20 / 35
星の輝く夜に
しおりを挟む
ギルドの建物は昔貴族の別荘だった所を買い取ったようで、側から見ると普通の貴族の屋敷といったような感じだった。エミリアは裏庭の奥の方にある池の方へと向かう。そのすぐそばには子どもの背丈より少し高い程度の低木で作られた迷路があり、昔はよくエミリア達が迷路で遊んだりかくれんぼの隠れ場所に使っていた。エミリア達は今でも1人になりたい時は迷路に入って適当な場所でしゃがみ込んだりすると、元々庭の奥の方で来る人も多くないからか案外人に見つからなかった。今回もエミリアがその迷路に入ると、そこには芝生で寝転ぶマリウスの姿があった。
「あれ、マリウス。」
「エミリア。…散歩か?」
「まぁそんなところ。…やっと帰ってきたね。」
「あぁ。いつも通りダンジョンに行っただけのはずだったのに、随分と長かったな。」
エミリアはそうね、と笑いながらマリウスの隣に腰掛けた。
「…ねぇ、マリウス。」
「なんだ。」
マリウスは視線だけエミリアの方に向けた。
「…いつになったらマリウスのお嫁さんにしてくれるの?」
「お前またそれか!!!」
ガバッと起き上がりながらマリウスが言うとエミリアはケラケラ笑っていた。マリウスはエミリアを睨みつける。
「そういう冗談やめろっていつも言ってんだろうが。」
「冗談じゃないってば。」
「あのなぁ…。」
マリウスははぁ、とため息を吐いた。そしてエミリアの肩に手を伸ばすと、流れるように彼女を地面に組み敷いた。辺りはふわふわと蛍が光を灯している。
「…それがどういう事か分かってて言ってんのか?」
マリウスはエミリアの前髪をさらりと払い、頬を片手で包んだ。
「…、うん。」
「…なら、後から文句言うなよ。」
「…うん。」
耳元で囁かれる言葉に鼓動が早くなるのを感じつつもエミリアは頷いた。するとマリウスの唇がエミリアの唇に優しく触れた。何度も、確かめるように。
「…リア。」
「…ん。」
初めてのキスへの喜びと恥ずかしさでエミリアはいっぱいいっぱいだった。しかも普段からは想像もつかないほどのマリウスの優しい声にエミリアはもう溶けてしまいそうで、目を合わせる事なんてできなかった。
「…可愛い奴だな、お前。…ま、昔から知ってたけどな。ずっと見てきたんだし。」
「っ…!!」
エミリアは驚いて顔を上げると、真上にあるマリウスはとても優しく微笑んでいた。エミリアはふいに目頭が熱くなり、ぎゅっとマリウスの首筋に腕を伸ばす。
「俺には後にも先にもリアだけだ。」
「うん…、うん。私もずっとずっと、好きだったよ。」
エミリアはポロポロと涙をこぼしながら頷いた。マリウスはクスッと笑うとエミリアを抱き起こして膝に乗せた。
「…死ぬまで隣にいてくれるか?」
「うん、隣にいさせて。」
エミリアがそう言うとマリウスは彼女を抱きしめた。
「…もう離してやらねぇぞ。」
「うん。これからも一緒に、色んな冒険をしよう。」
「あぁ。お前らとなら一生飽きねぇだろうな。」
マリウスがフッと笑うとエミリアもつられて笑った。夏の夜の生温い風が2人の頬を撫でた。
「…そろそろ戻るか。」
「そうね、明日は王城に行かないといけないみたいだし。」
「野暮な人間もいるようだしな。」
エミリアが頷いて立ち上がるとマリウスも立ち上がりながらボソッと呟いた。
「まぁ、敵意の類いは感じなかったし…。」
「あぁ、気にする事はねぇだろ。」
そう言って2人は迷路を抜け、ギルドの玄関に向かう。
「お、エミリアにマリウスじゃねぇか!久しぶりだな!」
「なんか大変だったらしいわねー、大丈夫だった?」
「勇者パーティーよりも先に魔王を倒したんだって?すげぇなお前ら!中々できる事じゃねぇよ!」
2人がギルド内に入ると、さっきギルドに着いた時にはいなかったメンバー達が明るく話しかけてきた。2人はみんなと話しながらアレクとヘレナを探す。
「ねぇ、お父さんってもう帰って来てる?」
「マスターならちょうど今帰って来たわよ。」
「アレクとヘレナも部屋の方に行ったぞ。」
「話終わったら来てねってヘレナちゃんが。」
「ありがとう、じゃあ挨拶してくるね!」
エミリアはそう言ってマリウスと共にマスターのもとへ向かうと、部屋の前にはヘレナとアレクの姿があった。マリウスはエミリアに手を差し出し、エミリアは一瞬不思議そうにそれを見つめていたがすぐに照れたように笑いながらその手を握った。2人は手を繋いで扉を開く。
「「「「ただいま戻りました。」」」」
「あれ、マリウス。」
「エミリア。…散歩か?」
「まぁそんなところ。…やっと帰ってきたね。」
「あぁ。いつも通りダンジョンに行っただけのはずだったのに、随分と長かったな。」
エミリアはそうね、と笑いながらマリウスの隣に腰掛けた。
「…ねぇ、マリウス。」
「なんだ。」
マリウスは視線だけエミリアの方に向けた。
「…いつになったらマリウスのお嫁さんにしてくれるの?」
「お前またそれか!!!」
ガバッと起き上がりながらマリウスが言うとエミリアはケラケラ笑っていた。マリウスはエミリアを睨みつける。
「そういう冗談やめろっていつも言ってんだろうが。」
「冗談じゃないってば。」
「あのなぁ…。」
マリウスははぁ、とため息を吐いた。そしてエミリアの肩に手を伸ばすと、流れるように彼女を地面に組み敷いた。辺りはふわふわと蛍が光を灯している。
「…それがどういう事か分かってて言ってんのか?」
マリウスはエミリアの前髪をさらりと払い、頬を片手で包んだ。
「…、うん。」
「…なら、後から文句言うなよ。」
「…うん。」
耳元で囁かれる言葉に鼓動が早くなるのを感じつつもエミリアは頷いた。するとマリウスの唇がエミリアの唇に優しく触れた。何度も、確かめるように。
「…リア。」
「…ん。」
初めてのキスへの喜びと恥ずかしさでエミリアはいっぱいいっぱいだった。しかも普段からは想像もつかないほどのマリウスの優しい声にエミリアはもう溶けてしまいそうで、目を合わせる事なんてできなかった。
「…可愛い奴だな、お前。…ま、昔から知ってたけどな。ずっと見てきたんだし。」
「っ…!!」
エミリアは驚いて顔を上げると、真上にあるマリウスはとても優しく微笑んでいた。エミリアはふいに目頭が熱くなり、ぎゅっとマリウスの首筋に腕を伸ばす。
「俺には後にも先にもリアだけだ。」
「うん…、うん。私もずっとずっと、好きだったよ。」
エミリアはポロポロと涙をこぼしながら頷いた。マリウスはクスッと笑うとエミリアを抱き起こして膝に乗せた。
「…死ぬまで隣にいてくれるか?」
「うん、隣にいさせて。」
エミリアがそう言うとマリウスは彼女を抱きしめた。
「…もう離してやらねぇぞ。」
「うん。これからも一緒に、色んな冒険をしよう。」
「あぁ。お前らとなら一生飽きねぇだろうな。」
マリウスがフッと笑うとエミリアもつられて笑った。夏の夜の生温い風が2人の頬を撫でた。
「…そろそろ戻るか。」
「そうね、明日は王城に行かないといけないみたいだし。」
「野暮な人間もいるようだしな。」
エミリアが頷いて立ち上がるとマリウスも立ち上がりながらボソッと呟いた。
「まぁ、敵意の類いは感じなかったし…。」
「あぁ、気にする事はねぇだろ。」
そう言って2人は迷路を抜け、ギルドの玄関に向かう。
「お、エミリアにマリウスじゃねぇか!久しぶりだな!」
「なんか大変だったらしいわねー、大丈夫だった?」
「勇者パーティーよりも先に魔王を倒したんだって?すげぇなお前ら!中々できる事じゃねぇよ!」
2人がギルド内に入ると、さっきギルドに着いた時にはいなかったメンバー達が明るく話しかけてきた。2人はみんなと話しながらアレクとヘレナを探す。
「ねぇ、お父さんってもう帰って来てる?」
「マスターならちょうど今帰って来たわよ。」
「アレクとヘレナも部屋の方に行ったぞ。」
「話終わったら来てねってヘレナちゃんが。」
「ありがとう、じゃあ挨拶してくるね!」
エミリアはそう言ってマリウスと共にマスターのもとへ向かうと、部屋の前にはヘレナとアレクの姿があった。マリウスはエミリアに手を差し出し、エミリアは一瞬不思議そうにそれを見つめていたがすぐに照れたように笑いながらその手を握った。2人は手を繋いで扉を開く。
「「「「ただいま戻りました。」」」」
1
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~
沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。
ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。
魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。
そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。
果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。
転生要素は薄いかもしれません。
最後まで執筆済み。完結は保障します。
前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。
長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。
カクヨム様にも投稿しています。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる