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届いた想い
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「マリウス、私と結婚しない?」
ある日突然、好いていた幼馴染の口から発せられた言葉はまさかの求婚だった。当時は俺もまだ学院に入る前で、どうせ気まぐれか冗談だろうと全く相手にしていなかった。しかしあいつは飽きもせず何度も、思い出したように結婚しようと言ってきた。年頃になれば流石に大人しくなるだろうと思っていたのに全く大人しくなる素振りはなく、学院に入学してからもずっと。まったく、人の気も知らねぇで…!
5年に進級するまではずっと、冗談か俺をからかおうとして言っているんだと思っていた。しかし5年になって“前”の記憶を思い出してからは、きっとリアも“前”の事を覚えていて、殿下から逃げるために他の奴と先に婚約してしまおうと考えたのではないかと思うようになった。それで1番手っ取り早かったのが俺だったのではないか、と。──前の事を考えればリアが生きているなら何でも良いような気持ちになってくるし、そのための協力だっていくらでもする。…が、結婚は話が別だ。好きな奴と毎日朝も夜も同じ屋根の下で過ごして我慢し続けられる自信は正直ない。リアの嫌がることをするのは論外だし、それでは“前”の殿下と変わらない。
──俺はそんな複雑な感情を抱きながらも何でもないようにリアからの求婚をあしらってきたが、ついに殿下と出会った事で何かがプツンと切れたような気がした。
「…それがどういう事か分かってて言ってんのか?」
俺は気づけばリアを組み敷いていた。驚いたように瞬きするリアの乱れた前髪を整え、頬に触れる。
「…、うん。」
リアはしっかりと俺の目を見ながら頷いた。
「…なら、後から文句言うなよ。」
「…うん。」
耳元で囁くと、リアは頬を赤らめながら頷いた。もう後戻りはできないし、するつもりもない。俺はリアの唇に唇を重ねた。暖かくて柔らかくて、リアが生きている事が感じられて少し安心する。
何度か唇を重ねリアを見ると、彼女は耳まで真っ赤になって俺のローブを握りしめていた。頬を撫でると少し嬉しそうに表情を緩める。…こんなに可愛い反応をされたら、流石に冗談やおふざけだと切り捨てるのは馬鹿だと気付く。
「…リア。」
「…ん。」
「…可愛い奴だな、お前。…ま、昔から知ってたけどな。ずっと見てきたんだし。」
「っ…!!」
そう、昔から。“前”はこれは恋愛じゃなくて親愛だと自分に何度もそう言い聞かせて、ただリアの幸せを願って見守ってきた。だがその結果は最悪で、ただただもういないリアへの思いを自覚させられただけだった。本当は初等学校に入るよりも前から、気づけば彼女を目で追うようになっていたのに。
やっと素直な想いを囁くと、リアは驚いたように顔を上げた。そして瞳を潤ませながらぎゅっと首筋に腕を絡めてきた。
「俺には後にも先にもリアだけだ。」
「うん…、うん。私もずっとずっと、好きだったよ。」
リアはポロポロと涙をこぼしながら頷いた。魔力の扱いを覚え始めて属性が分かってからあっという間に天才だなんだと持て囃されてきたし沢山の努力をしてきたのも知っているが、泣き虫な所は変わらないらしい。そんなところがどうしようもないくらい愛おしくて、つい笑いが溢れた。リアを抱き起こして膝に乗せ、目線を合わせる。藤の花のように優しい色の瞳から涙が滴り落ちるのはとても綺麗だった。
「…死ぬまで隣にいてくれるか?」
「うん、隣にいさせて。」
リアは涙を溢しながらも綺麗に笑った。彼女の返事に安堵して、華奢な身体を抱き寄せた。
「…もう離してやらねぇぞ。」
「うん。これからも一緒に、色んな冒険をしよう。」
「あぁ。お前らとなら一生飽きねぇだろうな。」
リア達となら、どんな逆境や試練も最後は笑い話に変えられるだろう。
どうやら殿下が近くに潜んでいるようなので、俺たちはギルド内に戻る事にした。殿下達は朝早くに王城に戻り、俺達は午後から王城へ出向く事になっている。殿下がリアを気に入ったのは間違いない、下手をするとまた求婚する可能性もある。もしそうなら今の俺とリアの会話を聞いて殿下は焦るはず。きっと王城についてすぐに陛下達にリアとの婚姻の話を持ち上げるだろう。…一応、こっちも対策しておくか。
ギルドに入るとまだ会っていなかったギルドのメンバーが話しかけてきた。久々の仲間達と話していると、どうやらマスターがもう帰って来たようだったのでマスターに挨拶をしに向かう。ヘレナとアレクは既に部屋の前で待っていた。
「ごめん、待たせた?」
「いや、私達もついさっき来た所だよ。」
「なら良かった。」
「よし、行くぞ。」
リアに手を差し出すと彼女は一瞬不思議そうにそれを見つめていたが、すぐに照れたように笑って手を握った。リーダーであるリアが扉を開く。
「「「「ただいま戻りました。」」」」
「お帰り、リア、マリウス、アレク、ヘレナ。みんな良く頑張ったな!」
マスターは笑顔で俺たちを出迎え、抱きしめた。
「魔王はどうだった?いや戦いは見ていたし怪我はないと報告で聞いていたが、大丈夫だったか?」
「思ったよりは苦戦しなかったぜー?」
「怪我もそんなに酷くなかったしマリウスが治してくれたしね。」
「この通り、みんな元気ですよ!」
「魔王と戦うより、帰りの道中のが色々と疲れたな。」
口々に返事をするとマスターは苦笑した。
「そうか、まぁお前たちが元気なら何よりだ。細かい報告は連絡してくれてたからもう大丈夫だ、暫くはゆっくり休むと良い。」
「「はーい」」
アレクとヘレナは頷くとさっさと帰ろうと踵を返す。一方俺はマスター、と一歩前に踏み出す。
「どうした?」
「リアを俺にください。」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!??」」」
「今⁉︎今言うの!!??」
隣と背後から叫び声が上がったが、マスターは驚いたように数回瞬きした後うーん、と唸った。
「俺の予想よりは随分早かったが…、まぁ良いか。マリウスなら安心だ!」
「「「いや良いの!!!???」」」
「ま、いつかそうなるだろうと思ってたからな。…ただし、結婚は卒業してからだぞ。」
「もちろん、そのつもりだ。」
俺が頷くとマスターはにっと笑った。
「よし、なら俺から言うことは何もない。リアをよろしくな。」
「…はい。」
マスターは俺の肩をポンと叩いた。そして唖然としているリアと向き合うと彼女の頭に手を置いた。
「良いかリア、お前は強いし天才だ。けど不死身ではないんだ。それは分かるな?」
「…、うん。」
「無茶しすぎてマリウスに迷惑はかけるなよ。お前がいないとみんな悲しいからな。」
「…。」
その言葉は俺達に深く刺さった。リアは力強く分かった、と頷いた。
「なんかすごい急展開だったけど…、ともかく2人ともおめでとう!」
「おめでとう、良かったな2人とも!」
ヘレナとアレクは笑顔で言った。俺達も笑って礼を言う。
「よし、じゃあ行くか!」
マスターは笑顔で扉に向かう。
「行くってどこに?」
「そんなの決まってるだろ?」
マスターは部屋を出て2階の吹き抜けの所に立った。リアは嫌な予感がしたのか一瞬でギルド本部の建物全体に防音魔法をかけた。
「みんな喜べ!エミリアとマリウスの婚約が決まったぞ!!」
マスターがそう叫ぶと一瞬の間の後至る所から歓声が上がった。リアは恥ずかしそうに眉を顰める。
「今日は宴だ、みんな好きなだけ飲め!」
マスターのその一言によりギルドは再びお祭り騒ぎとなった。皆ももちろんだが食堂担当のモニカさん達も忙しそうにしつつも楽しそうだった。俺とリアも一階に降りると多くの祝福の言葉をかけられる。
「おめでとうリア、良かったねぇ。」
「おめでとう、2人とも。先を越されたな…。」
「お姉ちゃん、ルス兄。ありがとう。」
「うちのリアを泣かせたら許さないからね!」
「分かってる、んな事しねぇよ。」
「兄さんリアちゃん、おめでとう!」
「ありがとう、ニゲル。」
「いつかそうなるとは思ってたけど、ものすごい急でお母さん心臓止まるかと思ったわぁ。」
「ニゲル、お前は前もって言っておいてくれよ。」
両親に言われ、ニゲルは苦笑していた。
「まぁ何はともあれ、2人ともおめでとう。」
「リアちゃん、うちの息子をよろしくな。」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「2人ともおめでとう!ついこの前まではあんなに小さかったのに、大きくなったなぁ。」
「そりゃあたし達も年取るわよねぇ。」
「そうだマリウス、婚約の証はもう用意してんのか?」
婚約の証とは、婚約した時に男性から女性へ贈られるアクセサリーのことだ。種類は何でも良いのだが、男性の目の色と同じ色の魔力石や宝石に男性が自分の魔力を込めたものを使ったアクセサリーを贈る。魔法の専門的な勉強をしていない一般人だとそのアクセサリーにはたとえば健康祈願などのおまじない程度の効果が出るが、魔導師や貴族など魔法の勉強をした人だと技量によっては立派な魔道具と同等の効果のアクセサリーができる。元々は貴族達の習慣で男性側の誠意やらを示すものだったらしく、今も証を受け取った女性に交際や結婚を迫ったり手を出すことは法により禁じられている。
「いや、流石にまだだ。」
「ならあれが良いんじゃねぇか?」
「あぁ、この前の報酬でもらったやつ!」
俺達が不思議そうにしていると、コンスタンスは収納魔法で亜空間から箱を取り出した。コンスタンス達は俺達が生まれる前からSランクのパーティーで、昔から可愛がってもらっていた。
「俺達じゃ使い道がなくて困ってたんだ。」
「ちょうどいいから2人にあげるわ。私達からのお祝いってことで!」
受け取った小箱を開けてみると、中にはアクアマリンが入っていた。
「これ…!」
「色もマリウスの目の色にぴったりだろ?」
「しかもそれ、普通のアクアマリンよりも耐久性が高いそうよ。」
「めっちゃ高級品じゃん…!!」
「ほんとに良いのか?」
俺とリアはあまりに価値の高いプレゼントに腰が引けてしまう。しかしコンスタンス達は、
「気にすんな!2人は俺達にとっても娘と息子みたいなもんだからな!」
「そうよー、遠慮しなくて良いのよ。私達ほんとに嬉しいんだから。」
「気に入ってくれたなら是非受け取ってくれ。」
と笑顔で言った。そこまで言われては受け取らない理由はないし、きっとこれ以上の物も手に入らないだろう。
「…リア、お前はどう思う?」
俺が尋ねると、リアは
「すっごくきれいな色ね。」
とニッコリと笑った。
「なら、ありがたく受け取らせてもらう。」
「ありがとう、みんな。」
礼を言うと彼らはどういたしまして、と笑顔を向けた。
「へえ、良い宝石じゃないか。加工はアナスタシアに任せたらどうだ?」
「そうね、あの子そういうの得意だもんね。」
「良いわよ、任せて!王国一のアクセサリーにしてあげる!」
「ありがとうアナスタシア。」
周りの協力のおかげで婚約の証はあっという間に出来上がった。ティアドロップのピアスで、魔法は…まぁ、色々込めておいた。鑑定できる奴らに引かれる程度には。
完成したピアスはリアによく似合っていた。
「せっかくだしサイドの髪も結んでピアスが見えるようにしちゃえば?」
「でもエミリアの今の髪型も可愛くて良いわよね~。」
「そうだよね、結うのも大人っぽくてそれはそれで良いけど…。」
女達はリアを取り囲んで楽しそうにしていた。
「でもやっぱ婚約の証だしさ?婚約してるんだぞ!ってアピールした方が良くない?」
「まぁねー。でも、こうやって…」
1人が魔法でふわりと風を起こすと、リアの髪が揺れて耳元が露になった。
「風が吹けば見えるじゃない?」
「確かに!」
「ミリーならそのくらいの奥ゆかしさでちょうど良いわね。」
「何言ってんのよ、あんたとエミリアを比べたらそりゃそうよ。」
「うるさいわね!」
「あはは!」
どうやら話がまとまったようだ。その後も仲間達と騒ぎ合い、良い時間になったところで俺達ノウムアルゴーは先に帰らせてもらった。
明日が勝負だ。
ある日突然、好いていた幼馴染の口から発せられた言葉はまさかの求婚だった。当時は俺もまだ学院に入る前で、どうせ気まぐれか冗談だろうと全く相手にしていなかった。しかしあいつは飽きもせず何度も、思い出したように結婚しようと言ってきた。年頃になれば流石に大人しくなるだろうと思っていたのに全く大人しくなる素振りはなく、学院に入学してからもずっと。まったく、人の気も知らねぇで…!
5年に進級するまではずっと、冗談か俺をからかおうとして言っているんだと思っていた。しかし5年になって“前”の記憶を思い出してからは、きっとリアも“前”の事を覚えていて、殿下から逃げるために他の奴と先に婚約してしまおうと考えたのではないかと思うようになった。それで1番手っ取り早かったのが俺だったのではないか、と。──前の事を考えればリアが生きているなら何でも良いような気持ちになってくるし、そのための協力だっていくらでもする。…が、結婚は話が別だ。好きな奴と毎日朝も夜も同じ屋根の下で過ごして我慢し続けられる自信は正直ない。リアの嫌がることをするのは論外だし、それでは“前”の殿下と変わらない。
──俺はそんな複雑な感情を抱きながらも何でもないようにリアからの求婚をあしらってきたが、ついに殿下と出会った事で何かがプツンと切れたような気がした。
「…それがどういう事か分かってて言ってんのか?」
俺は気づけばリアを組み敷いていた。驚いたように瞬きするリアの乱れた前髪を整え、頬に触れる。
「…、うん。」
リアはしっかりと俺の目を見ながら頷いた。
「…なら、後から文句言うなよ。」
「…うん。」
耳元で囁くと、リアは頬を赤らめながら頷いた。もう後戻りはできないし、するつもりもない。俺はリアの唇に唇を重ねた。暖かくて柔らかくて、リアが生きている事が感じられて少し安心する。
何度か唇を重ねリアを見ると、彼女は耳まで真っ赤になって俺のローブを握りしめていた。頬を撫でると少し嬉しそうに表情を緩める。…こんなに可愛い反応をされたら、流石に冗談やおふざけだと切り捨てるのは馬鹿だと気付く。
「…リア。」
「…ん。」
「…可愛い奴だな、お前。…ま、昔から知ってたけどな。ずっと見てきたんだし。」
「っ…!!」
そう、昔から。“前”はこれは恋愛じゃなくて親愛だと自分に何度もそう言い聞かせて、ただリアの幸せを願って見守ってきた。だがその結果は最悪で、ただただもういないリアへの思いを自覚させられただけだった。本当は初等学校に入るよりも前から、気づけば彼女を目で追うようになっていたのに。
やっと素直な想いを囁くと、リアは驚いたように顔を上げた。そして瞳を潤ませながらぎゅっと首筋に腕を絡めてきた。
「俺には後にも先にもリアだけだ。」
「うん…、うん。私もずっとずっと、好きだったよ。」
リアはポロポロと涙をこぼしながら頷いた。魔力の扱いを覚え始めて属性が分かってからあっという間に天才だなんだと持て囃されてきたし沢山の努力をしてきたのも知っているが、泣き虫な所は変わらないらしい。そんなところがどうしようもないくらい愛おしくて、つい笑いが溢れた。リアを抱き起こして膝に乗せ、目線を合わせる。藤の花のように優しい色の瞳から涙が滴り落ちるのはとても綺麗だった。
「…死ぬまで隣にいてくれるか?」
「うん、隣にいさせて。」
リアは涙を溢しながらも綺麗に笑った。彼女の返事に安堵して、華奢な身体を抱き寄せた。
「…もう離してやらねぇぞ。」
「うん。これからも一緒に、色んな冒険をしよう。」
「あぁ。お前らとなら一生飽きねぇだろうな。」
リア達となら、どんな逆境や試練も最後は笑い話に変えられるだろう。
どうやら殿下が近くに潜んでいるようなので、俺たちはギルド内に戻る事にした。殿下達は朝早くに王城に戻り、俺達は午後から王城へ出向く事になっている。殿下がリアを気に入ったのは間違いない、下手をするとまた求婚する可能性もある。もしそうなら今の俺とリアの会話を聞いて殿下は焦るはず。きっと王城についてすぐに陛下達にリアとの婚姻の話を持ち上げるだろう。…一応、こっちも対策しておくか。
ギルドに入るとまだ会っていなかったギルドのメンバーが話しかけてきた。久々の仲間達と話していると、どうやらマスターがもう帰って来たようだったのでマスターに挨拶をしに向かう。ヘレナとアレクは既に部屋の前で待っていた。
「ごめん、待たせた?」
「いや、私達もついさっき来た所だよ。」
「なら良かった。」
「よし、行くぞ。」
リアに手を差し出すと彼女は一瞬不思議そうにそれを見つめていたが、すぐに照れたように笑って手を握った。リーダーであるリアが扉を開く。
「「「「ただいま戻りました。」」」」
「お帰り、リア、マリウス、アレク、ヘレナ。みんな良く頑張ったな!」
マスターは笑顔で俺たちを出迎え、抱きしめた。
「魔王はどうだった?いや戦いは見ていたし怪我はないと報告で聞いていたが、大丈夫だったか?」
「思ったよりは苦戦しなかったぜー?」
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「この通り、みんな元気ですよ!」
「魔王と戦うより、帰りの道中のが色々と疲れたな。」
口々に返事をするとマスターは苦笑した。
「そうか、まぁお前たちが元気なら何よりだ。細かい報告は連絡してくれてたからもう大丈夫だ、暫くはゆっくり休むと良い。」
「「はーい」」
アレクとヘレナは頷くとさっさと帰ろうと踵を返す。一方俺はマスター、と一歩前に踏み出す。
「どうした?」
「リアを俺にください。」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!??」」」
「今⁉︎今言うの!!??」
隣と背後から叫び声が上がったが、マスターは驚いたように数回瞬きした後うーん、と唸った。
「俺の予想よりは随分早かったが…、まぁ良いか。マリウスなら安心だ!」
「「「いや良いの!!!???」」」
「ま、いつかそうなるだろうと思ってたからな。…ただし、結婚は卒業してからだぞ。」
「もちろん、そのつもりだ。」
俺が頷くとマスターはにっと笑った。
「よし、なら俺から言うことは何もない。リアをよろしくな。」
「…はい。」
マスターは俺の肩をポンと叩いた。そして唖然としているリアと向き合うと彼女の頭に手を置いた。
「良いかリア、お前は強いし天才だ。けど不死身ではないんだ。それは分かるな?」
「…、うん。」
「無茶しすぎてマリウスに迷惑はかけるなよ。お前がいないとみんな悲しいからな。」
「…。」
その言葉は俺達に深く刺さった。リアは力強く分かった、と頷いた。
「なんかすごい急展開だったけど…、ともかく2人ともおめでとう!」
「おめでとう、良かったな2人とも!」
ヘレナとアレクは笑顔で言った。俺達も笑って礼を言う。
「よし、じゃあ行くか!」
マスターは笑顔で扉に向かう。
「行くってどこに?」
「そんなの決まってるだろ?」
マスターは部屋を出て2階の吹き抜けの所に立った。リアは嫌な予感がしたのか一瞬でギルド本部の建物全体に防音魔法をかけた。
「みんな喜べ!エミリアとマリウスの婚約が決まったぞ!!」
マスターがそう叫ぶと一瞬の間の後至る所から歓声が上がった。リアは恥ずかしそうに眉を顰める。
「今日は宴だ、みんな好きなだけ飲め!」
マスターのその一言によりギルドは再びお祭り騒ぎとなった。皆ももちろんだが食堂担当のモニカさん達も忙しそうにしつつも楽しそうだった。俺とリアも一階に降りると多くの祝福の言葉をかけられる。
「おめでとうリア、良かったねぇ。」
「おめでとう、2人とも。先を越されたな…。」
「お姉ちゃん、ルス兄。ありがとう。」
「うちのリアを泣かせたら許さないからね!」
「分かってる、んな事しねぇよ。」
「兄さんリアちゃん、おめでとう!」
「ありがとう、ニゲル。」
「いつかそうなるとは思ってたけど、ものすごい急でお母さん心臓止まるかと思ったわぁ。」
「ニゲル、お前は前もって言っておいてくれよ。」
両親に言われ、ニゲルは苦笑していた。
「まぁ何はともあれ、2人ともおめでとう。」
「リアちゃん、うちの息子をよろしくな。」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「2人ともおめでとう!ついこの前まではあんなに小さかったのに、大きくなったなぁ。」
「そりゃあたし達も年取るわよねぇ。」
「そうだマリウス、婚約の証はもう用意してんのか?」
婚約の証とは、婚約した時に男性から女性へ贈られるアクセサリーのことだ。種類は何でも良いのだが、男性の目の色と同じ色の魔力石や宝石に男性が自分の魔力を込めたものを使ったアクセサリーを贈る。魔法の専門的な勉強をしていない一般人だとそのアクセサリーにはたとえば健康祈願などのおまじない程度の効果が出るが、魔導師や貴族など魔法の勉強をした人だと技量によっては立派な魔道具と同等の効果のアクセサリーができる。元々は貴族達の習慣で男性側の誠意やらを示すものだったらしく、今も証を受け取った女性に交際や結婚を迫ったり手を出すことは法により禁じられている。
「いや、流石にまだだ。」
「ならあれが良いんじゃねぇか?」
「あぁ、この前の報酬でもらったやつ!」
俺達が不思議そうにしていると、コンスタンスは収納魔法で亜空間から箱を取り出した。コンスタンス達は俺達が生まれる前からSランクのパーティーで、昔から可愛がってもらっていた。
「俺達じゃ使い道がなくて困ってたんだ。」
「ちょうどいいから2人にあげるわ。私達からのお祝いってことで!」
受け取った小箱を開けてみると、中にはアクアマリンが入っていた。
「これ…!」
「色もマリウスの目の色にぴったりだろ?」
「しかもそれ、普通のアクアマリンよりも耐久性が高いそうよ。」
「めっちゃ高級品じゃん…!!」
「ほんとに良いのか?」
俺とリアはあまりに価値の高いプレゼントに腰が引けてしまう。しかしコンスタンス達は、
「気にすんな!2人は俺達にとっても娘と息子みたいなもんだからな!」
「そうよー、遠慮しなくて良いのよ。私達ほんとに嬉しいんだから。」
「気に入ってくれたなら是非受け取ってくれ。」
と笑顔で言った。そこまで言われては受け取らない理由はないし、きっとこれ以上の物も手に入らないだろう。
「…リア、お前はどう思う?」
俺が尋ねると、リアは
「すっごくきれいな色ね。」
とニッコリと笑った。
「なら、ありがたく受け取らせてもらう。」
「ありがとう、みんな。」
礼を言うと彼らはどういたしまして、と笑顔を向けた。
「へえ、良い宝石じゃないか。加工はアナスタシアに任せたらどうだ?」
「そうね、あの子そういうの得意だもんね。」
「良いわよ、任せて!王国一のアクセサリーにしてあげる!」
「ありがとうアナスタシア。」
周りの協力のおかげで婚約の証はあっという間に出来上がった。ティアドロップのピアスで、魔法は…まぁ、色々込めておいた。鑑定できる奴らに引かれる程度には。
完成したピアスはリアによく似合っていた。
「せっかくだしサイドの髪も結んでピアスが見えるようにしちゃえば?」
「でもエミリアの今の髪型も可愛くて良いわよね~。」
「そうだよね、結うのも大人っぽくてそれはそれで良いけど…。」
女達はリアを取り囲んで楽しそうにしていた。
「でもやっぱ婚約の証だしさ?婚約してるんだぞ!ってアピールした方が良くない?」
「まぁねー。でも、こうやって…」
1人が魔法でふわりと風を起こすと、リアの髪が揺れて耳元が露になった。
「風が吹けば見えるじゃない?」
「確かに!」
「ミリーならそのくらいの奥ゆかしさでちょうど良いわね。」
「何言ってんのよ、あんたとエミリアを比べたらそりゃそうよ。」
「うるさいわね!」
「あはは!」
どうやら話がまとまったようだ。その後も仲間達と騒ぎ合い、良い時間になったところで俺達ノウムアルゴーは先に帰らせてもらった。
明日が勝負だ。
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