヘレナの婚約者であるアレクの次兄、それからアレクの婚約者とその両親を見つけ、挨拶をしに2人とも会場に戻って行った。貴族は挨拶が多くて大変だ。リアと俺はもう少し休んでいようと会場に戻らずにいると、辺りをキョロキョロと見渡しながらバルコニーに出てくる令嬢の姿が見えた。まさかあれは…。
「…リウィア?」
リアは風でかき消されてしまいそうなほどの小声でそう呟いた。やはりそうだ。あれはカンケル侯爵令嬢だ。
彼女はこちらに気付くと一瞬迷ったように固まった後、ツカツカとこちらに歩み寄ってきた。
「…貴女がエミリア・デーフェクトさん、ですわよね?」
「…はい。」
リアは少し緊張した面持ちで頷いた。
「…初めまして、わたくしはリウィア・カンケル。カンケル侯爵家の者ですわ。突然ですけれど、あなたを思いっきり抱きしめても良いかしら。」
カンケル侯爵令嬢は美しいカーテシーをするとツンとすましながら真っ直ぐにリアを見つめた。リアは驚いたように数回瞬きした後、少し泣き笑いみたいに笑ってもちろん、と両手を伸ばした。カンケル侯爵令嬢は勢いよくリアに抱きつく。少し高飛車な彼女は相変わらずで、少し懐かしさを覚えた。
「…ねぇ、わたくし、とっても怒っていますの。」
「…何にですか?」
「そんなの、わたくしを置いて先に行った事に決まってますわ!」
あぁ、彼女も“そう”なんだな。…それが、彼女にとって良いのか悪いのかは分からないが。
「…うん。」
「だから次は…、今度は、ちゃんと幸せになって長生きしなきゃ許しませんわ。」
「うん、ごめんね。…ありがとう、リウィア。」
リアは抱きしめ返す腕に力を込めた。──“前”の、あの記憶があるのは何かと辛い事もあるだろう。しかしきっと、こうして再会できた事は喜ばしい事だ。
「…エミリア、これはもしかして婚約の証でして?」
暫くしてお互い腕を緩めると、カンケル侯爵令嬢はリアのピアスにそっと触れた。リアは頷く。
「そう…。…やはり貴方も覚えてらっしゃいますのね。」
彼女は俺に視線を向け、悲しげなような労わるような、そんな笑みを浮かべた。
「あぁ…、思い出したのは最近だけどな。」
「まぁ、貴方ならきっとエミリアを幸せにできると信じておりますわ。…でなければ、わたくしがエミリアをもらいますから。」
「それはご勘弁を、お嬢様。俺はもう離さねぇって決めたんだ。」
「えぇ、でしたら殿下に存分に見せつけて差し上げたらよろしいですわ。」
カンケル侯爵令嬢はそう笑ってリアを再び見た。
「それにしてもエミリア…、今日の髪飾りとっても素敵ね。よく似合ってますわ。」
「ありがとう、マリウスが誕生日プレゼントにってくれたの。」
「む、中々やりますわね…。」
「ふ、そりゃどうも。」
そんな話をしていると会場では曲が終わり、少し音楽が途切れた。
「そういえば2人とも、まだ踊っていらっしゃいませんわよね?」
「うん、そうだけど。」
「なら次の曲は2人で踊ってらっしゃいな。2人で踊っていて更にそのピアスの魔力にも気付けば、周りもあなた方の関係に気付くでしょう。」
カンケル侯爵令嬢の言う事は尤もだが…、ワルツは正直苦手だ。リアもえぇー、と嫌そうにしている。
「社交ダンス苦手なのよね、堅苦しくて。」
「良いから行きますわよ!どうせ2人とも完璧に踊れるのでしょう?」
カンケル侯爵令嬢に連れられ渋々会場に戻り、中央のダンスホールで俺はリアと向かい合った。視線がこちらに集まる。
「…仕方ねぇな、やるか。」
俺が言うとリアは苦笑する。
「うん。」
「つっかれたーーーー。」
ヘレナはバルコニーの塀にもたれかかった。
「やっぱこういうの苦手だわ…。」
「そうだな、大人は何考えてんのかよく分かんねーし。」
「ルキウス兄達がいるのがせめてもの救いだな。」
ぐったりとしながら暫く夜風に当たっているとアレクとヘレナはアレクの両親やヘレナの婚約者であるアレクの次兄、それからアレクの婚約者とその両親を見つけ、挨拶をしに2人とも会場に戻って行った。貴族は挨拶が多くて大変だ。リアと俺はもう少し休んでいようと会場に戻らずにいると、辺りをキョロキョロと見渡しながらバルコニーに出てくる令嬢の姿が見えた。まさかあれは…。
「…リウィア?」
リアは風でかき消されてしまいそうなほどの小声でそう呟いた。やはりそうだ。あれはカンケル侯爵令嬢だ。
彼女はこちらに気付くと一瞬迷ったように固まった後、ツカツカとこちらに歩み寄ってきた。
「…貴女がエミリア・デーフェクトさん、ですわよね?」
「…はい。」
リアは少し緊張した面持ちで頷いた。
「…初めまして、わたくしはリウィア・カンケル。カンケル侯爵家の者ですわ。突然ですけれど、あなたを思いっきり抱きしめても良いかしら。」
カンケル侯爵令嬢は美しいカーテシーをするとツンとすましながら真っ直ぐにリアを見つめた。リアは驚いたように数回瞬きした後、少し泣き笑いみたいに笑ってもちろん、と両手を伸ばした。カンケル侯爵令嬢は勢いよくリアに抱きつく。少し高飛車な彼女は相変わらずで、少し懐かしさを覚えた。
「…ねぇ、わたくし、とっても怒っていますの。」
「…何にですか?」
「そんなの、わたくしを置いて先に行った事に決まってますわ!」
あぁ、彼女も“そう”なんだな。…それが、彼女にとって良いのか悪いのかは分からないが。
「…うん。」
「だから次は…、今度は、ちゃんと幸せになって長生きしなきゃ許しませんわ。」
「うん、ごめんね。…ありがとう、リウィア。」
リアは抱きしめ返す腕に力を込めた。──“前”の、あの記憶があるのは何かと辛い事もあるだろう。しかしきっと、こうして再会できた事は喜ばしい事だ。
「…エミリア、これはもしかして婚約の証でして?」
暫くしてお互い腕を緩めると、カンケル侯爵令嬢はリアのピアスにそっと触れた。リアは頷く。
「そう…。…やはり貴方も覚えてらっしゃいますのね。」
彼女は俺に視線を向け、悲しげなような労わるような、そんな笑みを浮かべた。
「あぁ…、思い出したのは最近だけどな。」
「まぁ、貴方ならきっとエミリアを幸せにできると信じておりますわ。…でなければ、わたくしがエミリアをもらいますから。」
「それはご勘弁を、お嬢様。俺はもう離さねぇって決めたんだ。」
「えぇ、でしたら殿下に存分に見せつけて差し上げたらよろしいですわ。」
カンケル侯爵令嬢はそう笑ってリアを再び見た。
「それにしてもエミリア…、今日の髪飾りとっても素敵ね。よく似合ってますわ。」
「ありがとう、マリウスが誕生日プレゼントにってくれたの。」
「む、中々やりますわね…。」
「ふ、そりゃどうも。」
そんな話をしていると会場では曲が終わり、少し音楽が途切れた。
「そういえば2人とも、まだ踊っていらっしゃいませんわよね?」
「うん、そうだけど。」
「なら次の曲は2人で踊ってらっしゃいな。2人で踊っていて更にそのピアスの魔力にも気付けば、周りもあなた方の関係に気付くでしょう。」
カンケル侯爵令嬢の言う事は尤もだが…、ワルツは正直苦手だ。リアもえぇー、と嫌そうにしている。
「社交ダンス苦手なのよね、堅苦しくて。」
「良いから行きますわよ!どうせ2人とも完璧に踊れるのでしょう?」
カンケル侯爵令嬢に連れられ渋々会場に戻り、中央のダンスホールで俺はリアと向かい合った。視線がこちらに集まる。
「…仕方ねぇな、やるか。」
俺が言うとリアは苦笑する。
「うん。」
1
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます
ユユ
ファンタジー
“美少女だね”
“可愛いね”
“天使みたい”
知ってる。そう言われ続けてきたから。
だけど…
“なんだコレは。
こんなモノを私は妻にしなければならないのか”
召喚(誘拐)された世界では平凡だった。
私は言われた言葉を忘れたりはしない。
* さらっとファンタジー系程度
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる