冒険がしたいので殿下とは結婚しません!

ルジェ*

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魔王討伐記念パーティー①

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 それから暫くした後、ついに夜会が始まった。夜会は他国の王族や要人も招かれており、とても大規模なものだった。アレクの言った通り俺達ノウムアルゴーは大勢の貴族や要人達に話しかけられ、途中からはほとんど会話の内容が頭に入って来なかった。タイミングを見計らって上手く抜け出し、やっと一息つく。

「つっかれたーーーー。」

ヘレナはバルコニーの塀にもたれかかった。

「やっぱこういうの苦手だわ…。」
「そうだな、大人は何考えてんのかよく分かんねーし。」
「ルキウス兄達がいるのがせめてもの救いだな。」

ぐったりとしながら暫く夜風に当たっているとアレクとヘレナはアレクの両親やヘレナの婚約者であるアレクの次兄、それからアレクの婚約者とその両親を見つけ、挨拶をしに2人とも会場に戻って行った。貴族は挨拶が多くて大変だ。リアと俺はもう少し休んでいようと会場に戻らずにいると、辺りをキョロキョロと見渡しながらバルコニーに出てくる令嬢の姿が見えた。まさかあれは…。

「…リウィア?」

リアは風でかき消されてしまいそうなほどの小声でそう呟いた。やはりそうだ。あれはカンケル侯爵令嬢だ。
彼女はこちらに気付くと一瞬迷ったように固まった後、ツカツカとこちらに歩み寄ってきた。

「…貴女がエミリア・デーフェクトさん、ですわよね?」
「…はい。」

リアは少し緊張した面持ちで頷いた。

「…初めまして、わたくしはリウィア・カンケル。カンケル侯爵家の者ですわ。突然ですけれど、あなたを思いっきり抱きしめても良いかしら。」

カンケル侯爵令嬢は美しいカーテシーをするとツンとすましながら真っ直ぐにリアを見つめた。リアは驚いたように数回瞬きした後、少し泣き笑いみたいに笑ってもちろん、と両手を伸ばした。カンケル侯爵令嬢は勢いよくリアに抱きつく。少し高飛車な彼女は相変わらずで、少し懐かしさを覚えた。

「…ねぇ、わたくし、とっても怒っていますの。」
「…何にですか?」
「そんなの、わたくしを置いて先に行った事に決まってますわ!」

あぁ、彼女も“そう”なんだな。…それが、彼女にとって良いのか悪いのかは分からないが。

「…うん。」
「だから次は…、今度は、ちゃんと幸せになって長生きしなきゃ許しませんわ。」
「うん、ごめんね。…ありがとう、リウィア。」

リアは抱きしめ返す腕に力を込めた。──“前”の、あの記憶があるのは何かと辛い事もあるだろう。しかしきっと、こうして再会できた事は喜ばしい事だ。

「…エミリア、これはもしかして婚約の証でして?」

暫くしてお互い腕を緩めると、カンケル侯爵令嬢はリアのピアスにそっと触れた。リアは頷く。

「そう…。…やはり貴方も覚えてらっしゃいますのね。」

彼女は俺に視線を向け、悲しげなような労わるような、そんな笑みを浮かべた。

「あぁ…、思い出したのは最近だけどな。」
「まぁ、貴方ならきっとエミリアを幸せにできると信じておりますわ。…でなければ、わたくしがエミリアをもらいますから。」
「それはご勘弁を、お嬢様。俺はもう離さねぇって決めたんだ。」
「えぇ、でしたら殿下に存分に見せつけて差し上げたらよろしいですわ。」

カンケル侯爵令嬢はそう笑ってリアを再び見た。

「それにしてもエミリア…、今日の髪飾りとっても素敵ね。よく似合ってますわ。」
「ありがとう、マリウスが誕生日プレゼントにってくれたの。」
「む、中々やりますわね…。」
「ふ、そりゃどうも。」

そんな話をしていると会場では曲が終わり、少し音楽が途切れた。

「そういえば2人とも、まだ踊っていらっしゃいませんわよね?」
「うん、そうだけど。」
「なら次の曲は2人で踊ってらっしゃいな。2人で踊っていて更にそのピアスの魔力にも気付けば、周りもあなた方の関係に気付くでしょう。」

カンケル侯爵令嬢の言う事は尤もだが…、ワルツは正直苦手だ。リアもえぇー、と嫌そうにしている。

「社交ダンス苦手なのよね、堅苦しくて。」
「良いから行きますわよ!どうせ2人とも完璧に踊れるのでしょう?」

カンケル侯爵令嬢に連れられ渋々会場に戻り、中央のダンスホールで俺はリアと向かい合った。視線がこちらに集まる。

「…仕方ねぇな、やるか。」

俺が言うとリアは苦笑する。

「うん。」
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