冒険がしたいので殿下とは結婚しません!

ルジェ*

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初めてのダンジョン

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 学院に入学して初めての夏休みがやって来た。学生達は勉強にギルドの依頼、社交、家の手伝い、帰郷、ひたすら遊ぶなど思い思いに過ごすのだが地下迷宮、ダンジョンの攻略に挑戦する者も多い。
 冒険者達に開かれているダンジョンは基本的に地下に潜るほど出てくる魔物も強くなり、最下層にはダンジョンの主、ダンジョンボスがいる。ボスを倒すとレアな素材を入手したり、時には神の遺物と呼ばれる激レア魔道具を手に入れる事もできるのだ。その他にもダンジョンには隠し部屋や隠し通路が無数にあるので探索はしてもしきれないし、有名だからと言ってもうお宝が取り尽くされたなんて事はないのだ。あまりにもレアな素材じゃなければ一定時間後にまた宝箱が出てくるし。


「着いた~!!」
「懐かしいな。」

ここは王都から少し西に離れたアクイラ公爵領にあるダンジョン、アルブスポルタだ。初心者向けのダンジョンという事で、初めてのダンジョンはここだという人がほとんどだ。ここに来るのは前の初ダンジョンの時以来で、私も懐かしさを覚える。

「わくわくするね、エミリア!」
「そうだね。じゃあ早速、レッツゴー!」


 の時にアルブスポルタへ行った時は王立学院の友人達と一緒で、その中にはニゲルもいた。ニゲルはダンジョンに詳しく、また勘もよく当たるので隠し部屋を高確率で見つけていた。そのおかげで初心者向けであまり強い敵が出ず回収できる素材もそれなりのはずが、レア素材もそこそこ手に入ったのを覚えている。

「…次はこっち。」
「…ここは左、かな。」
「んー、真っ直ぐかな。」

もうほとんどないに等しい記憶を無理矢理呼び覚ましてダンジョンを進んで行く。するとレア素材の隠された隠し部屋のいくつかは辿り着く事ができた。

「わぁ、また良い素材が!」
「すげぇな、エミリア。」
「あはは、たまたまだよ。」

私達は素材を回収し終えると、今日はここで休む事にした。ダンジョンは広大で、どんなに優秀な冒険者であったり初心者向けのダンジョンでも、ダンジョンボスを倒すなら最短でも数日はかかるのだ。だから夜は魔物の出ない安全な場所で休む。

「よし、じゃあエミリア、あれ使ってみようぜ。」
「うん。じゃあみんなちょっと離れててね。」

アレクに頷いて私は収納魔法で亜空間にしまってある“あれ”をこちらに呼び出すと、ズシン、と辺りが少し揺れた。

「…やっぱデカいな。」
「あぁ、もう少しサイズと重さを減らした方がいいな。」

私が亜空間から呼び出したのは大きなテントだ。これはうちのギルドメンバーで魔道具の発明をしているシルウェステルの試作品で、ちょうどダンジョンに向かう私達に実際に使ってみて感想などを聞かせてほしいと渡された物だ。テントというより小屋のような見た目だが、中に入ってみると空間魔法によって見た目よりも広い空間が広がっている。キッチンにダイニングがあり、奥にはベッドも4つ並んでいて、更にはシャワールームまで付いている。まるで高級宿の一室のようだ。

「やっぱすごいよねー、ダンジョンに来たら野宿で決まりだったのに。」
「今回みたいに短期滞在するってなったら野宿でも問題ないだろうけど、長期間ってなったらこれは死ぬほどありがたいよね。」

本当、“前”の魔王討伐の旅をしていた時もこれのおかげでどれだけ助かった事か。温かいベッドでゆっくり寝られるというのは本当に大切な事だ。

「よし、飯作るからお前らはシャワー浴びて来いよ。」
「え、手伝うよ?」
「良いから順番に入って来い。俺達もその後入る。」

マリウスにもそう言われ、私とヘレナは顔を見合わせる。…まぁ確かに、一応私達は初めてのダンジョンなわけだし。アレクとマリウスも先輩として気を遣ってくれてる…のかな。

「そうそう。お先にどうぞ、レディ?」
「あはは、じゃあお言葉に甘えて。ヘレナ、先入って来て良いよ。私シルへの報告用に軽くレポート書くから。」
「オッケー!じゃあお先に!」

ヘレナはそう言ってシャワールームへ入った。マリウスとアレクは予め収納していた食材を亜空間から取り出して夕飯の支度を始める。

「…2人共手際良いんだね。」
「ま、慣れてるからなー。」
「ダンジョン攻略とかで何度か野宿したからな。」

2人は野菜を切りながら言った。

「そっか。…ねぇ、キッチンについては何か要望ありそう?」
「いや?特にはねぇかな。マリウスは?」
「流しにコンロにオーブンが揃ってりゃ文句ねぇよ。ダンジョン攻略中にそんな凝ったもん作るとは考えにくいしな。」
「そうだね。じゃあとりあえずはこんなものか。…2人共、何作ってるの?」

簡単なレポート…というかメモを書き終え私はキッチンに立つ2人に近づく。アレクは鍋に野菜を突っ込み、マリウスはフライパンでじゃがいもと鶏肉を炒めていた。

「コンソメスープ。そっちは鶏とじゃがいもと玉ねぎ炒めたやつ。簡単だろ?」
「野営じゃこの程度の料理しかできねえしな。」
「さっきは慣れっつったけど、俺らができるのはこういう料理だけだからさ。栄養バランスとかは何にも考えてねえぞ。」
「ふふ、ダンジョンまで来て栄養バランスだなんてそんな事考えてられないよ。美味しくてお腹いっぱいになればなんでも良いよ。」
「おぉ、分かってるじゃねえか。」

アレクは笑った。コンソメスープの良い匂いが漂う。

「私焼きとうもろこし好きだなあ。あと焼きマシュマロも。」
「知ってる。…エミリア。」
「ん?」

振り向くと、マリウスは私の口に何かを突っ込んだ。口の中で甘いものが溶けていく。

「!マシュマロ!」
「甘いなぁ、マリウス。」
「クララに持たされたんだよ。…ほら、焼くなり溶かすなり好きにしろ。」

マリウスはそう言って私にマシュマロの入った袋を渡した。

「じゃあデザートはエミリアに任せたぜ!」
「任された!」

私はアレクに頷きつつどうしようかと悩む。スモアも良いしココアに浮かべても良いし…。チョコフォンデュもいいよなー。…うん、持って来た食材にフルーツもあったはずだからチョコフォンデュにしよう。

「お待たせー!エミリアどうぞ!」
「じゃあ入ってくるね。」
「おー。」

私はヘレナと入れ替わってシャワールームに入った。
 お風呂も普通の家と同じ感じで文句はなく、洗浄魔法で綺麗にできるとはいえやはり温かいシャワーを浴びれるのはありがたい。特に寒い時は大事だ。私はシャワーを浴びて魔法で乾かすとシャワールームを出る。

「お、エミリア。ちょうどいいところに。」
「夕飯できたぞ。」
「パンもオーブンであっためたからパリパリだよ!」

美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。私達はテーブルについた。

「「「「いただきます!」」」」
「!美味しい!」


 そうして私達は談笑しながら夕食を取り、ベッドで眠り翌朝を迎えた。ダンジョンの中なので朝という実感はあまりないが目覚まし時計に起こされ朝食を取り、再び記憶を捻り出しながらダンジョンの最深部へと進んで行く。そして2日目は最深部の手間で一夜を過ごして3日目。いよいよダンジョンボスとの戦いである。

「エミリア、ヘレナ。今回はお前ら2人で倒して来い。」
「「えっ。」」

マリウスの言葉に私達は驚く。

「ダンジョンボスとはいえ、ここのはそんなに強くねぇし。お前らなら大丈夫だ。」
「それに、大丈夫じゃなさそうだったら俺らがすぐ手助けするからさ。まずは2人だけでやってみろよ。」
「3年の俺達があまり出しゃばるもんでもねぇだろ?」

なるほど…、確かにそうだ。2人で倒せればその分経験値は私とヘレナにだけ分配されるから効率が良いし。

「…分かった、やってみるよ。」
「えぇ、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫だって、最悪私がドカンと一発ぶちかますから!」
「それはそれで怖いんだけど…。…まぁ良いか、とりあえず頑張ろ!じゃあいつもの掛け声よろしく!」
「うん。…さぁ、今日も派手に暴れてやろうぜ!」
「おー!」

 というわけで私達はマリウスとアレクに見守られながらダンジョンボスと戦った。前の記憶のおかげもあってあまり苦労はしない。

「エミリア、とどめいくよ!」
「うん!」

ヘレナはブン、とお手製の魔力弾を投げた。ダンジョンボスの顔が焼ける。…今だ。

裁きの刃ラーミナアストレア

無数の光の刃がダンジョンボスを切り裂いた。ダンジョンボスは倒れたようで、素材を残して消えていった。便利だよなー、ダンジョンボス。解体する必要もなくわざわざ置いて行ってくれるんだもん。

「やったぁ!!やったよエミリア!!」
「うん!お疲れ、ヘレナ!」
「予想以上に早かったな、2人とも。」
「よくやったな!」

ヘレナと手を握り合って勝利を喜んでいると、アレクはわしゃわしゃと私達の頭を撫でた。

「へへ、ありがと!」
「よし、じゃあ素材回収して帰ろう!」

ここアルブスポルタのダンジョンボスはそんなに強くないので回収できる素材もそれなりだ。私やアレクは売る以外に使い道はないが、薬や魔道具をよく作るマリウスとヘレナは実用性があるだろう。

「ねえ、これほんとに全部もらっちゃって良いの?」

帰り道、ヘレナは言った。私はもちろん、と頷く。

「言ったでしょ、私もアレクも使わないって。だったら使う人がもらうべきでしょ?」
「そうそう、俺らは経験値を稼げたから十分だ。」

私とアレクがそう言ってもヘレナはまだ申し訳なさそうにしている。

「…じゃあ、次は私の武器探しに付き合ってくれない?」

私達魔導師は魔力と魔法陣を展開して魔法を使うわけだが、それぞれ武器を持っている事も多い。例えばアレクは剣、ヘレナは銃。シロウ先輩も東国の刀という剣を持っているし、マリウスはいつも氷魔法で剣を作って戦う。そして私が前の時に愛用していたのは神の遺物の一つ、「天空の杖」。私の身長くらいの長さの杖なのだが、これは自然に溢れている魔力…、マナを集める手助けをしてくれる。私の使う光魔法はマナを使わないと使えないもので、魔法のランクが上がるほど多くのマナを使う。そして最上級魔法を使うにはあれがないと無理なのだ。光属性の持ち主が代々使って来たもので、要は聖剣のような感じだ。あとすごく頑丈で、割と細身で軽いのにいくら杖で殴っても折れない。便利。

「!もちろん!」
「お前の武器…。…あ。」
「まさか…。」

私はハッとした表情のアレクとマリウスにニッと笑う。

「そう、伝説の杖を探しにね!」
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