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あるカタストロフィ 〜ニゲル・後編〜
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俺達は阿鼻叫喚のギルドをそっと出て大通りを歩く。
「…リウィア嬢。」
「何かしら。」
「…もし、時を戻せる魔法があったら。君はどうする?」
そう尋ねると、彼女は立ち止まってじっと俺を見つめた。目元は真っ赤で、一応腫れを治す薬をポケットから取り出す。
「…もし、そんな魔法があるとしたら。…例えどんなに代償が大きかったとしても、わたくしは時を戻しますわ。そして今度は、エミリアと殿下の婚約を…、いえ、そもそも勇者パーティーに入る所から邪魔しますわ。」
「…うん、そうだよね。」
俺は少し笑って頷いた。
「俺もそう思うよ。」
リウィア嬢に薬を渡して広場まで送り、迎えの馬車に乗る所まで見届けて俺は帰路についた。
──ゲームには、時を戻す激レアアイテムが存在した。それはとあるダンジョンの隠し部屋にあり、しかも大量のお金を…、つまりこの現実では大きな対価を払う事になる。正直俺1人で払いきれるのかも分からないし、成功するかも分からないけど…。このまま何もしないよりはずっと良い。
そして月日は流れ、リアちゃんの葬儀を終えてから3か月が経った。あの事件は国内外で大々的に報道され、貴族への批判が物凄く高まった。陛下は今回リアちゃんの罪をでっち上げた者達や彼女を消す事に加担した者たちを爵位剥奪や処刑、代替わりさせて僻地に飛ばすなどそれぞれ処罰していった。ルボル侯爵令嬢も例の薬を飲ませると正気に戻ったようで、あまりのショックに倒れてしまったようだ。ルボル侯爵は娘思いの方で令嬢と騎士との関係も認めていたからあの一件に関わっていればすぐにおかしいと気付くはずだったが、あの時王太子殿下に同行しており家にいなかったそうだ。きっとあいつらがルボル侯爵も邪魔だからと飛ばしたのだろう。…それから、ヌーブラエ卿達に呪術をかけた犯人も捕まった。呪術を使うと死刑になるので犯人も例に漏れず処刑された。
そして俺達は、心にポッカリと穴が空いたような喪失感を感じながらもなんとか生きている。リアちゃんのご両親や姉弟たち、それから兄さんの悲しみようは俺達とはきっと比べ物にもならないだろう。しかし彼らはギルドマスターのその一族、いつまでも呆然としているわけにはいかない。なんとか明るく振る舞って、生きようとしているのがヒシヒシと伝わってきた。兄さんは元々無愛想だが、最近はほとんど笑わなくなってしまった。ずっと昔に兄さんがプレゼントしてからリアちゃんが大事にしていた犬のぬいぐるみを形見としてもらい、兄さんは毎晩飲みながらこっそり話しかけているのを知っている。
「…あった。」
そして俺は今、例のアイテムを入手するため国の南の方にあるダンジョンに1人で来ていた。抜け道やら小道具を使ってなるべく戦闘を避けて進んで行き、隠し部屋をやっと見つけアイテムを手にする。
「…リアちゃん、どうか俺に力を貸して。失敗するわけにはいかないんだ…。」
ギュッとアイテムを握りしめそう祈ると、ぼうっと俺の周囲に光が微かに浮かび上がった。…もしかして、これがリアちゃんからの加護…なのかな。なんだか彼女が応援してくれているような気がした。
「…うん、ありがとう、リアちゃん。俺も頑張るよ。」
俺はアイテムに魔力を込めて魔法陣を展開させた。
「頼む、時を戻せるならやり直させてくれ。リアちゃんを死なせたくなんかなかったし、俺達もこんな思いはしたくなかった。リアちゃんが兄さんと笑って過ごせる未来を、叶えさせてくれ…!」
そう言うとアイテムはどんどん魔力を吸ってくる。まだまだリソースが足りない。さっきの微かな光もアイテムに吸収されていく。
「代償に俺の、この1周目の記憶を捧げる!」
そう告げるがどうやらまだ足りないらしい。…なら、それなら…。
「ゲームの…。この世界に関する知識も捧げる!それでどうだ!」
そう告げると、魔法陣は展開速度を上げ一気に完成した。どうやら受け入れてもらえたらしい。
『回帰地点を指定してください。』
頭の中にそんな声が響いてくる。
「…じゃあ、クララ姉さんが冒険者になった日で。」
『承知しました。では、時を戻します。』
そう聞こえた次の瞬間、世界がぐるりと回り意識が遠のいていった。
──俺はきっと、時が戻っても何も覚えてないだろうけど。兄さんやリアちゃんはきっと魂に刻まれた記憶が深すぎるだろうから思い出してくれるだろう。
…だから、どうか。
次こそは、幸せに───。
「…リウィア嬢。」
「何かしら。」
「…もし、時を戻せる魔法があったら。君はどうする?」
そう尋ねると、彼女は立ち止まってじっと俺を見つめた。目元は真っ赤で、一応腫れを治す薬をポケットから取り出す。
「…もし、そんな魔法があるとしたら。…例えどんなに代償が大きかったとしても、わたくしは時を戻しますわ。そして今度は、エミリアと殿下の婚約を…、いえ、そもそも勇者パーティーに入る所から邪魔しますわ。」
「…うん、そうだよね。」
俺は少し笑って頷いた。
「俺もそう思うよ。」
リウィア嬢に薬を渡して広場まで送り、迎えの馬車に乗る所まで見届けて俺は帰路についた。
──ゲームには、時を戻す激レアアイテムが存在した。それはとあるダンジョンの隠し部屋にあり、しかも大量のお金を…、つまりこの現実では大きな対価を払う事になる。正直俺1人で払いきれるのかも分からないし、成功するかも分からないけど…。このまま何もしないよりはずっと良い。
そして月日は流れ、リアちゃんの葬儀を終えてから3か月が経った。あの事件は国内外で大々的に報道され、貴族への批判が物凄く高まった。陛下は今回リアちゃんの罪をでっち上げた者達や彼女を消す事に加担した者たちを爵位剥奪や処刑、代替わりさせて僻地に飛ばすなどそれぞれ処罰していった。ルボル侯爵令嬢も例の薬を飲ませると正気に戻ったようで、あまりのショックに倒れてしまったようだ。ルボル侯爵は娘思いの方で令嬢と騎士との関係も認めていたからあの一件に関わっていればすぐにおかしいと気付くはずだったが、あの時王太子殿下に同行しており家にいなかったそうだ。きっとあいつらがルボル侯爵も邪魔だからと飛ばしたのだろう。…それから、ヌーブラエ卿達に呪術をかけた犯人も捕まった。呪術を使うと死刑になるので犯人も例に漏れず処刑された。
そして俺達は、心にポッカリと穴が空いたような喪失感を感じながらもなんとか生きている。リアちゃんのご両親や姉弟たち、それから兄さんの悲しみようは俺達とはきっと比べ物にもならないだろう。しかし彼らはギルドマスターのその一族、いつまでも呆然としているわけにはいかない。なんとか明るく振る舞って、生きようとしているのがヒシヒシと伝わってきた。兄さんは元々無愛想だが、最近はほとんど笑わなくなってしまった。ずっと昔に兄さんがプレゼントしてからリアちゃんが大事にしていた犬のぬいぐるみを形見としてもらい、兄さんは毎晩飲みながらこっそり話しかけているのを知っている。
「…あった。」
そして俺は今、例のアイテムを入手するため国の南の方にあるダンジョンに1人で来ていた。抜け道やら小道具を使ってなるべく戦闘を避けて進んで行き、隠し部屋をやっと見つけアイテムを手にする。
「…リアちゃん、どうか俺に力を貸して。失敗するわけにはいかないんだ…。」
ギュッとアイテムを握りしめそう祈ると、ぼうっと俺の周囲に光が微かに浮かび上がった。…もしかして、これがリアちゃんからの加護…なのかな。なんだか彼女が応援してくれているような気がした。
「…うん、ありがとう、リアちゃん。俺も頑張るよ。」
俺はアイテムに魔力を込めて魔法陣を展開させた。
「頼む、時を戻せるならやり直させてくれ。リアちゃんを死なせたくなんかなかったし、俺達もこんな思いはしたくなかった。リアちゃんが兄さんと笑って過ごせる未来を、叶えさせてくれ…!」
そう言うとアイテムはどんどん魔力を吸ってくる。まだまだリソースが足りない。さっきの微かな光もアイテムに吸収されていく。
「代償に俺の、この1周目の記憶を捧げる!」
そう告げるがどうやらまだ足りないらしい。…なら、それなら…。
「ゲームの…。この世界に関する知識も捧げる!それでどうだ!」
そう告げると、魔法陣は展開速度を上げ一気に完成した。どうやら受け入れてもらえたらしい。
『回帰地点を指定してください。』
頭の中にそんな声が響いてくる。
「…じゃあ、クララ姉さんが冒険者になった日で。」
『承知しました。では、時を戻します。』
そう聞こえた次の瞬間、世界がぐるりと回り意識が遠のいていった。
──俺はきっと、時が戻っても何も覚えてないだろうけど。兄さんやリアちゃんはきっと魂に刻まれた記憶が深すぎるだろうから思い出してくれるだろう。
…だから、どうか。
次こそは、幸せに───。
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